映画のプロ&一般映画ファンが選んだ
この1本が3月1日劇場公開に!
若手映像クリエイターの発掘・育成を目的に、これまで多くの映像作家支援事業を展開してきた「SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ」。開設15周年を迎えた同施設が、新たな試みとして挑んだのが<“最速・最短”全国劇場公開プロジェクト>だ。
本プロジェクトは、昨年開催された《SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018》のコンペティション部門に入選した日本映画(長編)の中から1作品を選出し、配給・宣伝から全国規模での劇場公開まで一貫サポートするという、インディペンデントの若手映像作家にとっては夢のような支援企画。選考には、映画ビジネスの最前線に立つプロたちとともに、「ぴあ映画生活」の一般映画ファン代表10名も加わり、当たった。
その映画のプロと一般の観客の厳しい目を経て、今回見事全国劇場公開の切符を手にしたのが片山慎三監督の『岬の兄妹』だ。選考では“劇場でみたい”と公開が熱望され、ポン・ジュノ監督をはじめ香川照之、高良健吾ら映画人から絶賛のコメントが続々到着。今年の日本映画界に何かを起こしそうな気鋭監督の初長編映画に注目を!
語り手は、NHKドラマ『透明なゆりかご』の原作者として注目を集める漫画家の沖田×華さん。ご自身も発達障がいと向き合い、特殊な経歴<看護師・風俗嬢を経て漫画家>を持つ沖田さんが本作で感じたこととは?
真理子の “冒険” は、この世界の人間と繋がることが出来る唯一の希望
妹の真理子を見た時、昔バイト先にいたピンサロ嬢マキちゃんを思い出した。
当時26歳だった彼女は、婚約中の外国人の彼氏の紹介で店に入り、毎日出勤していたのに1日5千円しかもらってなかった。店のママ曰く「マキちゃんは子供だから面倒見なきゃ。」と寮費やら食費やらをピンハネし、さらに妊娠したら困るからとピルを飲ませていた。結果、病的に太ったマキちゃんは、彼女を見た客の半分からののしられ、時には激怒した客にソファーから突き飛ばされて床をゴロゴロと転がっていたこともあった。そのたびに「あはは〜デブって言われた〜突き飛ばされた〜」と屈託のない笑顔を見せて待機室に戻ってくるのだ。「ママさん良い人」「お金くれる」「毎日牛乳くれる」と繰り返し話すその顔に自虐や悲壮感が全く見えないので私は不思議で仕方なかった。
だけど、映画を観て何となく分かった気がする。誰が見ても、真理子は不幸で生涯まともに人と関わることが出来ない孤独な女に見える。しかし、彼女にとっての “冒険” は貧困や性の搾取や消費でもなく、この世界の人間と繋がることが出来る唯一の希望なのだ。そこには、私達が常日頃抱える将来の不安や未来の概念は存在しない。今この瞬間、たった1つしかない生きがいを見つけた喜び、時には泣きわめき、地べたを這いずり回りながも生きがいに執着する。それが「自分の人生を生きる」ことなのだと思う。
彼女も、いつかどこかの店に流れ着くだろうか? マキちゃんのように笑顔でお客さんに「こんばんは」「お兄さん何歳?」「脱いで脱いで。」と日の当たらない所で “冒険” を続けるのだろうか? ただただ純粋に「今を生きるために生きる」姿に目が離せなくなってしまうだろう。
プロフィール
沖田×華(おきた ばっか)
富山県出身。1979年2月2日生まれ。
小学4年生の時に、医師よりLD(学習障害)とAD/HD(注意欠陥/多動性障害)の診断を受ける。看護師・風俗嬢を経て2008年漫画家デビュー。『透明なゆりかご 産婦人科医院看護師見習い日記』(講談社)で第42回講談社漫画賞(少女部門)を受賞。現在『毎日やらかしてます。』『不浄を拭うひと』(ぶんか社)、『透明なゆりかご 産婦人科医院看護師見習い日記』(講談社)、『お別れホスピタル』(小学館)、『父よ、あなたは…』(幻冬舎)など多数の作品を連載中。
笑いの絶えなかった試写会上映後のトークイベントの模様。
(左から)片山慎三監督、松浦祐也、和田光沙
重いテーマの中にも笑いあり。本作から感じられる“生きる力”
公開前に行われたぴあ映画生活独占試写会には、幅広い世代の映画ファンが参加。一見重たいテーマの本作だが、上映中客席からは時より笑いが起こる場面も。参加者からは「ストーリーが重くて観ていて辛くなりましたが、全体的に不思議な明るさがありました」「露骨な描写が続くにも関わらず思いのほかコミカルだった」「生きるって何だって自然と考えて、笑えて泣けちゃう映画」など、“陰”の部分だけでなく、“陽”の部分も感じられたという感想が多かったのが印象的だ。
また、上映後に行われたトークイベントで観客からラストシーンの解釈について質問が飛ぶと監督は「明確な答えは出さずに終わっているが、皆さんの心に残ったものこそが答えだと思う」とコメント。ラストをどう捉えるのかは観客次第。その答えはぜひ劇場に足を運んでいただき、確認していただきたい。
重いけど、重くない
粗筋だけを読んだら、めちゃくちゃ重くて、心にズシーンと来そうだし、実際、私も、観る前は覚悟していたのだけれど、なんだろう、「観るに堪えない」という事はなく、言葉は悪いかもしれないけれど、中々面白いお話として、最後まで観てしまった。
こういう映画もっと作られるべき
題材は重くて暗いのに、ただただメンタルをえぐられるような作品になっているわけではなくて、生きる力、生命力を感じさせられる作品でした。すごくリアルで、役者さんたちの演技も素晴らしいです。
むしろ「優しさ」が残る作品
包み隠さず「痛み」を見せているけど、ほのかに明るい「優しさ」が随所に散りばめてるから観ていて救いがあったし、それが作品の個性にもなっていた。これからも素晴らしい作品を創り続けていく監督さんだと思うけど、「痛み」よりもむしろ「優しさ」のほうを大切に撮っていってほしい監督さんだと思った。
今の邦画に一石を投じる映画
障がいを持つ兄妹が生きるために、兄が妹を売春する。兄の葛藤する陰に対して妹の無邪気さが神々しくかつ悲しく映る。生きることの難しさとともに生きるための強さが感じられる最高傑作。ラストの続きをどう捉えるか、この生き方をやめたのか、続けたのかを視聴者に問う作品。自分は●●であったと信じたい。
なかなかの衝撃作品
冒頭のシーンでいきなり圧倒され、重い設定なのに何故かそのエネルギーに引きずり込まれるように、気が付いたら見いっていた。最初衝撃を受けた障がいと貧困というテーマを前面に押し出しているが、何故か軽く意外とそのことはあまり気にならなくなり、むしろその生きざまが気になっていった。最後のシーンも今後の展開を想像させる印象深いものとなっており、監督の思惑は悔しいほど成功している。もう一度見たい。
骨太の作品でした
鑑賞インパクトが「物凄く、太い。」のですが、実は、世の中のみんなで手当てしてゆかなければならないテーマを大切にしている、上品な作品でした。コンパクトな設定の中、隠しキャラ的なメッセージが、いくつも起き上げってくるためでしょうか、2回、3回と観るたびに、きっと、寄り添ってゆく登場人物を取り替えて、それぞれの思いを弁護してゆくのだろうなあ…、また、そう簡単には答えが見つかりそうもないテーマなんだなあ…と、最初から最後まで、感じていました。