音楽専門誌『ぴあMUSIC COMPLEX』連動企画

Web3.0で広がる音楽の未来。音楽NFTの話から、新しい音楽コミュニティの話まで!

PMC編集部

第21回

写真左から、平大助、Yuto Uchino、亀井聡彦

HIP LAND MUSICが運営するデジタル配信サービス「FRIENDSHIP.」が、グローバル音楽視聴エコシステムを開発することを発表。Web3.0(分散型ネットワーク)上に新たな音楽コミュニティを構築する「FRIENDSHIP.DAO」を始動した。現在、2022年のローンチに向けて、FRIENDSHIP.はもちろん、IT業界からWeb 3.0の専門家集団Fracton Ventures、さらにアーティストの声を反映するべく、The fin.のYuto UchinoやLITEの武田信幸もシステム開発に参加しているという。今回、平大助(FRIENDSHIP.)、Yuto Uchino(The fin.)、亀井聡彦(Fracton Ventures)の鼎談をお届け。今、話題の音楽NFTの話からアーティストとファンがダイレクトにつながる、音楽の未来を語ってもらった。

── まず、最近話題のNFTとは何か?というところからうかがいたいのですが。

亀井 NFTっていろんなとらえ方があって……アナログのモノだと初回盤とか限定盤、エディションナンバー(シリアルナンバー)などによって価値を定義できるんですが、インターネット上のデジタル情報ってコピーされるのも当たり前で、今まで誰のものか明確に定義できなかったんですね。それが、ブロックチェーン(暗号資産)の技術が浸透することによって、デジタルコンテンツに、ある種エディションナンバーがついているかのように、例えばYutoくんが持っているNFTと僕が持っているNFTは違うと定義できる。それぞれのNFTがデジタル空間のなかで唯一の情報=本物であると証明できるようになった。それって画期的なことで、今、インターネットの歴史上初めての事象が起きているんです。最近トレンドになっているメタバース上の土地の売買もすべてNFT。デジタル上の土地にも価値がついて、それが投資対象になっています。

── ゲームやアートの分野は、音楽NFTよりも進んでいますよね?

亀井 NFTの技術は以前からあったんですけど、1年前くらいにアートの文脈で、NFTアーティストのビープルさんの作品が約6935万ドルとかで落札されたんです。それをきっかけに、ゲームだけでなくアート界隈でも注目されるようになりました。

── では、音楽NFTを意識したきっかけは?

平 自分が意識したのは、ザ・ウィークエンドというアーティストが2021年に新曲を出したときにNFTのビジュアルアート作品を出して、総額200万ドル以上で落札されたというニュースでした。リスナーの感覚では「そんなの高くて買えないよ」「そういうものが果たしてほしいのか?」って、どこに価値を見出したらいいのか半信半疑のスタートで。頭ではわかるけど、とはいえ……という気持ちで。その気持ちは今もあるんです。ただ、レーベルのスタッフという立場では、アーティスト活動の新しい方法論が増えることはとてもいいことだと思っていて。いろいろ勉強していくと、アーティストがどういうファンベースを持っているかってアーティストの数だけあるように、音楽NFTの形も様々あるとわかってきました。

── アーティストの視点からは、音楽NFTにどのようなイメージがありましたか。

Yuto 音楽って、それ自体に形はないけれど、録音技術が生まれて、レコード、CDといった記録メディアと常に結びついて産業として発展してきたんですよね。それが、今度はインターネットの時代に入って、音楽ファイルのデジタル化、さらに、ファイル共有サービスが台頭してきた。違法ダウンロードなどの問題も生まれたけど、Spotifyのような音楽ストリーミングサービスが出てきて、アーティストにロイヤリティが入るようになったというのが今だと思うんです。でも、CDと比べて全然ロイヤリティが少ない厳しい現状があって、アーティストが食べていくのは大変な時代なんです。そういうなかで、NFTはアーティストにとっての希望の一つだととらえられることが多い。それは、音楽に限らずほかのデジタルアートもそうですよね。

亀井 例えば、NFTの100万円だったらコアなファン1人1万円×100人で売り上げが立つんですね。やりとりされる通貨もグローバルで共通で。でも、100万円を今の音楽ストリーミングサービスの再生回数で稼ぐとなったら、各社1再生当たり1回0.何円以下なので相当大変なんですよ。こうした、アーティストよりプラットフォームが強くなってしまっている状況は、技術革新の本来あるべき姿からズレてきてしまっている部分でもあって、インターネットの歴史のなかで指摘されるところなんです。

平 旧来のインターネットの環境では、ルールも機能も、プラットフォーム側が決めたもののなかでどう利用するのかという考え方だから、そうなりますよね。

── 音楽NFTで、今あるアーティスト活動にあてはめると、音源はもちろん、ファンクラブ、チケット、アートワーク、マーチャンダイジングなど、それぞれに応用できる?

