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BOYSぴあSelection 第56回 塩野瑛久

塩野瑛久「自分から行動を起こしたことで自信が持てた」

全1回

特集

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塩野瑛久は、美しい人だ。

でもその美しさは、決して見た目によるものだけではない。彼の内側に宿る気骨が、塩野瑛久を美しくさせている。

映画『HiGH&LOW THE WORST X』で、当たり役となった小田島有剣を再び演じた塩野瑛久の、俳優としての現在地に迫りたい。

── 久々に小田島を演じてみていかがでしたか。

やっぱり久しぶり感はありましたね。また鳳仙(学園)の制服に袖を通せるのがうれしかったですし、こうして小田島を演じることができるのもすごくありがたかった。髙橋(ヒロシ)先生に感謝ですね。

── 鳳仙の制服を着て、あのヘアスタイルになるとスイッチが入るところがありますか。

身が引き締まりますね。特に今回は、全体のクランクインが鳳仙だったんですよ。僕らがエンジンをかけていかなきゃというのは、なんとなくみんな感じていて。だからと言って、すごく気を張るわけでもなく。楽屋でヘアセットを終えたタイミングでみんな顔を合わせたんですけど、あのときの空気が一気に甦って、そこからずっと会話が止まらないみたいな(笑)。そこでまた帰ってきたんだなというのを実感しました。

── 今回の小田島は、何と言っても轟洋介(前田公輝)との関係性が見どころのひとつです。

僕も最初に台本を読んだときはびっくりしました。僕の中では結構いがみ合っているというか、お互い煙たがっているのかなというイメージだったんですけど、意外な共通点があって。ここは髙橋先生が付け足された設定らしく、髙橋先生が2人の関係にこだわってくださったことが意外だったし、うれしかったです。なので僕も公輝くんも、轟と小田島の間から表面的だけじゃないものが醸し出せればいいなと思いながらつくっていきました。

── 今回、小田島を演じるにあたって特に大事にしたことは何ですか。

オフィシャルでは一応出てるんですけど、作中で描かれてない設定として、シダケン(志田健三、演:荒井敦史)と幼なじみというのがあるんですね。そこを今回はすごく大事にしました。実は今回、後半のある台詞が現場で消されてしまったんですよ。それが内心僕はすごくショックで。その台詞があることで鳳仙が戦う意味が伝わるかなと思っていたので、別のシーンで改めてノリさん(監督の平沼紀久)に「最後のここであの台詞を入れていいですか」と話をして、本来台本にあったのとは別のところに改めて入れ込ませていただきました。

── その台詞が何なのかは本編を見てのお楽しみですね。

そうですね。やっぱり今回のストーリーの主軸は鳳仙とは別にあるので、ともすると鳳仙の存在理由が抜け落ちてしまう瞬間があるんじゃないかと思って、最後に締めとして入れたかったんですよ。

── 「なんでこの人たちは喧嘩してるんだっけ?」になってしまってはいけないと。

前回も志尊(淳)くんが沢村(正次、演:葵揚)の血がついた上着を着ることを大事にしたように、彼がいない分、そこは大事しなきゃいけないなという気持ちはありましたね。

── 志尊さん演じる上田佐智雄が不在の分、鳳仙を背負う気持ちもあったのでしょうか。

小田島としては背負うなんて大それたことは考えていなくて。実質喧嘩の強さでいったら仁川(英明、演:小柳心)がNo.2だと僕は思っていますし。ただ、鳳仙がちょっと特殊なのは、四天王なので、誰がNo.2というのはないということなんですね。

今回の裏テーマは、“No.2の美学”。もちろん(花岡)楓士雄(川村壱馬)がど真ん中にいるんですけど、その周りにいる(高城)司(吉野北人)や轟という二番手が活躍するお話でもあるし、今回の敵となる瀬ノ門(工業高校)でも、No.2の須嵜(亮、演:中本悠太)がとても活躍します。

その中で言うと、鳳仙も仁川と小田島あたりが鍵を握っていて。楓士雄に発破をかけるのは仁川だったり。そういう役回りは意識していたところでした。

いずれは物語の真ん中に立てる役を演じたい

── “No.2の美学”は、塩野さん自身も共感するところはありますか。

あると思います。アクションがわかりやすいですけど、やられる側がすごく大事で。裏で支えたり、役割を立たせてくれている人がいるから、主軸となる人が輝く。お芝居もそうですよね。受けのお芝居があって、台詞を話している側の芝居が成り立つ。相手のためにお芝居できるかどうかは大きいし、それができる方はやっぱり素敵な役者さんであることが多いですね。

