6月13日、THE YELLOW MONKEYが神奈川・Kアリーナ横浜公演を開催。「THE YELLOW MONKEY TOUR 2024/25 ~Sparkleの惑星X~」のツアーファイナルを迎えた。このツアーは、昨年リリースしたアルバム『Sparkle X』(2024.5.29)を携え、10月15日神奈川・神奈川県民ホール 大ホールよりスタート。4つのBLOCKにわけられ、「BLOCK.1」が13公演、2025年1月からの「BLOCK.2」8公演、3月からの「BLOCK.3」9公演、そして5月からの「FINAL BLOCK」5公演というロングツアーとなった。
ぴあMUSIC COMPLEX(以下、PMC)編集部では、復活の東京ドーム公演にはじまり、結成35周年のメモリアルデーとなった東京・日本武道館公演(2024.12.28)までを網羅した2024年のイヤーブックとして、まるごと1冊THE YELLOW MONKEYを特集した『ぴあMUSIC COMPLEX (PMC) SPECIAL EDITION 6 THE YELLOW MONKEY』(2025.1.16)を刊行。今回、「その続きを」というわけで、「THE YELLOW MONKEY TOUR 2024/25 ~Sparkleの惑星X~」のファイナル公演について、同『PMC』のメインライターを務めた高橋智樹と青木優の2人によるクロスレビューを届ける。後編は、メンバー取材、10枚のアルバムレビュー、日本武道館公演レポート ほかを担当した青木優のレビューからどうぞ!
※前編はこちら
青木優=文 横山マサト=写真
「Sparkleの惑星X」、そのFINAL BLOCKの最終日は、THE YELLOW MONKEYの今の姿がとことんまで表現された夜になった。ただ、いつもと違っていたのが、アンコールに入り、吉井和哉がMCをはじめると、笑顔のヒーセ(廣瀬洋一)とエマ(菊地英昭)が両手でネコのポーズをとっていたことである。これは新曲「CAT CITY」に合わせたもので、客席からは「かわいい~」という声もあがっていた。
「『ニャイト・オブ・ザ・リビングキャット』という、ネコに襲われるとネコになってしまう、恐ろしいゾンビアニメのオープニングテーマをやらせていただくことになりました。こちらの、ほぼネコになっている菊地英昭さんが作曲しました。そして、お題をもらうとすごく寄り添った歌詞を書く吉井和哉が詞を書かせていただきました」
「THE YELLOW MONKEY史上、最も狂暴で血みどろな歌詞でございます! 気分が悪くなりましたら、すぐに近くの係員にお知らせください。サビは非常に難解なワードですけど、みなさんでも覚えられます!」
吉井がそう言ってはじまった「CAT CITY」は、エマのハードなギターと、彼の弟である菊地英二(以下、アニー)のドラミングではじまるロックナンバー。しかし、いざ歌がはじまると、会場の空気は少しずつ変わっていった。ビジョンには歌い出しから歌詞が映されている。〈もう諦めな そうこの街は/ヤツらに支配された〉……世界がネコに征服されている話のようだ。そして吉井が注意していたサビは〈ネコニャンパリ ネコニャンパリ ネコニャンパリ 今夜はパリ〉、さらに〈モフモフでたまらんぜ/ここを撫でてみな〉と続いていく。気分が悪くなるどころか、ついつい笑ってしまう。演奏後の客席からは大きな拍手! ここまで振り切ったタイアップ曲になっていることに、驚いた。
たしかにこのバンドはタイアップに取り組む際、いつもその対象の作品の世界をしっかりと取り込みながら楽曲に仕上げている。近年では「砂の塔」や「天道虫」、「I don't know」といった曲がドラマの主題歌として作られてきたし、最新アルバム『Sparkle X』からの先行シングルだった「ホテルニュートリノ」はドラマの内容と合わせながら深いテーマ性へと昇華させられている(この日、この歌がドラマ側からのオファーがあったことから生まれた話もされていた)。
しかし今回の「CAT CITY」の徹底ぶりは過去の比ではない。この曲について、作曲者であるエマは「後ればせながらこの歳になって個人的にアニメに爆ハマりしてます。数々のテーマソングを耳にするたび、いつかは是非とも手がけてみたいという欲求が膨らんでいたところにこの話で素直にうれしくてネ申!」というコメントを寄せている。彼がアニメにハマっていることは『PMC SPECIAL EDITION 6 THE YELLOW MONKEY』誌上でも話してくれたが、それがこうした形で作品化されたわけだ(なお、先ほどのコメントの最後の<ネ申>は、<ねもうす>の読みで今作の歌詞になっている)。さらにヒーセはアニメ側からの「本作は猫が活躍する作品ですが、『ニャンデミック』が起きたらどうしますか?」という質問に、「喜んで猫になって猫生をエンジョイして猫のために尽くします」と回答している。なるほど、喜々としてネコポーズをとっていただけはある。
