音楽専門誌『ぴあMUSIC COMPLEX』連動企画
Web3.0で広がる音楽の未来・後編。音楽NFTの話から、新しい音楽コミュニティの話まで!
PMC編集部
第22回

写真左から、平大助、Yuto Uchino、亀井聡彦
HIP LAND MUSICが運営するデジタル配信サービス「FRIENDSHIP.」が、グローバル音楽視聴エコシステムを開発することを発表。Web3.0(分散型ネットワーク)上に新たな音楽コミュニティを構築する「FRIENDSHIP.DAO」を始動した。現在、2022年のローンチに向けて、FRIENDSHIP.はもちろん、IT業界からWeb 3.0の専門家集団Fracton Ventures、さらにアーティストの声を反映するべく、The fin.のYuto UchinoやLITEの武田信幸もシステム開発に参加しているという。今回、平大助(FRIENDSHIP.)、Yuto Uchino(The fin.)、亀井聡彦(Fracton Ventures)の鼎談を前編後編に分けてお届け。今、話題の音楽NFTの話からアーティストとファンがダイレクトにつながる、音楽の未来を語ってもらった。
(前編から続く)
── アーティストとファンの間にストリーミングサービスのようなプラットフォームを介していたものから、Web 3.0ではダイレクトにもつながれますよということですよね。
Yuto そうですね。ザ・ウィークエンドみたいな有名なアーティストがNFTで一攫千金というのはNFTのいい例だとは思うんですけど、自分はそこにはあまり興味はなくて、やっぱりファンと直接つながれるっていうところが一番の魅力だと思うんです。音楽活動していると、聴かれ方の深度って、それぞれに違っていて。The fin.のキャリアでアルバムが5枚あるとして、1枚目が好きな人と、5枚目が好きな人の音楽的嗜好って違う。例えば、それぞれに届ける音楽を替えてもいいし、新しい発想で曲作りもできるなと。リスナーとアーティスト同士で、お互いにもっとアクションを起こせる関係が築けるから、単純に意欲がもっとわいたり、曲の制作ももっと自由になる。本当の意味での、自分の音楽を中心としたコミュニティを作っていけるのかなと。
平 根源的な話ですけど、FRIENDSHIP.でアーティストの担当をしていると、100組いたら100組理想の活動って違うんですよね。でも、Web 2.0的な考えだと、砲丸投げが得意なのに100メートル走らされるみたいな(笑)。ただただ再生数という一つの基準で測られるような側面もありますよね。それぞれのアーティストが思う幸せなアーティスト活動みたいなものを、今の形だと受け止められる方法論がないのかもって。今、Yutoが言ったWeb 3.0での理想は、Yutoの理想で、もしかしたら違う形もいっぱいあって、それこそ一攫千金を狙っている人もいていいんですよね。
Yuto ザ・ウィークエンドも活動に大量の人間が関わっているから、自分に入ってくる最終的な利益って、もちろんすべてではないですよね。でも、自分が今まで築き上げてきたネームバリューがあれば、ミドルマンをはさまずにガッツリ取れるのがNFTで。そういう使い方も一つの正義。自分たちの知名度を一気に金額にしだしたみたいなのが今のNFTだと思うんです。でも、それって……。
── ビッグネーム以外のアーティストや新人は果たしてと。現代社会的な格差を感じますね。
Yuto 以前は、インディーアーティストはツアーを回って、各会場でCDを売っていたんですよね。直接ファンに売れてお金が入っていたんです。でも、Web 2.0の世界になるなかでCDが聴かれなくなって、SpotifyやApple Musicに変わって、インディーアーティストがすごくしんどくなった。でも、Web 3.0になったら、NFTを直接売買できるので、Web 2.0での格差が、もうちょっと緩和されるのかなと。だから、Web 2.0より未来は明るいんです。
亀井 僕は、FRIENDSHIP.というサービス自体がWeb3.0っぽいなと思っていて。
平 確かに。FRIENDSHIP.は、アーティスト、キュレーター、ライター、プロモーターといった専門家たちが集まって、アーティスト活動のサポートをしているんですけど、今取り組んでいる「FRIENDSHIP.DAO」も、アーティストが音楽で何を成し遂げたいかしっかりと汲み取って、もっといいものが生まれる土壌、長く続けられる土壌を作るのが、一番目指すべきところなんじゃないかなと思っているんです。