── 塩野さん自身はもともとNo.1志向ですか。それともNo.2の方が落ち着きますか。

もともとで言うとNo.2で全然いいですし、どセン(ター)を目指しているわけではないです。

でも、やっぱり最近思うのは、その作品をやっていく上で、いちばん物語を負うことができるのは真ん中であり主役。物語の中で成長していく過程を見せられるのが中心の人物だと思うので、そこは目指したいなと思いますね。

── 別のインタビューで「バックボーンがあんまり描かれない役をやってきた」とおっしゃっていたのが忘れられなくて。描かれていないからこそ、自分で膨らませていくことに力を注いでやってこられたのかなと。

その人物の人生とか背景を、演じる側が考えて用意してくる分量が多いのが、脇の人。でもやっぱりそれだけではなかなか伝わりきらないものもあるし。俳優としてうれしいことって、その役を通して自分自身さえも好いてもらえることじゃないですか。そんな特典あるんだって、思わぬサプライズだと思うんですよ、俳優からしたら。そんな役とめぐり会えたら、やっぱりうれしいですよね。

── 小田島は、そんな特典の多い役だったように思います。

そうですね。ファンの方が数えてくださったんですけど、前回の小田島って7分くらいしか出演時間がなかったらしくて。その7分間で、小田島らしさを全開にしてやっていたところはありました。

── それは、描かれるバックボーンが少ないからこそ、爪痕を残したかったという想いですか。

自分の爪痕というよりは、佐智雄を際立たせるためにという気持ちの方が強かったです。ただ普通にいるだけじゃ、四天王の説得力がない。四天王が存在感を発揮することで、それを束ねる佐智雄をより引き立たせることができるだろうと。

ただ、今お話しした真ん中の話とちょっと違うのが、やっぱり真ん中にいる人物というのは、観る人がその人物の生き方を追って共感して好いていく。そういう役を今後はもっと任されるようになりたい、物語に対する責任を背負ってみたいと、この数年でより強く思うようになりました。

── 前作の公開が2019年。そこからの3年で、俳優としての心構えに何か変化はありましたか。

今お話しした真ん中に立ちたいというのと、あとは挑戦することに対して前のめりになりました。この3年の間に自分で環境を変えることを選択して、自分から行動を起こしたことで自信を持てた。前の自分より今の自分の方が少しは好きになれました。

行動を起こした自分を褒めることで、ちょっとずつ自分を好きになれる

── 自分を好きになれた、ということは、もともとは自分のことがそんなに好きではなかったということですか。

本当のことを言ったら、別に全然好きじゃないです。

── 突っ込んで聞きますが、どこが好きじゃないんでしょうか。

なんでしょうね。これといった特徴がない(笑)。特に面白みもない、つまらない人間だと思っています、自分のことを。

── それは、周りに強烈な個性や才能を持った人たちがたくさんいるから?

いっぱいいますね。だから、常々感じちゃいますけど。でも、なるべく好きでいたいなとは思っています。やっぱり本当の意味で自分を大事にできるのは自分自身なので。誰も自分の人生に責任はとってくれない。だったら、自分くらい自分を好きでいてやりたいなと。

── 自分を好きになるのって難しいです。

日々ちょっとしたことで自分を認めていくしかないですよね。あとは、行動に移すこと。大事なのは、その結果、できたかできないかじゃないんです。まずは、やったんだぞっていうこと。それで十分。行動を起こした自分を褒めてあげるだけで、ちょっとずつ自分を好きになっていけるのかなという気がします。

── 自分がいちばん嫌いだった時期はいつですか。

主に外見のことですけど、いろんなこと含めていちばん苦しかったのは『獣電戦隊キョウリュウジャー』が終わったあと。ニキビ肌で、もう肌が荒れに荒れまくって。外に出たくないし、誰とも顔を合わせたくないみたいな状態でしたね。

── そのコンプレックスからどう脱したんですか。

まず顔を隠さないことにしました。もういいやって、前髪も上げて、お化粧もずっと仕事終わりから落とさずにいたのを全部落として。肌が荒れているのも含めて、これが僕だと。そしたらストレスが少し緩和されたのと、衛生的に良くなったのもあって、少しずつ改善されていって。

