2025年、THE YELLOW MONKEYの“ど真ん中”！『PMC』まるごと1冊THE YELLOW MONKEYのメインライター2名による「Sparkleの惑星X」最終公演のクロスレビュー【前編】

高橋智樹＝文　横山マサト＝写真

「去年の10月、まだまだ今よりも全然声出なくて、本当に続けられるんだろうか？と正直心配でした。けれど、みなさんの祈り、願い、そして歓声――いろんな周波数が、僕の細胞を活性化してくれて、どんどん声が出るようになりました。本当に感謝しています。THE YELLOW MONKEYの『本編』は、はじまったばかりです」

2025年6月13日、神奈川・Kアリーナ横浜――アンコール最後「JAM」の直前、吉井和哉（以下、吉井）はそんな言葉で万感の思いを語った。「JAM」がひときわ雄大に鳴り渡ったあと、メンバーが舞台から姿を消した瞬間、かつて経験したことないくらいに「次のツアーはいつだろう？」という寂寞感に襲われた。それだけ2025年のTHE YELLOW MONKEYは、ロックバンドとしての全能感にあふれていた、ということだ。結成35年の節目を超えて、レジェンドの風格ではなく「今」のロックバンドのダイナミックな輝きを放ちながら、THE YELLOW MONKEYは僕らの前に立っていた。最高のロックアクトだった。

最新アルバム『Sparkle X』を携え、足かけ9ヶ月にわたって日本中を巡った全国ホールツアー「THE YELLOW MONKEY TOUR 2024/25 Sparkleの惑星X」。「BLOCK.1」初日の神奈川・神奈川県民ホールと最終日の12月28日、東京・日本武道館、「BLOCK.3」の最終日、東京・NHKホール、追加公演「FINAL BLOCK」の終幕を飾った今回のKアリーナ横浜、と折に触れてそのライブの変遷を目の当たりにしてきたが、ツアーの熱気の高まりとともにコンディションを刻一刻と仕上げていく吉井の姿と、それに呼応するようにギアを上げていくバンドのたたずまいは、スリリングなほどの加速感と魅惑的なバイブに満ちていた。

ツアースケジュールを3つのブロックに分けて開催してきたツアー「Sparkleの惑星X」でTHE YELLOW MONKEYは、「BLOCK.1」では3rdアルバム『jaguar hard pain 1944-1994』、「BLOCK.2」では4thアルバム『smile』、「BLOCK.3」では5thアルバム『FOUR SEASONS』の楽曲群を、それぞれ最新作『Sparkle X』の世界観と織り合わせる形でセットリストを構成してきた。それによって、『Sparkle X』の楽曲のみならず、1990年代にリリースされた楽曲群――THE YELLOW MONKEYが苦闘の末にシーン最前線への手がかりを掴むに至った時代の音楽性とマインドが、あたかも今このライブの瞬間のためにあったのではないか？ という錯覚を覚えるほどのタフネスと訴求力を、現在のオーディエンスの体と心にダイレクトに叩き込んできた。

そして、追加公演として計5公演が実施された「FINAL BLOCK」の最終日、Kアリーナ横浜公演。冒頭の「アヴェ・マリア」を吉井（Vo・G）のボーカルとサポートキーボード＝鶴谷崇のピアノ演奏で荘厳に奏でたあと、菊地英昭（G／以下、エマ）、廣瀬洋一（B／以下、ヒーセ）、菊地英二（Dr／以下、アニー）が加わったところで、一転して「SPARK」でロックンロール極限炸裂！　圧巻のクラップとシンガロングを巻き起こし、さらに1stアルバム『THE NIGHT SNAILS AND PLASTIC BOOGIE（夜行性のかたつむり達とプラスチックのブギー）』からの「Chelsea Girl」へ……という序盤の展開の時点で、長年のファンはすぐに気づいたはずだ。NHKホール公演の時点で吉井自身が「一番やりたいメニュー」と明かしていた今回の「FINAL BLOCK」は、「『Sparkle X』と過去のアルバムとのマッシュアップ」ではなく、1996年に行われたTHE YELLOW MONKEY初のホールツアー「TOUR '96 FOR SEASON "野性の証明"」を、『Sparkle X』の楽曲群と重ね合わせた形で再現する企てだった――ということに。

「すごい、Kアリーナ！ エネルギーがやばい！」と思わず吉井も感嘆の声を上げるほどの満場の熱気を全身に浴びながら、『Sparkle X』の「罠」では時にサビのメロディをオーディエンスの大合唱に委ね、「もうわかってますよね？ 『野性』に戻ろうぜ！」のシャウトとともに会場をコール＆レスポンスの渦に巻き込み、1995年のシングル曲「Tactics」でなおも広大な空間の高揚感を増幅していく。吉井＆エマが肩を並べてアウトロのツインリードギターを鮮やかに奏で、続くハードロックナンバー「VERMILION HANDS」の骨太シャッフルビートをヒーセ＆アニーがぐいぐいと牽引していく。