それだけタイアップに寄せた「CAT CITY」をこの場で初めて聴いて、僕はほんとに笑うばかりだったのだが……ただ、ふと我に返ると、これは幸せな瞬間だなと思った。この数年は吉井の喉の病気と、そこからの復活をアルバムやツアーで表現してきた彼らだけに、それを受け取る側としては、どうしてもシリアスに、ヘビーにとらえるしかない局面が多々あったからだ。「CAT CITY」へのリアクションはリスナーやファンにおいてもさまざまだと思うが、パフォーマンス中、ハンドクラップや歓声の中に僕と同じような笑い声が混じっていたことも含めて、こんなふうな動きが続いていくこと自体が現在のTHE YELLOW MONKEYには何よりも尊く、大切な出来事であると感じた。
さて、この「CAT CITY」の披露はアンコールの1曲目で、直後はすぐに「SUCK OF LIFE」、そして「JAM」へと連なっていった。今夜においては、こうした流れもまた大切な流れだった。というのは、1996年のホールツアー「野性の証明」の存在があるからである。
すでに報じられている通り、このFINAL BLOCKは、最新アルバムの楽曲と、1996年に行われた全国ツアー「野性の証明」とのコラボという側面を持っていた。会場近辺で見かけたお客さんたちのツアーTシャツ姿の中に「1996」とプリントされているデザインがあったのは、このためである。
「このFINAL BLOCKは、THE YELLOW MONKEYにとって最も重要だった1996年の「野性の証明」という初のホールツアーのメニューの再現と、『Sparkle X』の楽曲のコラボレーションで、お届けしようと思っております」
ライブ中の吉井の言葉である。では「野性の証明」とは、どんなツアーだったのか? 1996年の5月から7月にかけ、全国のホールを回ったこの43本の旅は、今から思えば小規模の会場も、バンドが初めて訪れた土地も多かった。メンバーはことあるごとにホールでのライブが好きだと言っているが、彼ら自身、こうしたツアーの経験が自分たちの基盤を作っていったと認識しているのだろう。
そもそも1996年は、年の序盤にあの「JAM」がシングルリリースされた年だった(同年2月発売)。そう、当時バンドが契約を締結していた日本コロムビア/TRIADレーベル側が難色を示しながらも紆余曲折の末にシングル発売が決まり、最終的には大ヒットしたことで4人の代表曲となった。また、その次にはアッパーな曲を出すとレーベル側に約束し、その結果として突き抜けたロックナンバーの「SPARK」が生まれている(7月発売)。そして「野性の証明」のツアー中である初夏から夏にかけての彼らは、別のレコード会社への移籍を協議していたことがのちに明かされている(後日、当時のファンハウスへの移籍が決定)。「SPARK」のサビの<新しい何かが俺の中で目覚める世界は回る>には、あのころの彼らの心境が映し出されているかのようだ。
育ててもらったレーベルを去り、もはや怖いものなどないかのように新たな大海へと漕ぎ出していく、そんな野心に燃えていた若き日のメンバーたち。この後の4人が『SICKS』(1997年)によって名実ともにトップクラスのバンドにのし上がったことを思うと、あのツアーのころは彼らの青春が、若い野心が絶頂に達していた時期ではなかっただろうか。おそらく「野性の証明」というタイトルは、そうしたところから感覚的に名付けられたのだと思う。
ちなみに『野性の証明』とは作家の森村誠一による小説の名称で、一般的にはその映画が広く知られている。映画のほうは1978年の公開で、主演は高倉健。そして薬師丸ひろ子のデビュー作でもあり、いわゆる角川映画の初期作品だ。蛇足気味だが、この時代の角川映画は、THE YELLOW MONKEYの作品に若干影を落としている感がある。たとえば日本の片田舎を舞台に撮影された「BURN」(1997年)のミュージックビデオ(以下、MV)には、角川をはじめとした当時の日本映画特有の後ろ暗さが焼き付けられているような印象を受けたものだ。また、『Sparkle X』の最後を飾った重要曲は、角川が1980年に公開した映画『復活の日』と同じタイトルである。
