ミスター慶應グランプリ。フェンシング元日本代表。その華やかな経歴に端正な佇まいも相まって、聡明で品行方正なイメージを抱く人も多いかもしれない。
もちろん、それも彼の大事な美点だ。でも、あくまで数ある魅力の一面でしかないのかもしれない。
話せば話すほど変わり者で、ちょっぴりひねくれ屋で、面倒くさがりで、内向的なところもあれば、意外と芯があって、大胆。少し不思議な男の子・西垣匠。だから、みんな彼のことがもっと知りたくなる――。
会社に入ったほうがいいんじゃないかと迷うこともあった
── 西垣さん自身は、「ミスター慶應コンテスト2019」でグランプリを獲得したことをきっかけに芸能の道へ進みはじめますが、今の事務所に決まる前に、一度別の事務所で不採用になっているんですよね。
研修生みたいな感じで1年間レッスンを受けたんですけど、ご縁がなくて。それが大学3年の秋だったかな。
── そのときは目の前が真っ暗になるような気持ちになりませんでしたか。
なりました。ちょうどみんなが就活を始める時期で。しかも、いい大学に入らせてもらっていたので、周りも真剣に就活を頑張ってるんですよ。そんな中、自分だけ将来が見えなくて。一人で部屋の天井をボーッと眺めて過ごす時期もあったし、ちゃんとした会社に入ったほうがいいんじゃないかって迷うこともあった。中には、「今から芸能活動するの?」と思っていた人もいたと思うし。
── 頑張って勉強して立派な大学に入られたわけですし、その椅子を手放すのは勇気のいることだったと思います。
ただ、就活は頑張ればまだ間に合うと思ったんです。でも、俳優は違う。僕はそのとき21歳だったんですけど、21でももう遅いなという気持ちがあったので。今しかチャンスがないという意味では、やっぱり俳優の道なのかなと。どうなるかわからないけど、もう1回あきらめずにチャレンジしようと思ったときに、ちょうど今の事務所とご縁があって現在に至るという感じです。
── 就活か俳優か、という岐路に立たされていたときの自分に声をかけるとしたら、なんと言ってあげたいですか。
え〜、でもドキドキしてほしいんで。なんだかんだこの仕事だけで生活できるようになるよとか言ったら僕は手を抜くと思うので、やべえよって言います。もっと頑張りなよって(笑)。
── 未知のものにドキドキするタイプですか。
そうですね。僕、毎日同じことができないんです。常に変化がほしいので、そういう意味では今の仕事は合っているのかなと。基本的には好奇心旺盛な性格。ただ、自分の興味を持つものが、人からすると「え? なんでそれ?」みたいなものらしくて。人にオススメされたものとかは興味が持てなくて、なかなか乗れないんですよね。
── じゃあ、人気の漫画とか音楽とかはあまり知らない?
そうですね。自分のいいなと思うものが結構ズレてたりするんで、変なところに琴線があるんだと思う。音楽は、基本的にTikTokで流れてくるものの中から、いいなと思う曲を調べたり。あ、でもリュックと添い寝ごはんさんは好きです。ライブに行かせてもらってから、ずっとそのときのセトリを聴いていて。『long good-bye』という曲が特に好きです。
── ちなみに今興味を持っているのは?
ペンギンです。
── なぜ?
可愛いなと(笑)。TikTokを見てたらペンギンの動画が流れてきて、そこから調べるようになりました。スマホの裏もペンギンのステッカーを貼ってて。一つは『高額当選しちゃいました』で僕が演じた優人の描いたペンギンのペンちゃん。もう一つは、AOAO SAPPOROという去年できばかりの水族館があって、そこにイワトビペンギンがいたんです。イワトビペンギンってその名の通り岩場をぴょんぴょん跳ねて移動するんですけど、それが可愛くて、「ちょっと飛べる」と書いたステッカーを買いました。
魚になって水族館で過ごせたら、いい一生を送れそう(笑)
── 今やっていていちばん楽しいことは?
なんだろうな。あ、基本、インドアなんですけど、ちょっとアウトドアになろうと思って、北海道に一人旅をしたんです。AOAO SAPPOROに行ったのもそのときで、それは結構楽しかったですね。もう何も決めずに行ったんですよ。おたる水族館に行くことだけは決めて、札幌にホテルをとって、あとは白紙。たぶん一緒に誰かと行ってたら、めっちゃ怒られるだろうなっていうぐらい適当なスケジュールで。ホテルに着いて、まず2時間昼寝して、ご飯を食べに行って、そこから映画館で映画を観て。
── 北海道感がまったくない!
