まるでイタズラっ子みたいに無邪気に顔を綻ばせたかと思いきや、不意に見せる翳りを帯びた眼差しには精悍な色気が立ちのぼる。
日向亘、19歳。少年と大人の間を行き来するその表情は、きっと今この一瞬しか見ることのできない流星のようなまたたきだ。
デビュー6年目。「もっともっと芝居がしたい」と目を輝かせる次世代の旗手に、大好きなお芝居の話をたっぷりと語ってもらった。
── 大河ドラマ『どうする家康』が、いよいよ大坂夏の陣を迎えます。
もうね、これは声を大にして観ていただきたいですと言いたいです(笑)。
── 力強い言葉ですね。ぜひその想いを聞かせてください。
僕は真田信繁(真田幸村)を演じているんですけど、本当にカッコよく描いてくださってるんですね。信繁といえば、好きな武将ランキングでも毎度上位にランクインするキャラクター。圧倒的な人気があるからこそ、信繁ファンのみなさんに僕の信繁を見ていただきたいです。
それだけ支持があるということは、こんなの信繁じゃねえと言われてしまうかもしれないという不安もあるんですけど。僕としてはあまり怖気づかずに思い切って演じることができたなという手応えがあるので、自信を持ってお届けしたいと思います。
── 日向くんが考える信繁らしさとは。
やっぱり圧倒的強者感! 一筋縄ではいかない要注意人物感というのは、制作陣のみなさんも工夫をしてくださったところなので、そこをしっかり表現できればというのはありましたね。
── そのために、アウトプットのどういうところに気をつけましたか。
立ち居振る舞いですね。一本筋が通っていて、揺るがない、不動の感じを立ち姿や仕草で見せたいなと考えていました。
やっぱり信繁というと、『真田丸』の堺雅人さんをイメージされる方が多いと思うし、比較されるのは承知の上でやっているんですけど、『真田丸』の信繁は主人公だからこそ、描き方が人間っぽいんですよね。でも、『どうする家康』の信繁は家康の首を取ることに執着している人物。だからどこかちょっと機械的な感じがするんです。
ただ、その中にも武士として豊臣方への忠誠心は絶対にあっただろうし、佐藤浩市さん演じる親父の昌幸から耳にタコができるほど言われてきた「乱世を泳げ」「乱世を楽しめ」「それで、お前は散っていけ」という言葉が心の奥底にずっと流れていて、それが信繁の芯になっている。
だから、ちゃんと親父の遺伝子を受け継いでいるんだということは強調したくて。特に後半に関しては、一挙手一投足、浩市さんだったらどうするかなということを意識していました。
── なるほど。親父の生き写しじゃないけど。
昌幸の遺伝子を受け継いでいるなって、徳川側の人にも感じてもらいたかったし、視聴者のみなさんにも受け取ってもらいたかった。もちろん僕が浩市さんのようにやったところで、とても真似できるわけではないんですけど、意識するだけでも変わってくる部分はあると信じて、そこはいつも心に置いていました。
僕は、自分の人生を自分のために生きている
── 合戦シーンはいかがでしたか。
大変でした(笑)。今回、アクションをつけてくださった諸鍛冶(裕太)さんからは、僕のデビュー作である『太陽は動かない』でもアクションを教わっているんです。『太陽は動かない』では浩市さんともご一緒させてもらっていて。そういった意味でも、今回の『どうする家康』は僕にとってすごく縁のある現場だったんです。
諸鍛冶さんの指導は厳しくもあり優しくもあり、優しくもあり厳しくもありという感じで。アクション部の中には、新田(健太)さんとか、デビューの頃から「ひゅう」「ひゅう」と可愛がってくださった方たちもたくさんいたので、そこはすごく心強かったし、おかげで自信を持って合戦のシーンに挑めたかなと。
やっぱり信繁は強くなきゃいけないので。本多忠勝に負けない槍の名手として、そこはちょっと頑張りました(笑)。
── 槍、長かったですか。
長かったです(笑)。僕、先端恐怖症なんですよ。刀とか結構苦手で。だから、そこは恐怖心をグッとこらえて頑張りました(笑)。
── 甲冑も相当重そうです。
めっちゃ重いです。というか、兜がヤバいんですよ。装飾部さんがおっしゃっていたんですけど、信繁の兜は『どうする家康』の中でもトップレベルに重いらしくて。飾りもデカいし、本物の鹿だし。
── じゃあ、かぶってると、ちょっとバランスが悪くなったり。
なりますね。頭が後ろに持っていかれます。でも、武将というからには絶対に体幹もしっかりしているはずなんで、ふにゃふにゃには見えたくないじゃないですか。気合いを入れて首を固定していました(笑)。
── 大坂夏の陣は、信繁にとって最期の戦いです。信繁の散りざまに込めたものを教えてください。
信繁はずっと家康の首を取れるのであれば自分の命を捧げてもいいと思っていて。だから、出陣のときもこの戦いが最期になってもいいという覚悟は決まっていたと思うんですね。そういう腹を決めている人間の強さみたいなものを見せたかった。そこについてはあまり考えすぎずにできたのかなと思っています。
── 現代の人間とは生死に対する覚悟が違いますよね。
今でこそ自分の人生なんだから好きに生きろというのが当たり前になっていますけど、昔の人って誰かのために自分の命を捧げて生きてきたような人たちばっかり。生き死にに対する考え方が根本から違うんだなと思いました。