Yuto ただ、そうやって「NFTはこれ」って限定して考えると逆に理解が遅くなるかもしれないですね。技術革新で便利になることはたくさんあっても、それで何をするのかを決めるのは、それぞれの考え方次第。今は、そういう技術をどう使っていくかを考えていくフェーズですね。

平 技術は開かれていて、それをどう使うか。NFTを所有するという一つの側面だけしか見ないと底が浅いものに見えるんですけど、「NFTの技術を使って、どう発展させるか」「そのおもしろみをどう定義するのか」っていうのを、NFTの発行人も自ら作れるっていうのが本当は一番おもしろいところだと思うんです。

亀井 実際には、音楽NFTだけでなく、新しいコミュニティのあり方としてのDAO(自律分散型組織)などを複合的に活用して、「Web 3.0という新しい社会トレンドのなかで、新しい音楽のとらえ方が生まれる」と広く考えたほうがいい。Web3.0の世界では、アーティストとユーザーの中間に入るミドルマンがいない世界だから、アーティストとファンの関係も近くなる。例えば、このNFTを持っている人しか入れないコミュニティも生まれるだろうし、いろんなコミュニティをシームレスに体感できるようになると思います。

Yuto 例えば、音楽フェスとかで、10年間NFTでチケットを発行し続けると、購入履歴をたどることができるから、10年間毎年来ている人限定のイベントが開けたりする。あとは、今、ファンが音楽を聴くために利用するサービスがありますけど、ファンが支払うのはプラットフォームに対しての980円で、The fin.のもとにファンの980円が払われたかはわからない。でも、Web 3.0は直接対価を送り合う、よりシンプルな形で、アーティストがちょっとでも長く活動できたりするサポートにつながると思うんです。

平 ファンによるアーティストのサポートって、たくさん音楽を聴く、SNSでシェアする、ライブに行く、物販を買うとか、いろいろあると思うんですけど、それ以外のサポートの形みたいなものが生まれるかもしれないですし、もっとリスナーとアーティストが直接つながって、サポートの方法にも選択肢が生まれますよね。

亀井 Web 2.0だとユーザーから見たときにすべての行動が消費だったんですけど、Web3.0だとすべてがある種、投資になるのがおもしろくて。つまりトークンは、株券的な要素もあり、会員権的な要素もあり、通貨的にも振る舞うと。寄付とかサポートすることもできて、将来的にそのアーティストの人気が伸びたときにNFTの価値自体も上がるっていう。

Yuto たぶんリスナーって、アーティストとの間にプラットフォームをはさむことによって、黙っていても新しい音楽はわいて出てくると思っている節があると思うんです。でも、こういう投資という概念では、好きな音楽に自分がお金を払っていかないと永遠に続かないんだよっていうことが、もっとリスナーにも意識として宿るのかなと。それってすごく大事なことで。自分が聴いている音楽へサポートして、つながりを持つというのは投資の考えと一緒なんですね。

亀井 アーティストががんばって生み出したものを消費して応援するのが今までの流れなんですけど、ここで言う投資というのは、お金だけじゃなくて、ファンによる宣伝行動であるとか、アーティストのためになる、すべてのユーザーとしての行動も投資にあたるんですね。そのアーティストの人気が伸びて、また曲を出すときに還元される仕組みが今と逆で、貢献する行動が先にあるので。

平 その貢献がNFTに蓄積されるのも美しい。

亀井 ブロックチェーンも含めて、すべてトレースされるんですよね。誰が聴いている、誰が買ったNFTっていうのが蓄積されるから。

平 だから、全方位にやりがいが生まれる。もちろん、SpotifyやApple Musicが悪だとは全然思っていなくて、ユーザーとして新しい音楽にたくさん出会えますし、そこで好きになる音楽も山ほどあると思うので。

後編に続く)

PMC編集部=取材・文 中野幸英(SKYLAB)=写真

プロフィール

平 大助(写真左)
FRIENDSHIP.キュレーター。ROCK DJ Partyの先駆け的な存在であるFREE THROWを主催する。過去3枚のコンピレーションアルバムのリリースや、「BAYCAMP」のDJブースのディレクションを担当する。

Yuto Uchino(写真中)
神戸出身、The fin.のフロントマン、ソングライター。The Last Shadow Puppets、MEW、CIRCA WAVESなどのツアーサポート、そしてUS、UK、アジアツアーを成功させるなど、新世代バンドの中心的存在。

亀井聡彦(写真右)
Web 3.0の専門家集団、Fracton Ventures株式会社の代表取締役。2013年より、シードアクセラレーター、コレクティブ・インパクト・コミュニティ、IoT特化ファンドにてスタートアップの投資、支援を行う。

「FRIENDSHIP.」
HIP LAND MUSICが運営する、カルチャーの前線で活躍するキュレーターたちが厳選した音楽をデジタル配信するサービス「FRIENDSHIP.」。デジタルを軸にアーティストが中心となったレーベルの新しい形を模索し、デジタルディストリビューションとPRが一体となったレーベルサービスとして2019年5月にスタート。日本の音楽をグローバルへ広げるコミュニティとして様々な取り組みを行っている。
https://friendship.mu/

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