見た目や空気感は柔らかいのに、芯がしっかりしていて、揺るぎがない。
俳優・小関裕太は年齢以上に落ち着いていて、探究心が旺盛で、自分の世界を持っている人だった。
だけど、近寄りがたいなんてことは一切ない。撮影中も逆立ちをしたり、ソファの上でエビのようにまるまったポーズをとったりして、みんなを楽しませるお茶目な一面も。2021年は8本のドラマに出演。これだけたくさんの現場から求められるのも、その人柄があってこそだろう。
焦らず、伸びやかに、だけどしっかりと未来を見据えて。小関裕太は2022年も自分という人間を探究し続ける。
作品を通して、一人ひとりの「孤独」に寄り添いたい
── ミュージカル『The View Upstairs -君が見た、あの日-』が2月1日から開幕します。作品に入るにあたって、どんな準備から始めましたか。
まずは舞台であるニューオリンズを知ることから始めました。このお話は、ニューオリンズにあるゲイバー・アップステアーズ・ラウンジで起きた放火事件を題材とした物語。ちゃんとそこで暮らす人になれるよう、ニューオリンズという街がどんな街なのか調べたり、街の空気を知りたくて、Googleストリートビューでちょっと歩いたりしました。
── そんなこともされるんですか!
本当だったら飛行機に乗って現地に行きたいんですけどね。ミュージカル『わたしは真悟』のときは僕が演じるロビンという役がイギリス人だったので、実際にロンドンに行ったりもしたんですけど、今はそれができないので……。でも、アップステアーズ・ラウンジがどんな場所にあったんだろうとか、他にどんな建物があるんだろうとか、そういうことを知られるだけでも、ちょっとヒントになりました。
── 自分ではない人を演じるには、そうした生きた情報が手がかりになるんですね。
そうですね。あとは音楽も! ニューオリンズといえば、ジャズの本場。僕ももともとジャズが好きだったので親しみがありましたし、ジャズ以外にも舞台となる1970年代当時、ニューオリンズでどんな曲が流行っていたのか、知り合いのスタイリストさんにその時代の音楽にすごく詳しい方がいるので、オススメの曲を教えてもらって。あの頃、ニューオリンズで流れていた音楽を自分に染み込ませるという作業をしていきました。
── そうやって土地や音楽からニューオリンズを知っていくことで得たものは、言葉にするとどんなものですか。
地図で調べていただくとわかるのですが、ニューオリンズってアメリカの中でもかなり南部の街なんです。メキシコ湾に面していて、気候も温かい。そういうこともあってか、音楽も明るくアップテンポなものが多くて、元気になろうぜというメッセージを感じるような曲がたくさんあるし。実際、現地の日本人が書いているブログを読むと、性別についてもそれぞれが持っているものを認め合おうという文化があるそうで。すごくポジティブな街なんだな、というのが最初の印象でした。
でも、もっと詳しく調べると、根深い闇がこの街には根づいていて。その大元を辿っていくと、今回の題材となっているアップステアーズ・ラウンジ放火事件に行き着く。ゲイバーを標的に何者かが火を放ち、32名もの人が亡くなった悲しい事件です。この事件については記事を読めば読むほど心がえぐられそうになって、何か言葉にするのも苦しいくらい。どの作品もそうですけど、決して軽率に演じることができない役だなと思っています。
── 確かに、演じ手としては背負うものが大きい作品です。
最初に企画書を読んだとき、「多様性」という言葉がぴったりだと思ったし、この時代だからこそ観てほしい作品だと思いました。でも、今はちょっと違うんです。
── どういうことでしょう。
「多様性」っていろんなところで使われていますし、実際僕もよく使いますけど、なんだか流行りみたいになっちゃって、ちょっと言葉の意味が軽くなってしまった感じがしたんですね。
今はそれよりも、観に来てくれた方の「孤独」に寄り添うことができればと考えているんです。性別のこと、障害のこと、何か引け目を感じていることだったり、ちょっとした一言で傷ついて今も消えないことだったり。そういうのって、大きい小さいにかかわらずみんな何かしらあって、世界中の誰もが共通して「孤独」を抱えていると思うんです。
この作品に出てくる登場人物たちもみんな「孤独」であることが大きかった。きっとそこに観た方は何か感じ取るものがあると思う。それはグッと来るようなものかもしれないし、もしかしたら人によってはちょっとキツいなと思うものかもしれない。
でも、この作品を通して、そういう一人ひとりの「孤独に寄り添う」ことができれば、きっと今この作品を上演する意味が見えると思うんです。
「孤独」が好き。2週間半はひとりでも平気です(笑)
── 小関さん自身も自分の中に「孤独」がありますか。
このテーマに辿り着いてから、僕も自分と重ねて考えてみたんです。そしたら、やっぱり自分にも「孤独」はあるなと思いました。
── これだけ豊かで、いろんなコミュニケーションツールがあるのに、なぜこんなに現代人は「孤独」なんでしょうね。
あるからこそ、逆に「孤独」を感じちゃうというのもありますよね。つながっているようで、つながっていない。久しぶりに会った人と喋っていても、なんで久しぶりに感じないんだろうと思ったら、そういえばTwitterでこの前もやりとりしたわみたいなことって、きっといろんな人が感じたことがあると思うんですけど、それもどうなんだろうと引っかかったり。