初日は北海道と一つも関係のない過ごし方をしました(笑)。でもそれがいいなと思って。そのとき自分がしたいと思ったエネルギーだけを信じて行動するというか。次の日におたる水族館に行って。そしたらAOAO SAPPOROというものが新しくできたことを知って、結局次の日に行ったので、2日連チャンで水族館でした。
── 美ら海水族館もそうですけど、水族館、そんなに好きなんですね。
海洋生物が好きですね。魚の大きさになって、水族館の水槽の中で過ごしたら、めっちゃ世界が広いんだろうなって。たぶん満足じゃないですか。あれだけ小っちゃくて、あれだけ広い水槽で過ごせたら、いい一生を送れそうだなと。
── どちらかというと、本当は広い海の世界にいたのに水槽に閉じ込められて、申し訳ないという気持ちで見ていました。
たぶんですけど、水族館にいる魚は自分が水槽にいることも気づいてない気がするんですよね。魚から見れば、それが当たり前の世界だから。死ぬリスクもほとんどないし、みんなあれを海だと思って泳いでいる気がする。あ、でも、一匹だけ気づいているやつがいました。全部あきらめて、ただ岩に横たわって呼吸だけしてる見たことない形の魚がいたんですけど、そいつはわかってましたね。
── 水族館で魚を見ながら、そんなことを考えているんですね(笑)。
考えてます。あいつ、あきらめてんなって(笑)。あと、久しぶりにクリオネを見て。クリオネってこんな小っちゃいのに水槽はものすごく大きいから、きっとクリオネからしたらめっちゃ広いんだろうなと思って羨ましくなりました。
── じゃあ、自分が魚になって水族館の水槽に入れられたら、わりと万々歳?
マジでいいですね。ラッコとかいいなと思う。
── ラッコだと芸とかさせられるかもしれない。
確かに。じゃあ熱帯魚でいいです(笑)。水族館の大きい水槽の前でボーッと過ごすのが好きなんですよね。
六本木と西麻布という単語は異世界だと思っています(笑)。
── そういう性格だと、せわしない芸能界にいると疲れませんか。
それはそれで楽しいです。わりと切り替えられるというか。
── じゃあ、六本木で遊ぼうぜみたいなノリも?
それは苦手です(笑)。そもそも誘われること自体ないですけど、六本木と西麻布という単語は異世界だと思っています(笑)。
── 基本、プライベートは地味な感じですか。
結構地味かも。大人数が苦手すぎて。お酒を飲むとなっても、友達2〜3人で静かなところで飲んでいたいかな。
── 高級車を乗り回したいという欲もなさそうですね。
まったくないですね。車もバイクもわからない。強いて言うと、ミニクーパーがほしいくらいです。
── 自分の性格で直したいところはありますか。
…こういう性格ですかね(笑)。妹が僕と真逆の人で、明るくて社交的で愛嬌もあって。きっとこういう人が周りから愛されるんだろうなと思うと、自分ももうちょっと社交的な人間だったらよかったなって。
── もともとスポーツ(フェンシング)もされていたから、外向きな性格にもなりそうですが。
スポーツはしてたんですけど、部活じゃなかったんですね。父親と二人三脚系だったので、今思うとこれも良くなかったなと。小さいときから父親の教えている高校で高校生と一緒に練習をしていたんですけど、まだ小学生の頃とか何もわかっていなかったので、年上の人たちにも平気でタメ口を使っていて。でも、先生の息子だから相手は何も言えないんです。当時は本当に生意気なガキンチョでした。上下関係を学んだのは、フェンシングをやってた最後の方で。個人競技だから、団体行動もほとんどしてないし。おかげで社交性が全然身につかなかったんですよね…。
── そんな西垣さんが仲良くなれるのは、どういうタイプの人なんですか。
それこそ(『ドラゴン桜』で共演した)西山潤みたいなタイプかも。彼は、いい意味で何も考えずにガッと扉を開けてくれる。僕は自分から人を誘わないし、扉重めな人間なので、そうやって無理矢理にでも扉を開けてくれる人でないと仲良くなれないんですよ。自分ではそんなつもりないんですけど、普段の僕はシャットアウト感がすごいらしくて。たぶん僕と同じようなタイプは遠慮して絶対に踏み込んでこない。そこを、意外と踏み込んでも大丈夫な人間だとわかって扉を開けてくれる人だと、僕もいろいろ話せるようになります。
── LINEとかまめに返しますか。
…興味のある会話のときだけめっちゃ早いです(笑)。
── じゃあ、どうでもいいLINEの通知が来たときは?