それまでニキビ対策のグッズとかいろいろ試していたんですけど、全部やめて、シンプルにしました。美容やスキンケアに興味を持つようになったのも、そこからです。肌にふれるものって大事なんだなと感じるようになって、いろいろ勉強するようになりました。

自分の軸を他人に握らせない人は美しい

── 表に立つ人にとって、容姿とはどういうものでしょうか。

なんだろう。でも、容姿自体は切っても切り離せない最重要パーツと言っても過言ではないとは思いますね。それは別に、可愛いとかカッコいいとか、そういうことじゃなくて。やっぱり見た目は確実に情報として入ってきますし、それをわかった上で僕たちもそこに立っているわけですから。

綺麗に保つにしても気を遣うだろうし、容姿なんて関係ないという方向に振るにしても、関係ねえやというスタイルで出来上がった見た目にその人の生き方や個性が出るわけなんで。僕は、内面が成熟していくと顔つきは変わってくると本気で思っているので、見た目は絶対に重要な項目のひとつですよね。

── それこそ俳優という職業は、ストレートに言うと、容姿が美しければ得なわけでもないじゃないですか。

もうおっしゃる通りです。

── 以前、『獣電戦隊キョウリュウジャー』のあとしばらくは見た目ばかり評価されるのが嫌で反抗していたけれど、うまくいかなくて。そこからは実力を評価されるためなら外見も利用してやろうという考えに変わったという話をしていました。今、改めて容姿についてはどう考えていますか。

今は年齢と共に適応していく時期ですね。日本のドラマってイメージに適した人がキャスティングされることが多いので、役づくりで見た目を変化させることって少ないと思うんですよ。となると、塩野瑛久はこういう役者なんだというものを見た目に乗っけて普段からメディアに露出していかないと、自分に合う役は舞い降りてこない。だから、今は自分に合う役に適応させていくためにも、見た目を変化させていければと考えています。

── そんな塩野さんが考える「美しい人」ってどんな人ですか。

なんだろう。世の中の意見に左右されない人は美しいなと思います。自分を貫くって我儘と紙一重ですけど、決して我儘という意味ではなく、自分の軸を他人に握らせない人。例えば他人が何かをしていたとしても、それを否定するのではなくて、あなたがそれをするのは構わないけど、僕はしないよと断れる人を見ると美しいなと思います。その場のノリに流されないというか、揺るがないその人の軸が見えた瞬間ってすごく輝いて見えますよね。

あとは、泥臭いという言葉にもつながるんですけど、夢に向けて地道な努力を重ねている人。実を結ぶまでの間って、そうした地道な努力に対し「それって意味あるの?」と言う人ってたくさんいると思うんです。そうした周囲の声に振り回されず、自分を信じて努力を積み重ねた結果、大きなことにつながった人を見ると美しいなと思います。

── そうおっしゃるということは、塩野さん自身もそんな人になりたいと。

はい。そう思っています。

── では、最後にもうひとつだけ。俳優さんっていろんなフェーズがあると思っていて。バッターボックスに立たせてもらうまでも大変なんですけど、打席に立ったら立ったでまた別の苦しさがあると思うんですね。塩野さんは、今どのフェーズにいますか。

今は打席をぶん取りにいってる最中です。じゃなきゃ、自分から環境を変えたいとは思わない。環境を変えた以上、ゼロからのスタート。いきなり何年先の仕事まで決まるなんてことは絶対あり得ないと重々承知した上で、僕はこの道を選びました。ここからまた一つ一つ自分で積み重ねていかなきゃいけない。今はまさにその最中ですね。

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作品紹介

映画『HiGH&LOW THE WORST X』は9月9日(金)より全国公開
https://www.high-low.jp/movies/theworst-x/

撮影/友野雄、取材・文/横川良明、企画・構成/藤坂美樹、ヘアメイク/礒野亜加梨(studio mamu)、スタイリング/山本隆司、 
衣装/メガネ ¥35,200-
EYEVAN/アイヴァン
その他 スタイリスト私物
問い合わせ先
EYEVAN Tokyo Gallery/アイヴァン 東京ギャラリー
東京都港区南青山5-13-2 1F
TEL.03-3409-1972