話をライブに戻そう。1996年のツアー「野性の証明」の構成には、「JAM」と「SPARK」はもちろんのこと、「Tactics」(「JAM」とは両A面扱い)と「MOONLIGHT DRIVE」というそれぞれのシングルのカップリング曲が組み込まれていた。それは2025年の今夜においても同様だった。
あらためて今回のセットリストを見ると、まずは吉井が「アヴェ・マリア」(当時から今に至るまで音源がリリースされていない楽曲)を厳かに歌い、そこから激烈な「SPARK」へと転換するオープニングが圧巻だった。これも「野性の証明」の構成そのものだ。また「Tactics」ではタフなプレイを聴かせ、そして1996年当時は新曲として演奏された「天国旅行」(1997年のアルバム『SICKS』に収録)はエマの爆音ギターを中心にしたスケールの大きな演奏で、これもそれぞれ素晴らしかった。
さらに言えば、吉井がエマに対して「治安の悪いサングラスをかけていたこの方がこのバンドに加入して、初めて持ってきました楽曲でございます」と言って紹介した「This Is For You」をはじめ、「Chelsea Girl」、「VERMILION HANDS」、それにアンコールでの「SUCK OF LIFE」(インディーズ時代から存在する楽曲)という、メジャー初期のアルバム2作、『夜行性のかたつむり達とプラスチックのブギー』と『未公開のエクスペリエンス・ムービー』の楽曲たちも「野性の証明」からのセレクトだ。1996年当時、ブレイクを果たしたバンドとして前進を続けていた彼らが、自分たちがそれまでにやってきたことをライブの場であらためて叩きつけたかのような選曲は、この2025年においてはまた違う感慨とともに聴くことができた。「Sparkleの惑星X」のツアーでは3作目の『jaguar hard pain 1944-1994』から5作目『FOUR SEASONS』までのアルバムにスポットが当てられていたので、今この時代の曲たちが生で聴けたのも刺激的だった。
それから、そうした初期の匂いを別の形でよぎらせてくれたのは、前出の「MOONLIGHT DRIVE」である。「野性の証明」のときには、腰かけた吉井がイントロのピアノに合わせて「月がきれいだね」と夜のドライブに誘い、「俺たちと君たちは、死ぬまでひとつさ~」「月夜のドライブ!」と、芝居がかったセリフとともに演奏されていた。当時のこの部分はうんと色っぽい雰囲気で、それはシアトリカルだった初期のステージを想起させもしたほどだが、今夜はこれがずいぶんユーモラスに再現されていて、客席からは失笑いが起こったほど。ちなみに同曲は2020年の京セラドーム大阪や昨年春のファンミーティングでのアコースティック編成でも披露されているが、そのときはこのセリフの箇所は省略され、ドラムの演奏からはじまっていくアレンジだった。
このように、かつての彼らの姿が幾度も交錯した夜は、アンコールの「CAT CITY」、そして「SUCK OF LIFE」と「JAM」で全ての演目を無事に終えた。そしてメンバーたちが舞台中央に集まり、集合写真を撮影しているときに、ヒーセが再びネコポーズをとっていた。それは、ああバンドが動いているな、先に進もうとしているな、という事実を実感するシーンだった。若きころの自分たちの野性を、野心をもう一度確認しながら、『Sparkle X』を作り上げ、さらに次なる新曲ではこれまでにない姿を見せている4人。
生きている。THE YELLOW MONKEYは、生き続けている。
その行く先に、大人になったこのバンドの野心の向こうに、たくさんの幸が待っていますように。
「THE YELLOW MONKEY TOUR 2024/25 ~Sparkleの惑星X~」
2025.6.13 神奈川・Kアリーナ横浜
セットリスト
01. アヴェ・マリア
02. SPARK
03. Chelsea Girl
04. 罠
05. Tactics
06. VERMILION HANDS
07. This Is For You
08. Beaver
09. Make Over
10. 天国旅行
11. Four Seasons
12. ソナタの暗闇
13. MOONLIGHT DRIVE
14. ラプソディ
15. ホテルニュートリノ
<ENCORE>
16. CAT CITY
17. SUCK OF LIFE
18. JAM
FINAL BLOCKプレイリスト
https://tym.lnk.to/sparkle_final
SINGLE info.
「CAT CITY」
2025年7月9日(水) リリース
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