
インタビューが始まる直前。テーブルについた高杉真宙は、取材スタッフが動くより先に、その場にあったドリンクを手に取り、自分のコップについだ。その仕草がすごく自然で。たぶんこの人は誰かにコーヒーをつがれるのを待つのではなく、自分が飲みたいときに自分でコーヒーを入れる人なんだ、と思った。
高杉真宙は、いわゆる「芸能人」っぽくない。過剰にもてはやされるのも、恭しく扱われるのも好まないし、派手な私生活とか見栄にもまったくこだわらない。プライベートも、興味のあるもの以外、とことん無頓着。
そんな低温動物みたいな彼が、唯一熱を帯びるのが、作品と向き合うとき。高杉真宙は、大好きなお芝居にだけは妥協なくぶつかっていく。

── ここからは普段の高杉さんについて聞かせてください。自炊はしますか?
最近やっとするようになりました。これまでは断言してもいいくらいひとつもやらなかったんですよ。そもそもやりたくなかったし。自分がつくったところでおいしい料理ができるわけでもないし。それなのに手間もかかるし、外食と比べてそこまで安いわけでもないし、ほっといたら食材は腐るしで、すごい時間とコストがかかるわりには見合っていないと思っていたんです(笑)。
だからこれは無駄だなと思って。ずっと取材で聞かれても「やらないです」って言い続けていたんですけど、ここ最近ようやく。
── きっかけはなんだったんですか。
『ホメられたい僕の妄想ごはん』というドラマで料理をするシーンがあって。そこで練習させてもらってから、ちゃんとつくるとおいしいんだなということがわかりまして。そこから前よりは楽しくなりましたね。
── 得意料理はなんですか。
(原案の)『ホメられるとまた作りたくなる! 妄想ごはん』にも出てくる「たらことイカの塩辛スパゲッティ」ですね。すごく簡単なんですよ。今さら知ったんですけど、パスタってめちゃくちゃ簡単なんですね。基本、茹でて具材を入れるだけだから、全然手間がかからない。で、おいしいし。これはいいなと思って、最近よくつくっています。ナポリタンもつくれるようになりました!
── 食に対するこだわりはある方ですか?
おいしいごはんは食べたいです! でもそれを自分で行動してまで食べたいとは思わない(笑)。だから、基本、コンビニのご飯が多いです。
── 好きな食べ物は?
卵料理が大好きで。卵だったらなんでも!
── じゃあ、ふわとろオムライスは自分でつくれる?
いや~、無理ですよ~(笑)。あれがつくれる人になりたいですね。
── ちなみにオムライスは薄焼き派ですか? 半熟ふわとろ派ですか?
どっちも良さがあって選べないですね。基本、ケチャップが好きなんですよ。だから、ケチャップライスに卵を薄焼きにして包むあの昔ながらの感じも好きですし。

── 失礼ですが、わりと味覚はお子様とか……?
それは完全にありますね。唐揚げ大好き! カレー大好き! ハンバーグ大好き!
── 小学生の好きな食べ物みたいです(笑)。
そうなんです。おしゃれな味とかよくわからない。おいしければいいんです!
── 卵焼きの味付けはどれが好きですか?
僕、中にマヨネーズが入ってるのが好きなんですよ。あれうまいですよね。ふわふわになって。
── 卵とマヨネーズの組み合わせは最強ですよね。
完全に卵×卵ですけどね(笑)。卵とマヨネーズがすごい好きなんだと思う。調味料もよくわからないのがいっぱいあるけど、ケチャップとマヨネーズがあれば大体おいしいですよね。
── 家事はしますか?
嫌いです(笑)。本当、ダメ人間なんですよ。それこそ自粛期間とかめちゃくちゃ掃除してたんですけどね。洗濯もよくやりましたし。でも、自粛期間が明けたら全然ダメ。
僕、部屋の中が綺麗じゃなくても別にいいんですよ。物がなくなって探す時間が嫌いなので、リモコンとか財布とか鍵とか、そういうものだけ置く場所を決めておいて。それ以外は散らかっていても全然平気。汚さはあんまり目に入ってこないんです。
── 高杉さんと言うとインドアなイメージがあるんですけど、部屋が整理されてなくてもいいんですね。
問題ないですね。生ゴミさえ、ちゃんとしてれば大丈夫。洋服とか散らかっていても、とりあえず同じ場所にまとめておけばいいやってなっちゃうタイプです(笑)。
何かを育てるのが向いていない。サボテンも枯らしました(笑)

── 体づくりとかされます?
してたらこんなひょろひょろじゃないと思います(笑)。
── ほら。同世代の俳優さんとかよく筋トレしてるから……。
そうなんですよね。僕は完全にそこのラインからは外れています(笑)。
── 若手俳優あるあるで言うと、サウナにハマッている人も多いですよね。
サウナはもともと好きで。でも、「ととのう」っていう言葉があるんだっていうことを最近ようやく知りました。みんな、「ととのう」という感覚が味わえてこそサウナだって言うじゃないですか。それを知らなかった時点で、僕は今までちゃんとサウナに入れていなかったんだと思いました(笑)。
── ただ暑くなりに行っていただけ……(笑)。
そうそう(笑)。とにかく運動をしたくないんですよ。運動をせずに汗をかくためにサウナに行っていただけでした。でも、コロナ禍になってからサウナも全然行ってなくて。すっかり汗を流さない生活になってしまいました。
── 趣味はなんですか? ただし、漫画以外で!
え〜! だったらゲームをとります。なんだったら最近は漫画よりゲーム派です。
── インドア! アウトドアな自分になりたいと思ったことは?
常日頃から思ってはいるんですけどね。それで、最近、連載をやらせてもらって、吹きガラスとかジーンズづくりとかいろんなことに挑戦していて、どれも楽しかったんですけど。よく考えたら趣味としてやるにはどれもハードルが高いものばっかりなんですよね……(笑)。だから、できればもうちょっと継続しやすいものを探したいです。
── ビリヤードとかダーツとか?
一切しないです。
── カラオケとか?
歌、苦手なんです。
── ショッピングは?
物欲がないです。

