若手俳優の登竜門であるミュージカル『テニスの王子様』で本格的な俳優デビューを飾り、ミュージカル『刀剣乱舞』や舞台『黒子のバスケ』『ロミオとジュリエット』など、数々の話題作へ出演。公開中の映画『サクセス荘』では、漫画家として成功(サクセス)を夢みる若者「ケント」を演じている。俳優・黒羽麻璃央は、はたから見れば“サクセスした”道を歩んでいるように感じる。しかし、「サクセスしたと思ったことはまだないかもしれません」と彼は話すのだ。
黒羽は何を思い、何を考え「俳優」という仕事と向き合っているのだろうか。俳優業を続けているからこそ抱く、喜び、苦しみ、夢──現時点で抱くさまざまな感情を赤裸々に語ってもらった。

── 黒羽さんの俳優人生の中で「サクセスした」と感じたタイミングを教えてください。
うーん。「サクセスした」と思ったことはまだないかもしれないですね。「無事に公演を終えることができた!」「千秋楽を迎えることができた!」とかはありますけど、「サクセスした」となると難しいな……。
── 例えば、「目標としていた役を演じられた」とか。
それでいうと、一番演じてみたいと思っていたミュージカル『ロミオ&ジュリエット』のロミオ役を今年演じることができました。
── 黒羽さんは2019年にもミュージカル『ロミオ&ジュリエット』に出演し、当時はマーキューシオ役を演じていましたよね。
はい。その時にロミオ役を演じていた古川(雄大)くんと大野(拓朗)くんの姿を見て、純粋に「すごいな」「この役を演じられるような役者さんになりたいな」とすごく思ったんですよ。
ロミオという人物はすごく魅力的ですし、しっかり技量が備わっていないと演じられない役柄です。「死ぬまでに演じられたら悔いはない」と思っていた役のトップ3に入っていたのが、ロミオでした。
ただ、それが自分の中で「サクセスした」となるかは別なんですよね。ニュアンスが違うというか……。
── いつ黒羽さんが「サクセスした」と思えるのか気になります。
僕が「サクセスした」と思うタイミングがもしあるとしたら、それは俳優の仕事を辞める時かもしれません。それか死ぬ直前かな(笑)。俳優の仕事をやり切ったと思える時が「サクセスした」思う時。だから、俳優の仕事を続けている最中は「サクセスした!」と思えないような気がしています。
── 真理ですね……。
あははは! いいこと風に言ってみました(笑)。
「お芝居が嫌だ」と思った回数は2万回……⁉

── 「サクセス」とは逆に、俳優人生の中で「挫折した」と感じたことはありますか?
「挫折した」と思うことばっかりですよ。稽古では怒られてばかりだったので……。「挫折した」という言葉が正しいかは分かりませんけどね。「もう嫌だ! 稽古場に行きたくない!」と思う瞬間は、これまで2万回くらいあったんじゃないかな(笑)。
── 2万回も……!
だって僕、メンタルがそんなに強くないですもん。だから、指摘されたり怒られたりするとすぐに「はぁ……僕ってお芝居のセンスがないんだな……」と思ってしまいます。
── 気持ちが落ちてしまった時、どう切り替えているんですか?
えぇ~。とことん落ち込むだけで、気持ちを切り替える方法はないですね! 時間が経つと自然に落ち着いていくとか。あとは、出演していた作品が終わったら切り替えられます。僕の性格上、楽しいこともつらいこともずーっと持ち続けてしまって。楽しいことを引きずれる時はいいのですが、つらいことを引きずるとずっと「もうダメだ……」となる(笑)。
実は本番中にポッキリ心が折れている時もありましたし……。そういう時は「早く終わってほしいな」と思っていますよ(笑)。簡単には切り替えられないです。
── でも、2万回も「もう嫌だ!」と思うタイミングがありながら、毎回逃げずに役を演じきっているのはすごいことですよね。
いやいやいや! 逃げたい逃げたい!(笑)。
だけど、逃げてしまったらご飯食べていけないし、生きられないじゃないですか。だから逃げられない。「もう嫌だ~」と思いながら、演じきるんです。自分で自分のことを現代っ子だなと思います(笑)。
── 役を引きずってしまうこともあるのでしょうか?
その時(稽古~公演中)演じている役はかなり引きずりますね。僕の演じている役柄って、追い込まれたり不運に巻き込まれたりすることが圧倒的に多いんですよ。演じる役柄が落ち込んでいると一緒に落ち込んでしまいます。
物語の都合上、ずっとハッピーでいられる役って少なくて。何かしらの挫折や困難がある中で這い上がっていく役柄の方が多いから、役を演じている時はしんどい時間が長いです。

「幸せだなと思える生き方をしたい」

── 現段階で構いませんので、黒羽さんの「サクセスしたいこと」を教えてください!
「サクセスしたいこと」かぁ……。なんでしょうね、「幸せだと思いながら生きること」ですかね。「幸せだな」と思う瞬間の多い人生を送りたいです。
── シンプルな願いですね。
うん。生きていて、幸せだなって思える生き方ができれば何でもいいかもしれません。
── 「幸せだと思いながら生きること」をサクセスさせる方法の一つに「役者のお仕事」も入っているのでしょうか?
それはそうですね! つらいな、嫌だなと思うことももちろんありますけど、やっぱり役者のお仕事はやっていて楽しいですかね。同時にすごくやりがいを感じます。
── 特に役者のお仕事をしていて楽しさ、やりがいを感じるのはどんな時ですか?
観客のみなさんにお芝居で感動を届けること、喜んでもらえること、楽しんでもらえること、それはすごく楽しくてやりがいを感じます。カーテンコールの時の「終わったー!」という気持ちや、千秋楽での「よっしゃー!」という気持ちもすごく楽しいですね。
こうやって役者の仕事に楽しさ・やりがいを感じられるから、なんだかんだ言いながらも結局お芝居が好きなんだと思います(笑)。

映画演劇『サクセス荘』は12月31日より全国公開
https://www.tv-tokyo.co.jp/success_soum/
撮影/奥田耕平、取材・文/阿部裕華、ヘアメイク/谷本明奈、スタイリング/帆苅球



