
一緒にいると友達みたいに楽しくて。でも、ふとした瞬間に見せる男っぽい表情にドキッとさせられる。
矢部昌暉はそんなふうに「面白い男の子」と「カッコいい男の子」の両方を自由に行き来しながら、私たちの心を掴んで離さない。
おかげで、気づけばどんどん夢中になる。最高にチャーミングで、最高に罪づくりな矢部昌暉。その魅力をロングインタビューでたっぷりお届けする。

── 結成10周年のメモリアルイヤーを迎えたDISH//。今年に入ってからは、過去楽曲をリテイクする「再青」プロジェクトも展開中です。
SNSやサブスクが全盛の今の時代では、新曲だから聴いてもらえるとは限らない。昔の曲でもいい曲であれば聴いてもらえるし広がる時代ですよね。それは『猫』で僕たちもすごく実感していて。DISH//には、他にもいい曲がたくさんある。そういう曲をもっといろんな方に知ってもらえたらなという想いが、「再青」プロジェクトには込められています。
── この4月は『勝手にMY SOUL』と『虹のカケラ』の2曲を配信リリースしました。『虹のカケラ』が発表されたのは2015年。当時、何を考えていたか覚えていますか。
本当に何も考えずにやっていましたね。たぶんその当時の矢部昌暉くん的には考えていたんでしょうけど、今思えば何も考えてないなみたいな。でも、楽しんでいたとは思います。じゃないと、ここまでやってこれていないと思うので。
── DISH//は結成当初はいわゆるエアバンドでした。そこから自分たちでこうやって楽器を弾いて、ロックバンドとして男女を問わず支持を集めるようになるまで、相当練習されたんだろうなと思います。
練習もそうですけど、僕たちの場合、本番をやり続けたことがいちばん大きかったと思います。たとえ上手く演奏できなくても、ステージの上に立ってお客さんの前で演奏をする。その経験が、僕たちを大きくしてくれた。技術的なことで言えば、他のアーティストさんと比べたらまだまだ全然足りていないと思うんです。
でも、本番での総合的なパフォーマンス力で言ったら負けてないなとちょっとは自信を持てるところがある。それは、たとえミスしてもたくさん本番に立ち続けたから。本番はお客さんがいて120%の力が出せる。120%の力を求められる本番の経験が、自分たちを鍛える成長の場になっていたのかなって。
── ギタリストの指になったなと感じた瞬間はありますか。
指が硬くなってきたときは、「これがよく話に聞くやつだ!」と思いました(笑)。でも、一定の硬さを超えると元通りになるんですよ。ずっと弾いていると柔らかくなるらしくて。最初、「え? なんでこんなに弾いてるのにこんなに柔らかくなっちゃったの?」ってショックを受けたんですけど、今は「もしかしてこれがギタリストの指なんじゃ?」と思っています。

── リスペクトするギタリストは誰ですか。
いろんな人がいますけど、やっぱりすごいなあと思うのは、プロデューサーの新井(弘毅)さん。リハーサルの休憩中とかにメンバーのギターを持ってビロビロ〜ッて弾いてるんですけど、えげつないくらいうまくて。思わずギターを弾きたくなくなります(笑)。
── DISH//の音楽活動を通じてやりたいこと、DISH//だからできることってなんだと思いますか。
音楽には本当にパワーがあると思っていて。僕らの曲を聴いて元気になったとか勇気をもらったとか言ってもらえることが、僕らの力にもなっています。だから、曲を通じて、人を笑顔にしたり、元気にしたり、そういうことをこれからもずっとやっていきたい。
あとは、嘘をつきたくないということはみんなでよく言っていて。僕ら昔から生意気で、やりたくないことは嫌ですって言っちゃうんですよ。僕らが嘘をついてやっているなというのは、見ていてもわかる人にはわかっちゃうと思うので。だから、自分たちが面白いなと思うこと、やりたいなと思うことを、素直にやる。そこはこれからもずっと大事にしたいです。
── 紅白出場も果たし、バンドとしてもまた一段上のステージに立ちました。
本当に感謝の気持ちでいっぱいです。でもやっぱり着実に力をつけて、自分たちの望むステージに立ちたいっていう想いが僕らにはあるので。今、ありがたいことに『猫』でたくさんの人にDISH//を知ってもらえて、『沈丁花』だったり、この「再青」プロジェクトでも『birds』が素敵な曲という声もたくさんいただけて、うれしい話はたくさん聞くんですけど、感謝の気持ちは持ちつつ、そこに浮かれないように。絶対足元はすくわれないぞという思いを持ってやっていきたいです。
── その堅実さというのは、やはりみなさん長くこの世界でやってきているからなんでしょうか。
そういう面もあるかもしれないですけど、僕らの願いは4人でずっと音楽を続けていくこと。だから、あんまり近いことは考えていないんです。見ているのは、もっと遠い先のこと。出す曲全部僕らはいい曲だと本気で思っているので、そんなふうに自分たちがいいと思う音楽、やりたいと思えることにこれからも正直にやっていけたらなと思っています。
『ジェイミー』で新しい芝居のやり方を身につけた