Yuto 社長の野村(達矢)さんも、当初からリスナーを巻き込みたいって言ってたよね。このシステムを使って、今までリスナーが受動的だったところから、もうちょっと能動的になっていくような体験を作りたいって。僕、DAOの前にも、HIP LAND MUSICという会社の中に、FRIENDSHIP.という新しい組織が生まれていく過程を見てきたんです。その構想って、立ち上げた山崎(和人)さんがずっと考えていて。The fin.のツアー中もずっとその話を一緒にしていたんですけど、ほんと、すごくWeb 3.0っぽい。The fin.は欧米やアジアでも活動しているんですが、向こうはエージェント・ベースな考え方なんですね。部署ごとに数字をたて理念が捻じ曲がらないよう、なければならなかったり、目的がぶれていくことも起こり得る会社という大きな単位ではなく、アーティストを真ん中に置いて、「マネージャーはこの人を雇う」「ツアーマネージャーはこの人を雇う」っていう感じで、それぞれのスペシャリストが携わる。人が主体になって動くんです。今、Web3.0で起こっていることって、社会が向かっている方向と同じだとも思っていて。アメリカではそれが当たり前に教育されていますけど、主体性を持って社会に対して動いていく流れが確実にあるから。
亀井 時代の流れですよね。DAOの定義はいろいろあるんですけど、いわゆる自律分散型組織といって、ビジョンや目的を共有するコミュニティがDAOで。例えば、ウクライナDAOという、ウクライナが公式で認めているDAOがあって、そこにダイレクトに仮想通貨を送って支援できるんです。今後、こうした有事にDAOができるのは当たり前になってくる。今年のトレンドはDAOで、IT業界だけでなく、かなり浸透していくと思います。
平 こういう話をしていると、結局、教育が大事という話になるんですよね。やっぱり悪知恵が働く人とかもいるから。
亀井 マルチ商法系に使われている例もありますからね。
平 これから、いろんなDAOが発展していくなかで、トライアンドエラーでブラッシュアップされていくと思うんですけど、FRIENDSHIP.の場合は本来の理念が捻じ曲がらないように、よくしていこうっていう善意がベース。ほんと、善意って大事だと思います。
Yuto 僕は、よくなると信じてる!
亀井 そうですね。勝者のプラットフォームや広告にだけお金が流れて、ユーザーが割りを食うみたいな感じも緩和されて、今後は、もっと自動的にお金が分配される仕組みとか増えていくんじゃないかなと思います。
平 Web 2.0のサービスがWeb 3.0の感覚を取り入れて、参入していく流れも絶対あると思いますしね。ドラスティックにすり替わるというより、並列にあったりするのかな。
Yuto いいあんばいで並走していけたら。こういう流れが来たら、Apple MusicもSpotifyも自然と変わっていって、僕らが考えたおもしろいことの決定版みたいなのをどーんと出してきそうな気がする(笑)。
── こういう混沌とした感じもリアルですね。
亀井 まだみんな気づいていないくらいの状況ですが、社会が変わるパラダイムシフトって言われるくらい大きなことが起きているんです。本当にインターネット初期みたいな状況で。Web 1.0のときにYahoo!を作ったような方たちも、今、みんな興奮していて。当時のようなカオスを感じていますよ。
Yuto おもしろいよね。実際、ワクワクするもんね!
PMC編集部=取材・文 中野幸英(SKYLAB)=写真
プロフィール
平 大助(写真左)
FRIENDSHIP.キュレーター。ROCK DJ Partyの先駆け的な存在であるFREE THROWを主催する。過去3枚のコンピレーションアルバムのリリースや、「BAYCAMP」のDJブースのディレクションを担当する。
Yuto Uchino(写真中)
神戸出身、The fin.のフロントマン、ソングライター。The Last Shadow Puppets、MEW、CIRCA WAVESなどのツアーサポート、そしてUS、UK、アジアツアーを成功させるなど、新世代バンドの中心的存在。
亀井聡彦(写真右)
Web 3.0の専門家集団、Fracton Ventures株式会社の代表取締役。2013年より、シードアクセラレーター、コレクティブ・インパクト・コミュニティ、IoT特化ファンドにてスタートアップの投資、支援を行う。
「FRIENDSHIP.」
HIP LAND MUSICが運営する、カルチャーの前線で活躍するキュレーターたちが厳選した音楽をデジタル配信するサービス「FRIENDSHIP.」。デジタルを軸にアーティストが中心となったレーベルの新しい形を模索し、デジタルディストリビューションとPRが一体となったレーベルサービスとして2019年5月にスタート。日本の音楽をグローバルへ広げるコミュニティとして様々な取り組みを行っている。
https://friendship.mu/

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