本編後半の「天国旅行」で描き上げた凄絶な切迫感、「Four Seasons」で繰り広げた壮大なロックの地平。「ソナタの暗闇」で場内一丸となって生み出す痛快な狂騒感を、「MOONLIGHT DRIVE」から「ラプソディ」へつないで抗いがたい多幸感へとも導いていく――。野心と闘志がギアを合わせてバンドに破格の推進力を与えていた1996年「野性の証明」当時の充実感を、時代を超えた楽曲群のせめぎ合いと共鳴越しに、力強く新次元へと押し上げていく。まさに奇跡の時間だった。

「2022年の秋に、さらなる活動をはじめようとアルバムのレコーディングをすることが決まり、そんなときにドラマのタイアップの話をいただきました。そのとき、自分の喉に“ブラックスター”がありまして――」
あっという間に迎えた本編のラスト「ホテルニュートリノ」の直前、吉井はひと言ずつ噛みしめるように観客に語りかけていた。
「急遽、治療と静養が必要ということで……正直、とてもショックだったんですけど、同時にすごく覚醒しまして。いただいたドラマのストーリーと、これからTHE YELLOW MONKEYが次なる活動で表現する世界を書こうと思いました。自分の命がいつまでもあるわけではないと宣告されて本当に目の前が暗くなったんですけど、逆に光が見えたというか。やたら闘志に燃えた瞬間でした」
目に見えない願いや祈りの象徴としての「ニュートリノ」、それを宿す「ホテル」＝肉体、が一流になるか廃墟になるかは魂次第、という吉井の思いが、これまで以上に深く強く迫ってくる。

＜人生の7割は予告編で　残りの命 数えた時に本編が始まる＞――今までは「吉井の病の経験から生まれた切実なリリック」として受け取っていた、「ホテルニュートリノ」のシンボリックかつ感動的なこのフレーズが、この日は紛れもなく「自分のこと」として響いてきて、改めて胸が震えた。
＜詞の世界が作るものと、自分たちの立場とか環境とかがリンクして、また全然違うTHE YELLOW MONKEYになれたなあ、っていう感じは受けましたね＞……昨年11月、『PMC SPECIAL EDITION 6 THE YELLOW MONKEY』（2025.1.16）誌上で行ったメンバー全員インタビューで、再々始動後のバンドの現在地を語っていたエマの言葉が、この日のステージからも色鮮やかに立ち昇ってきた。

そして――アンコールの1曲目に披露されたのが、THE YELLOW MONKEYの26thシングルとして7月9日にリリースされる楽曲「CAT CITY」。TVアニメ『ニャイト・オブ・ザ・リビングキャット』オープニングテーマとして、『Sparkle X』と並行して制作されていたというこの「CAT CITY」は、「THE YELLOW MONKEY史上、最も凶暴で血みどろな歌詞でございます！」という吉井のあおりとワイルドなロックサウンドとは裏腹に、＜足音（ニャア）　聞こえない（ニャア）＞のコール＆レスポンスあり、＜ネコニャンパリ＞のリフレインあり、＜モフモフでたまらんぜ　ここを撫でてみな＞のキラーワードあり……というギャップに、思わず場内に笑いとシンガロングが弾けていた。

「CAT CITY」は、『Sparkle X』の「Exhaust」、さらには『Sparkle X -Complete Box-』（『Complete Edition』として配信中）に収録されていた「Kozu」と同じく、吉井作詞・エマ作曲のコンビによるもの。＜生まれたこと それで勝ちだよ＞と率直な思いを歌い感動を呼び起こした「Kozu」と、爽快なまでにキュートなワード満載の「CAT CITY」とがほぼ同時期に生まれていた――というあたりに、再々始動後のTHE YELLOW MONKEYの底知れないポテンシャルを感じるのは僕だけではないはずだ。

＜50代の終わりぐらいになってくると、作詞更年期みたいなのが起こるんですよ。「できねえな」とか、「歌いたいことはもうない」みたいな。でも、僕は歌いたいことをもらったので。「俺はこの状況で逆に『命を大切に』みたいな歌詞は絶対に書くもんか！」って思って。ここでひねっちゃる！　ここからが俺の勝負や！みたいな（笑）＞……前述の『PMC』誌面のインタビューでも、吉井はそんな言葉で自らの「これから」について語っていた。命と対峙し、物事の本質と向き合うことで、重力のしがらみから解き放たれ、聴く者を現実から解放する――。今のTHE YELLOW MONKEYは間違いなく、この上なくマジカルな場所に立っているのである。

「THE YELLOW MONKEY TOUR 2024/25 ～Sparkleの惑星X～」

2025.6.13 神奈川・Kアリーナ横浜

FINAL BLOCKプレイリスト
https://tym.lnk.to/sparkle_final

SINGLE info.

「CAT CITY」

2025年7月9日(水) リリース

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THE YELLOW MONKEY OFFICIAL STORE
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