── 音楽活動の一方で、俳優としても着々とキャリアを積み重ねています。特に自分を成長させてくれた作品というと、何が浮かびますか。
この仕事って普通じゃできない経験がいっぱいできるんで、本当にひとつひとつの現場が成長させてくれるなと思うんですけど、最近の中で言えばやっぱりミュージカル『ジェイミー』は大きかったですね。僕にとって初ミュージカル。いつかはやりたいなと思いつつ、でもそれはもっとお芝居のことを勉強してからだと漠然と思っていたので、最初にお話をいただいたときはどうしようか迷ったりもしたんですけど。
でも迷うっていうことは、やりたい気持ちがある証拠。本当にやりたくないならやらなくていいと思うんですけど、1ミリでもやりたい気持ちがあるならやった方がいいなって。初めての現場って今まで培ってきたものが活かされるところもあれば、全然通用しないところもあって。でも絶対に何かしら新しい考えや価値観が自分の中に入ってくる。それが自分の成長につながるはずだと。自分を成長させてくれる場を自分から遠ざけるのは良くないなと思って、やろうと決めました。
── 演じたディーンはいわゆる嫌われ役。どんなところが難しかったですか。
僕がああいう役をやると、チンピラみたいになっちゃうんですよね(笑)。チンピラ風にならないようにギリギリのラインを攻めるのが難しかったです。
── そのせめぎ合いはどう調整していくんですか。
まずは思い切りやって、そこから抑えていった方がいいだろうなというところを削っていく作業でした。
あと演出家の先生が外国の方だったので、進め方が日本人の演出家さんとはまたちょっと違っていて、そこについていくのも難しかったかな。周りの先輩方は海外の演出の方にも慣れているから、すぐに対応できるんですけど、僕は慣れるのにちょっと苦労して。
しかも、英語なんてまったくわからないから、コミュニケーションはだいたいフィーリング(笑)。もう勢いで身振り手振りでバーッてやって。それを勢いのまま通訳さんが訳すという。最終的には、なんとなくこういうことが言いたいんだろうなということが表情から伝わってくるようになって。言葉はわからなくてもなんとかなるんだなと思いました(笑)。

── 『ジェイミー』を経て成長した部分はどこでしたか。
新しいお芝居のやり方が自分の中に入ってきたなという感覚はあります。単純な話で言うと、台詞のやりとりのテンポ感とか、そういうことなんですけど。
── ぜひ詳しく聞きたいです。
人と喋っているときって、たとえば「〜〜ですよね?」と聞かれたら、わざわざ言葉尻まで待たなくても、この「〜〜」の終わりあたりぐらいで、こっちの心の中では「はい」とか「いいえ」とか答えが決まっているじゃないですか。そういうリアルな気持ちの動かし方というのは『ジェイミー』で鍛えられた気がします。
海外の作品って会話がめちゃくちゃスピーディー。このテンポ感を成立させるには、僕も「〜〜ですよね?」の「〜〜」でちゃんと反応できなきゃいけなかった。いかに早く反応できるか、気持ちをそこに持っていけるかを試されていたし、この会話の緩急は他の作品でも使えるだろうなと思いました。
── 歌についてはどうでしたか。
歌があることによって、作品にどんな効果がもたらされるか。ミュージカルの基本を1から10まで学ばせてもらいました。初ミュージカルではあったんですけど、『ジェイミー』の楽曲はミュージカル調という感じではなくポップスだったので入り込みやすかったですし、僕のパートはメロラップみたいな感じだったので、そこは結構スムーズに入れたかなと思います。

