Mrs. GREEN APPLEが、5月21日と22日の2日間、神奈川・横浜アリーナで対バンライブ「Mrs. TAIBAN LIVE 2024」を開催した。DAY1は乃木坂46との2マン、DAY2はキタニタツヤ、imaseというラインナップ。PMC編集部では、『ぴあMUSIC COMPLEX(PMC)SPECIAL EDITION 3 Mrs. GREEN APPLE』をメインで執筆した布施雄一郎氏による、DAY1、5月21日のレポートを届ける。(DAY2のレポートはこちら)
まず、このイベントは、Mrs. GREEN APPLEが2023年にスタートさせた主催イベントだ。彼らも、バンド結成当初はたびたび対バンライブを行っていたが、早い段階で(フェスを除けば)ワンマンライブを活動の主軸に定め、昨年の「Mrs. TAIBAN LIVE 2023」が7年ぶりの対バンライブとして大きな話題を呼んだ。しかも、単なる他バンドとの共演というだけでなく、音楽ジャンルや世代も超えたMrs. GREEN APPLE独自視点による共演アーティストのセレクトは大きな注目ポイントであり、今年のDAY1は、トップアイドルグループ乃木坂46とのコラボレーションとなった。
いま、もっとも注目を集めているバンドの一つ、Mrs. GREEN APPLEと乃木坂46のライブということで、この日の横浜アリーナは、普段のMrs. GREEN APPLEライブとはまた違う熱気に包まれており、会場周辺は開演時間までに全員が入場できるのかと心配になるほどの混雑ぶりだった。この人混みすらもまた、ライブに向かう気分を高揚させてくれた。
一方、会場の中は、すでに多くのサイリウムが点灯されていた。大半は乃木坂46ファンが両手に持つサイリウムであったが、よく見ると、昨年夏に開催されたMrs. GREEN APPLEドーム公演「DOME LIVE 2023 “Atlantis”」グッズのペンライトもたくさん光っており、客席では両ファンの交流がもうはじまっているかのような光景だった。
3代目キャプテン梅澤美波を中心に繰り広げられたMCでは、メンバーにMrs. GREEN APPLEファンがたくさんいるという話題に。佐藤楓が「光のうた」、伊藤理々杏は「StaRt」と、それぞれがお気に入りの曲名を挙げると、会場からは大きな拍手が送られた。また川﨑桜が、乃木坂46の5期生が出演する音楽バラエティー番組『超・乃木坂スター誕生!』に大森元貴がゲスト出演した際、大森から「そのときの100%を出せれば100点だ」という歌のアドバイスをもらい、より歌が好きになったというエピソードを披露すると、その番組でも歌われたMrs. GREEN APPLEの「春愁」が乃木坂46によってカバーされた。
続いて、鼓動のような重低音が轟く中、ステージに登場したMrs. GREEN APPLE。真っ赤な照明から、巨大なLEDスクリーンの真っ白な逆光に切り替わると、シルエットとなった大森が右手を高々と挙げ、モールス信号のような電子音が鳴り始める。すぐさま“あれ”だとわかった客席からは、悲鳴に近い大歓声が湧き上がった。アルバム『ANTENNA』のオープニング曲であり、昨年「DOME LIVE 2023 “Atlantis”」の幕開けも飾った「ANTENNA」だ。若井滉斗(G)のエッジィに歪んだギターサウンドが観客の反応を確信へと導くと、藤澤涼架(Key)は笑顔で客席を見渡し、大森の「いけるか、アリーナ!」という言葉で、会場全体が一気にMrs. GREEN APPLEモードへ突入した。
この日のMrs. GREEN APPLEは、いつになくロック感の強いステージだった。華やかな乃木坂46とのコントラストを意識してのことなのか、それとも無意識な天性のセンスによるものなのかはわからないが、その時々でエンターテインメント性やアート性に注力したり、時にはキュートな側面を打ち出すなど数ある彼らの魅力の中でも、今回、ストレートにバンド感のカッコよさを押し出したステージは、どことなく大人の魅力にも満ちていた。対バンライブであるから、当然、観客の中にはMrs. GREEN APPLEのことを詳しくは知らない乃木坂46ファンもいる。そうした状況下で、あえてパブリックイメージとはまたひと味違う側面を押し出していくあたりに、今、Mrs. GREEN APPLEが持っている絶対的な自信が滲み出ていた。