僕は、自分の人生を自分のために生きているつもりです。だから、信繁とは考え方は全然違うなと思う。でもだからこそ、信繁は信繁として気持ちを切り分けて入り込めたのかなという気もします。
岩渕は、初めて役づくりをせずに演じました
── この秋は『うちの弁護士は手がかかる』にも出演中ですね。
はい! 現場は年上の先輩が多いので可愛がってもらっています。
── 演じる岩渕亮平もノリの良い役で、楽しそうな感じが伝わってきます。
僕はいつも役をいただいたら、この役はどういうキャラクターでとか、ここのシーンはどういう意味があってということを監督やプロデューサーに確認して、自分の中ですり合わせをするようにしているんですね。今回もそのつもりで衣装合わせのときに話を聞きに行ったら、監督が開口一番「この役は日向くんだから、役づくりとかしなくていいよ」と。役づくりをしなくていいと言われたのは初めてだったので、なんか楽になれたし、演じるのが楽しみにもなりました。
もちろん大丈夫かなって不安にはなるんですけどね。台本を読んでいると、自然と考え込んじゃうんですよ。でもそのたびに、監督から「考えないで」と言われたことを思い出して。もう台詞だけ覚えたら、あとは現場の空気を感じて、自分が普段持っているものをそのままぶつけていこうと思いながらやっています。
この秋は、『どうする家康』があって、『うち弁』があって、『なら恋』(『君となら恋をしてみても』)があって。同時期に全然違うテイストの作品に3本も出させてもらって、それぞれまったく違う役をお届けできたのは役者としてうれしいですし、みなさんがどう受け取ってくださるのか楽しみです。
── 『なら恋』や『うち弁』から入った人からすると、『どうする家康』の信繁を見ても日向くんとは気づかないかもしれませんね。
特に最後の方の信繁は僕って気づかないんじゃないかな。なんならバレないで終わってほしい! 岩渕くんが能天気な分、振り幅をしっかり効かせられたらとは考えていました。
── FODでは、岩渕くんが主役となる第0話も配信中です。一目惚れした女優さんにいい感じに振り回されていましたね(笑)。
そうですね。『なら恋』とはまたちょっと違う振り回され方をしています(笑)。
── 確かに『なら恋』で演じた山菅龍司くんよりも、岩渕くんは声が高めですね。
どちらかと言うと、僕の地声が岩渕くらいの高さなんです。だから、『なら恋』ではだいぶ抑えるようにしていました。
── ラストの恋の顛末まで含めて、岩渕くんらしいエピソードでした。
あそこまでが岩渕ですよね(笑)。この第0話を観ることでより一層岩渕のキャラクターを知っていただけるんじゃないかなと。
── 香澄法律事務所の面々に助けを求めるときも、自分のためじゃなくて、大好きな人のためにというところが岩渕くんらしくて素敵でした。
いいですよね。あそこのシーンで、事務所のみなさんも岩渕のことを認めてくれたのかなって。そこからパラリーガルの道を歩み出すわけなので、岩渕にとっては転機になるシーンでした。岩渕はとにかく可愛らしい男の子なんで、僕としても特に難しいことを考えずに、肩の力を抜いて楽しんでいます。
僕に龍司の要素はまったくない(笑)
── ということは、岩渕くんと素顔の日向くんはわりと近い…?
だと思います。岩渕よりはもうちょっと人に気を遣いますけどね(笑)。年上の人と話すのが好きだったり、年上の人にズカズカといけるところは、自分との共通点かなと。
── 恋愛に対してピュアなところも?
ピュアですよ。僕も恋愛に関してはピュアでまっすぐで泥臭いです(笑)。
── じゃあ、岩渕みたいに好きな人のために毎日お弁当を届けることも。
しますします。何だってしたくなりますよ。むしろ龍司みたいにはできないです(笑)。
── 龍司くんとは全然タイプが違うんですね。
違いますよ〜! 僕に龍司の要素はまったくない(笑)。
── 『なら恋』では、たくさんの視聴者をリアコにさせましたが、そんなキュンを振りまけるような人間では。
ないないない(笑)。
── 「しばらくは俺に片想いしといて」とかは。
言えん言えん、そんなこと(照)。
── 告白してくれた相手に対して、「なかったことにはしないし」と言える龍司くんは、本当に素敵な男の子だなと思いました。
僕もそう思います。自分が言われたらうれしいですもん。しかも、龍司はそこに計算が全然ないんです。心からそう思って言ってる。カッコいいなと思います。
ただ、僕に龍司の要素は1ミリもないかもしれないので、そこは期待しないでください(笑)。
撮影/映美、取材・文/横川良明、企画・構成/藤坂美樹、ヘアメイク/宮田 靖士(THYMON Inc.)、スタイリング/臼井 崇(THYMON Inc.)、衣装協力/シャツジャケット ¥90420、ニット ¥31460、パンツ ¥44440、シューズ ¥35090(全てアルマーニ エクスチェンジ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社)、メガネ ¥37400(エバース/シアン PR)
[問い合わせ先]
ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社
03-6274-7070
中央区銀座5-5-4 アルマーニ /銀座タワー
シアン PR
03-6662-5525
渋谷区渋谷2-2-3 ルカビルⅡ 2F