── わかります。なんか、ちょっともったいない感じがするというか。
そうなんですよ。昔だったら距離が離れたりして、そう簡単に会えなくなった人のことも、会えないからこそ忘れないというのがあったと思うんですけど、今は単純に普段からよく目にしているから忘れないっていう感じになっていて。それはいい部分ももちろんあるけど、なんだか現代的だなと。
── 小関さんは「孤独」で苦しくなったときはどうしますか。
それが僕は「孤独」が好きな方なんですよね。今でこそ先輩だったり友人だったりと飲んだり連絡を取り合ったりするようになりましたけど。特に学生時代はひとりの時間があればあるだけうれしいっていう人間で、ひとりの時間が好きという気持ちは今もずっとあります。だから、あんまり「孤独」を悲観的に捉えていないかもしれない。
── それは、お写真だったり、ひとりでやれる好きなことがいっぱいあるからですか。
そうですね。確かに写真を目的に旅に出るときに誰か人がいると、「別に気にしないよ」って相手に言われても、こっちは気にしちゃうので、ひとりの方が楽ですし。あとは仕事柄、普段から自然と人が周りにたくさんいるので、あえてひとりの時間をつくる必要があるのかもしれないです。
── 最長何日間ひとりでいられますか。
2週間半! ニューヨークにひとりで行ったときも、それこそさっき言ったイギリスも2週間ぐらい行っていたんですけど、全然「孤独」じゃなかったので、2週間半は平気だと思います(笑)。
── ホームシックになることもなく。
そうですね。僕、もともと周りに物が多い性格なんですね。でも物であふれていると、あれもやろうこれもやろうって、すごく気が忙しくなっちゃうので、なるべく物を減らすようにしているんですけど、ホテルに行くときって最少のものしか持っていかないじゃないですか。それが落ち着くので、好きなんですよ、ショートステイとか。
出発前に向こうで何が必要で何が必要じゃないかを考えていくうちに、思考が切り替わって、向こうで生活する自分になっていくんですね。だから寂しさも特になく。その感覚は自分でも面白かったです。
ただ出演するのではなく、作品をつくる気持ちで現場に臨む
── いよいよ2022年が始まりましたが、2021年のお仕事を振り返るといかがでしたか。
本当にたくさんの作品に出演させていただいて、ありがたかったですね。おかげでうれしい出会いもたくさんありましたし、マブダチと呼べるくらい距離が近づけた人もできて、また新しい自分を知ることの多かった1年でした。
一方で、本当にいろんなお仕事をさせていただいた分、もどかしい場面も何度かあって。たとえば写真のお仕事だったら、本当はロケハンをしてから撮りたいんだけどスケジュールの関係でなかなかそれができなかったり、あとは自分の技術がまだまだ足りないなと感じたり。役者以外の、音楽や写真の部分では悩むことも多く、歯車が100%うまくまわっていたかというと必ずしもそうではなかったなというのが正直な感想です。
でもそうした反省点は、もっとこんなふうにやりたいという伸び代でもあるので、2022年はそこをもっと頑張っていきたいです。
── 本当に多彩なジャンルで活躍されていますが、やはり表現することが好きなんでしょうか。
そうですね。もちろんベースは役者です。でも、写真のお仕事をしていたら、たとえばカメラマンの役をいただいたときに何か感覚が活きるところがあるかもしれないし。司会のお仕事をさせていただいているんですけど、それも司会者の役が来たときに何か活かせたらという気持ちがあるので、最終的には全部お芝居につながっているんだと思います。
たぶんちょっと欲張りなんですよね。より多くの自分の一面を知りたいし、まだ知らない感覚を知りたいという気持ちが強い。その欲が、いろんなものに対する興味を生んでいるんだと思います。
── 2021年のお仕事を見ていると、連ドラの途中から参加する役が多かったなと思っていて。それは、きっとここに小関くんが入ってくれると安心するというつくり手の信頼があるからだと思っています。
ありがたいですね。これは今だけの感覚で、これから変わっていくかもしれないことですが、現場で大切な存在でありたい、いるべき存在でありたいなっていうのは最近強く思います。
僕はただ出演するというより、作品をつくるという思いで参加しているので、つくり手の方々と一緒にものづくりをしている時間が楽しくてしょうがないんですよ。だから現場にいてほしいよねとか、小関くんがいたら締まるよね、空気が変わるよねみたいに言ってもらえたらすごくうれしい。
そのためにも、ただフワッと現場に行くんじゃなくて、ちゃんと意志を持って参加すること。そういう意識の違いが、現場のみなさんから求められる存在につながっていくのかなと思って最近は過ごすようにしています。
撮影/古川義高、取材・文/横川良明、ヘアメイク/EMIY、スタイリング/吉本知嗣、衣装協力/ジャケット¥63,800、カットソー¥12,650、パンツ¥30,800(全て ラッド ミュージシャン/ラッド ミュージシャン 原宿 ☎︎03-3470-6760)
その他スタイリスト私物 ※全て税込み価格