DISH//のメンバーとはほぼ毎日連絡を取り合っています

── DISH//でいえば北村匠海さんも俳優業をやっていますが、2人でお芝居の話をすることもありますか。
そんな深い話とかはしないですけど、たまにしますね。僕と匠海のやれるキャラクターってタイプが真逆なんですよ。匠海は何を考えているかわからないような役だったり、クールで物静かな役が得意なんですけど、僕はそういう役ができないので、「ああいう演技ってどうやってんの?」って質問のし合いをしたりしています。
── 2人でがっつり共演もやってみたいですか。
う〜ん。それはないかもしれない(笑)。
── それは距離が近すぎるからですか。
そうですね。DISH//で一緒にやってるんだから、他の作品でもわざわざ一緒じゃなくてよくない?みたいなところはあります。これは匠海に限らずですけど、(橘)柊生にしても(泉)大智にしてもおのおのが輝ける場所で輝けばいいと思っているので。そこがたまたま一緒になったら、それはそれでいいと思いますけど、あえて一緒になりにいく必要はないのかなと。
── そんなそれぞれのソロ活動について、矢部さんはどうご覧になっているんですか。
今まさに僕が舞台をやっていて(取材は3月上旬)、匠海も舞台をやっていて、柊生も大智も曲をつくったり、DJイベントとかドラムのサポートをやったり。そうやってみんなが頑張っている姿を見ると僕も頑張ろうって刺激を受けます。で、久しぶりに集まると、やっぱりここが家だなって思ったり。みんながそれぞれの場所で何かしら成長して、またDISH//という場所に帰ってくるのが、なんか楽しいです。
── それぞれ忙しくなって、全員で集まる機会もだいぶ少なくなっているんじゃないでしょうか。
そうですね。今年に入ってからだと、1月が2回ぐらいしか集まってなくて。2月も1回ぐらいかな。
でも、ほぼ毎日連絡は取り合っています。曲を作ったら共有して。うちは匠海と柊生が思いついたことをポンポン喋るタイプで。僕と大智は考えて考えて喋るタイプなんですよ。なので、打ち合わせでもフラッシュアイデアをポンポン出してくるのは匠海と柊生の2人で、僕と大智は前々からじっくり考えてきたアイデアを持ってくる感じです。

相性がバチッとハマッた瞬間は、運命なんじゃないかと思う。

── では最後に素の矢部さんがわかる質問をいくつかさせてください。肉派ですか? 魚派ですか?
若い頃は肉が圧倒的に好きだったんですけど、大人になって魚の良さがわかるようになってきて、今はすっかり魚が好きになりました。タラの西京焼きが最高ですね。絶対に自分ではつくらないですけど(笑)。
── 食生活で気をつけていることは?
毎日野菜を食べるようにはしています。コンビニでシーザーサラダを買ったり。キャベツの千切りがまるまる1パックで売ってたりするじゃないですか。それを買ってきて、ドレッシングをぶっかけて、箸でかきこむみたいなことはよくやっていますね。野菜に関しては生野菜でも温野菜でもなんでも食べます。
── 家の中のお気に入りゾーンは?
トイレです。狭い個室空間って落ち着きますよね。
── 男女の友情は成立すると思いますか。
僕はしないと思いますね。これ、年齢も関係あると思うんですけど。もうちょっと大人になると、そういう関係もあるとは思いますけど、今の年齢だとまだないかなあ。
── ひと目ぼれはアリですか?
それはありますね。ひと目ぼれって外見も少なからずあると思うけど、それ以上になぜかわからないけどこの人に目が惹かれるなっていう、フィーリングというか、その人の醸し出してるオーラに目がいっちゃうことってあると思うんですよ。そういうものには逆らえない気がします。
── では、運命の恋ってあると思いますか。
あると思います。友達同士でも合う人合わない人があるんだから、恋愛だって絶対に相性ってあると思う。相性がバチッてハマった瞬間、これは運命なんじゃないかなって思う気がしますね。


撮影/奥田耕平、取材・文/横川良明、ヘアメイク/佐鳥麻子、スタイリング/佐々木翔、衣装協力/コート、カーディガン、パンツ「スタイリスト私物」、
中に着たトップス「クルニ / シアン PR」、
シューズ「アー・ペー・セー / アー・ペー・セー カスタマーサービス」、
メガネ「ユウイチ トヤマ / オプティカルテーラー クレイドル青山店」