── 八方塞がりだ……! あ、じゃあ結局インドアになっちゃいますけど植物を育てるとか。
いいですね、観葉植物。ただ、種から育てるみたいなサボテンがあって、それを1回やってみたんですけど、なんでか全然育たなかったんですよね……。芽は出たんですけど、芽からの成長がひとつもなくて、そのまま枯れちゃったんです。
── サボテンでさえ枯らしてしまうんですね……。
普通、枯れないらしいですね、サボテンって。しかも初心者セットを買ったんですけど、ダメでした。根本的に、何かを育てるのが向いていないんだと思います。
── じゃあ、犬とか猫を飼うのもダメですね。
飼いたいなとは思うんですけど、今の僕ではダメですね。もうちょっとちゃんとした人間になってからでないと……。
── 趣味を見つけるという意味では友達に誘ってもらうのがいいかもしれません。ほら、俳優仲間には車やバイクが趣味の人もいそうだし。
そういうのを誘ってくれる人が身近にいない、っていうのが大きいですね。
── 友達がそんなに多くないイメージはあります。
そうなんですよ。そもそも僕が外に出ないのも、根本的な破綻の原因がそこなんです。誰かに誘われるという前提がないから、自分で広げていくしかない。
── 自分から誘うとか……?
それができたらもっと友達は増えていたと思います(笑)。
休みの日は1日中ゲームをしています

── じゃあやっぱりゲームがいちばんですね。
ゲームは最高です。RPGとかキャラクターと一緒に生きている感じがするから、ひとりでも全然寂しくないですし。
── どういうゲームでよく遊んでいるんですか?
僕は『Apex Legends』とかFPS(操作しているキャラクターの視点で進んでいくシューティングゲームのこと)がメインですね。
── ゲームをやっていると性格が変わったりしますか?
みんなでやっていると大丈夫なんですけど、ひとりでやっていると結構変わります。「あ、そこ!」とか「うわー! 出たー!」とかわりと熱くなっちゃいますね。
── じゃあ、いずれeスポーツの大会に出てみるのも面白そうですね。
やってみたいなと思うんですけど、本当下手なんですよ、僕。ただ好きなだけで。うまくなりたいからやっているんですけど、一向に成長が見られない。しかもそれが別にミラクルが起こる下手さ加減でもないっていう、中途半端な下手さなので。配信とかしても絶望的になにもないというか、すごくつまらないものになると思う……(笑)。
── ちなみに、1日の最長プレイ時間は?
休みの日だったら延々できます。まず次の日が休みだっていう日は、夜帰ってきてご飯食べてお風呂入って寝る準備して、そこからゲームをします。普通に4時5時くらいまでやって、寝て、11時くらいに起きて、ゲームして、昼ご飯食べて、ゲームして、夜ご飯食べて、ゲームして、寝るみたいな生活ですね。
── 出歩いていない! ちょっと1日、万歩計をつけてほしいです。
いや、もう歩いてないですよ。本当、ひどいですから、僕。パソコン以外さわらない。ケータイも見ないですし。だから僕と付き合っても絶対つまらないと思う。LINEとかもいちいち見ないし、延々ゲームしてるんで……(笑)。
芸能人扱いされるのを当たり前に思う自分は見たくない


── お話を聞いていて感じたことなんですけど、高杉さんって芸能人として扱われるの、あんまり得意じゃないですか?
嫌ですね。よくわからなくなります。
── 今日もこちらがコーヒーを入れようとしたらその前に自分で入れたじゃないですか。それを見て、きっとそうなんだろうなと。
なんかしっくりこないんですよね。この仕事をしていると、周りがすごく気を遣ってくれるけど、そのたびにそういう人間じゃないもんな、と思っちゃう。
ただ、そうやって自分がやっちゃうことで、逆に周りのスタッフさんに気を遣わせてしまうこともあるから、難しいなと思うんですけど。場ミリ(立ち位置を示すためにテープなどでつけた目印のこと)とかも、スタッフさんがバタバタしているときは、自分で剥がしたりするんですけど、そうすると若手のスタッフさんが他の人に怒られたりするので。だから、なんでも自分でやることが必ずしも正しいわけじゃないというのもわかります。
── 10年以上芸能人をやっていて、一般人の感覚を持ち続けるのってすごく難しいことだと思うので、それができているのがすごいなと思います。
たぶん単純に見たくないんだと思います、そうやって丁重に扱われるのを当たり前みたいに思っている自分を。それは、この世界に入ったときからずっとそうでした。たとえこの先何年この世界にいたとしても、それだけは変わらないと思っています。

撮影/奥田耕平、取材・文/横川良明、企画・構成/藤坂美樹、ヘアメイク/堤紗也香、スタイリング/荒木大輔