しかもDAY1のセットリストは、“JAM'S”という愛称で呼ばれる彼らのコアファンが歓喜して喜んだ「ナニヲナニヲ」「SimPle」という、ある意味でレアな初期曲を立て続けに披露。真っ向勝負こそが対バンへの最大のリスペクトだと言わんばかりの選曲だ。でも、だからこそ、その心意気は観客にも十分に伝わったのだろう。JAM’Sはもとより、乃木坂46ファンもサイリウムのカラーをグリーンに変えてロックな演奏に応え、彼らも乃木坂46のステージと同様の盛り上がりでMrs. GREEN APPLEのパフォーマンスに歓声を上げていた。
そんな中でMrs. GREEN APPLEは、4月に配信リリースされた「ライラック」、彼らの代表曲である「青と夏」、ハードなサウンドでダークな世界観を表現する「Loneliness」、ジャジーなグルーブの「Feeling」とオープニングから8曲を立て続けに演奏すると、Mrs. GREEN APPLEの金字塔とも言うべき楽曲「Soranji」を圧巻の説得力で歌い上げる。Mrs. GREEN APPLEの本質がギュッと濃縮されたステージは貫禄にあふれており、観客は彼らのエネルギーに圧倒されっぱなしであった。
今年10月に開催が決定した神奈川・Kアリーナ横浜で8日間にわたる定期公演「Mrs. GREEN APPLE on "Harmony"」の発表、そして乃木坂46「ぐるぐるカーテン」のワンフレーズをバンドでカバーして会場を大いに湧かせると、ラストに「ケセラセラ」を歌い、DAY1の幕を閉じた。
とにかくこの日のMrs. GREEN APPLEは、乃木坂46と、彼女たちのファンに対して大いなるリスペクトを表明しつつ、同時にそれらにこびることなく、真っ向勝負で自分たちの王道を貫いていたように感じられた。そんな真摯な姿勢こそが、バトル的な空気感ではなく、むしろお互いがベストを尽くすという意味合いで、相乗効果的にクオリティの高いステージを生み出していたことは間違いないだろう(それはもちろん、乃木坂46の全力パフォーマンスがあってこそのことである)。そして何よりも、こうした異種格闘技的な対バンイベントを高いレベルでエンターテインメントとして成立させうるところが、イコール、今のMrs. GREEN APPLEが持つポテンシャルの高さと言えるだろう。
バンド結成10周年のアニバーサリーイヤーだった昨年、演劇的な要素も取り入れたアリーナツアー「ARENA TOUR 2023 “NOAH no HAKOBUNE”」とミセスワンダーランド的なドーム公演「DOME LIVE 2023 “Atlantis”」を立て続けに行ったかと思えば、シックな装いで原曲を大胆にリアレンジした「Studio Session Live」を動画配信し、年末から今年春にかけては、音楽劇とも言えるFCツアー「Mrs. GREEN APPLE 2023-2024 FC TOUR “The White Lounge”」を敢行したMrs. GREEN APPLE。ライブを行うたびに新たな表現に挑戦する彼らは、今回の「Mrs. TAIBAN LIVE 2024」を経て、次なる7月に開催のスタジアツアーは、アマチュア時代から続けている自主企画“ゼンジン未到シリーズ”の「ゼンジン未到とヴェルトラウム~銘銘編~」であることが告知されている。
その先に控えている、この日に発表された10月開催「Mrs. GREEN APPLE on "Harmony"」は、では一体どんなライブになり、彼らはどんな表現に挑戦するのだろうか。それを想像するだけでも、ファンはワクワクすることだろう。そうやって、“今”だけでなく、“未来”までも楽しみにさせてくれた、「Mrs. TAIBAN LIVE 2024」DAY1のMrs. GREEN APPLEであった。