一応読みはします。読むだけですけど(笑)
── 恋人から他愛のない日常の報告が来たときはどうします?
恋人だったらすぐ返事します。でも友達だと、何かの話題で盛り上がっていたところに、向こうが急に僕の興味ない話を始めたら、その瞬間からLINEの返事がめっちゃ遅くなる。まあいいやって思っちゃいます(笑)。
── 既読スルーにそこまで胸が痛まないタイプですね。
基本、そんなに頻繁にLINEをするくらいだったら、電話してくれって思うタイプです。
── 何かを話したいわけではないけど、誰かとつながっていたいみたいな気持ちってあるじゃないですか。
その気持ちはわからなくはないですね。僕も一人で作業をするときに、めっちゃ仲の良い友達とただ電話だけつなぐみたいなことはしたりするので。でも、寂しいから人と電話したいという感覚はよくわからないかもしれない…。
── 前提としてですが、あまり寂しいと思わない?
寂しいという感情は忘れました(笑)。「最後に寂しいと思ったのっていつだっけ?」って感じです。たぶんそれも人に恵まれているからだと思いますけど。
これからは眉毛推しでいこうかな(笑)
── 5月26日に25歳になりました。20代のうちにやりたいことは何ですか。
イギリスでスーツをつくりたいです、フルオーダーで。
── それはまたどうして。
最近、イギリス系のファッションが好きで。ドラマとか映画もイギリス系のものをよく観ているんですね。もともと『キングスマン』や『ジョン・ウィック』の影響でスーツってカッコいいなと思っていたところで。映画好きの知り合いにその話をしたら、『ピーキー・ブラインダーズ』というNetflixのドラマをオススメされて。観たら、めっちゃカッコよかったんです。そこから僕のゴールはイギリスでスーツをつくることになりました。
一人旅を始めたのも、イギリスでスーツをつくるなら英語も話せなきゃいけないし、一人で旅行に行くのにも慣れておかなきゃいけないなと思って、その準備としてまずは国内から行ってみようということで北海道に行ったんです。
── 確か得意科目は英語とおっしゃっていたので、英語は大丈夫なんじゃないですか。
それはかつて真面目に勉強していたときに、英語がいちばん点が取れたかなという程度のことなので…(笑)。しかも、ここ最近は全然勉強してなかったので、当時に比べたらもう全然。だから、今、練習中です。
── では、最後の質問です。自分の顔でどこがいちばん好きですか。
眉毛。今までこういう質問をいただいたら、目と答えていたんですね。でも、今回の撮影もそうですけど、最近求められるものが可愛いからカッコいいに移行しはじめている気がして。25歳というのは、いろいろ変わりはじめる時期なのかなと。僕、前髪を下ろしてるのと上げてるので、だいぶ印象が変わるんですよ。前髪を上げて眉毛が見えている方がカッコいいと言われることが多いので、これからは眉毛推しでいこうかなと思ってます(笑)
── てっきり唇とおっしゃるかと思っていました。
唇は、僕自身はわかんないんだよなあ…。父親と同じで、結構タラコめなんですよね。この仕事を始めてから褒めてもらえることも増えましたけど、ずっとこれタラコだよなと思いながら生きてきたので、あんまり自分の中ではいいという感覚がないんです。
── ほっぺたも素敵ですよ。バブみがあって。
そうなんです。赤ちゃんって言われることがめっちゃ多いから(笑)。
── 『春になったら』でチャペルでキレるシーンがありましたけど、完全にバブみしかなかったです。
あれはどうしようかなと思って。いろいろやってみた結果、監督がそれいいんじゃないとおっしゃったのが、あの幼児退行でした(笑)。
── ぜひカッコいいところも見せつつ、これからもたまに可愛いところを見せていただければ(笑)。
そうですね。たまに出します(笑)
撮影/映美、取材・文/横川良明、企画・編集/藤坂美樹、ヘアメイク/カスヤユウスケ、スタイリング/藤井エヴィ、衣装協力/・シャツ、ジャケット、ベスト、パンツ
[問い合わせ先]
suzuki takayuki
03-6821-6701
・メガネ
The Spectacle
03-5459-8377(グローブスペックス ストア)
・靴
レッドウィング
03-5791-3280(レッドウィング・ジャパン)