いま、最高の一本に出会える

未来の映画監督、必見!
『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2019』特集

2006年度のスタートから13年間で67名の映画監督を育成し、そのうち22名もの監督が商業デビューを果たした『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト』が、今年も参加映画作家を大募集!

ndjcは、VIPO(映像産業振興機構)による文化庁委託事業。プロのスタッフ指導のもと行われるワークショップや、オリジナル脚本&35mmフィルムでの映画製作をとおして、新たな才能を発掘・育成し、日本映画の活性化を目指していく。参加作家には作品発表の場が提供されるなど、人脈作りの場となることも。

近年では、『長いお別れ』の公開を控える中野量太監督や、『嘘を愛する女』の中江和仁監督、『パパはわるものチャンピオン』の藤村享平監督、『ハナレイ・ベイ』の松永大司監督ら、次代を担う注目監督が多数輩出されている。本特集では、そんな映画業界も注目する“国家的”プロジェクトを紹介。さらに今回、ndjc出身のふくだももこ監督へのインタビューも行い、より深く、ndjcの魅力を紐解いていく。

 

『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト』

★監督応募締切り:6/21(金)
※推薦団体を通してご応募ください。(推薦団体からの応募の有無の連絡は6/17(月)まで)

★募集に関する説明会
【東京】@VIPO会議室
5/16(木)18:30~/5/30(木)10:30~/6/6(木)18:30~
【大阪】@大阪科学技術センター 貸会場8階
6/15(土)14:00~
※大阪フィルム・カウンシル主催「関西フィルムミーティング2019」会場内にて開催。
※ndjc作品2本の上映と併せて募集説明会を実施。

『おいしい家族』の
ふくだももこ監督
&谷戸豊プロデューサーに
インタビュー


“おいしいポーズ”で笑顔を作ってくれた、ふくだももこ監督(左)と谷戸豊プロデューサー(右)

プロのスタッフ指導の下、オリジナル脚本、35mmフィルム撮影で短編映画を製作して、新たな才能を発掘&育成する『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト』。映画を志す者に開かれた同プロジェクトからは、『長いお別れ』の公開が控える中野量太監督ら、これまで20名を超える監督たちが長編映画デビューを果たしている。そこに新たに名を連ねるのが、今秋公開予定の『おいしい家族』で長編デビューするふくだももこ監督。しかも同作はndjcで製作した短編『父の結婚』の長編化だ。そこで、ndjcをきっかけに出会ったふくだ監督と日活株式会社の谷戸豊プロデューサーに登場いただき、ndjcの可能性について話を聞いた。

――まず、ふくだ監督にndjcへの応募のきっかけをお伺いできればと。

ふくだ 映画を志して東京に出てきたんですけど、学校を卒業してCM制作会社に就職してやめてフリーで助監督をやっていたら、どうしたら映画を撮れるのかわからなくなってしまって、一度大阪の実家に戻ったんです。でも、やっぱり諦められなくて。もう一度頑張ってみようと思ったとき、日本映画学校を卒業するとき先生に「ndjc」のことを聞いた記憶がよみがえって、挑戦してみようと。やから、自分の企画が認められれば、プロのスタッフの指導が受けられるうえ、フィルムで映画が作れるというのは魅力的で、これなら自分も映画が撮れるかもしれないという気持ちでした。

――それでまずはワークショップ参加作家に選ばれた。

ふくだ その時点で15人ぐらいに絞られて。同一の課題・条件の下で1週間で5分の短編を制作しないといけないんですよ。テーマは「やさしさ」。短編だし、ストーリーや起承転結を見せるのではなくて「どういう演出をするか」を見られていると思ったので、ある部屋のある母と息子のたった数時間を切り取った映像をつくりました。そういうアプローチをしている人は少なかったし、何よりロケ地と役者とカメラマンがすごく良くて、奇跡みたいな作品ができました。(この時に出演してもらった三河悠冴くんには『おいしい家族』にも出演してもらっています)実際に周囲の反応も良くて、このワークショップの経験は大きかった。ワークショップ終了時刻の少し前に完成直前ぐらいまでもっていって、編集を指導してくださるプロの方に最後にアドバイスをいただく人が多いのですが、私はなにか疑問があったりしたら、早い段階でつないだものをその都度、見ていただいて助言をいただくようにしたんです。プロの視点をできるだけ自分のものにして少しでも作品が良くなるように、有意義な時間にしようって。編集の宮島さんの意見は本当に勉強になったし「今後どんな規模の映画だったとしても編集させてね」と言ってくださり、満を持して『おいしい家族』の編集をお願いしました! 脚本指導でのプロの方の助言は的確で、それに刺激されて自分でも新たな発想が出てきたりする。具体的にこのシーンは、この映画のこの場面を参考にしてみては?と言われて、実際に見てみると「なるほど」と思うこともあって、一気に道が拓けたりする。このディスカッションは私にとってはすごく充実した時間でした。

――そのワークショップを経て、製作実地研修の作家に選ばれ、ようやく35mmフィルム撮影による短編映画にとりかかったのですが、ここでの経験は?

ふくだ スタッフは全員プロ。あくまで噂ですけど、新人だとスタッフに意地悪されて、自分の指示を聞いてくれない、なんてことも聞いていたのですが、そんなことは何ひとつなく。むしろプロデューサーの方が頑張ってくださって、制約もなく、好きにやらせてもらえて、めちゃくちゃ楽しかったです。中でも自分にとって大きかったのは俳優さんの演技。出演者のひとりに山中崇さんがいらっしゃって、山中さんの演技を見ていたら、私の想像をやすやすと超えて、その人物の脚本上の文字でしかなかった言葉が、しっかりその人物を人格形成してひとりの人間の血と肉となってこちらへ届いてくる。こういうことを可能にしてしまうのが役者さんなんだと感動しました。また、こういったことが映画の現場なんだなと実感した瞬間でしたね。


――そして、出来上がったのが『父の結婚』。これを谷戸プロデューサーはご覧になった?

谷戸 完成の上映会があって、そこに足を運びました。

――ふくだ監督の作品に目がとまった理由は?

谷戸 近年の若手監督の傾向として映像に特化した方がけっこう多いんですね。技術を含めて「こういう凝った映像を作りたい」みたいな。その中にあって、ふくだ監督はある意味、古典的というか。自身の中にしっかりと描きたいテーマがあって、それをきちんとひとつのストーリーに仕上げ、撮って人々の元に届けようとしている。そして、ひと言でいえば、「自分がこれを撮りました」と堂々と宣言している。作品に誰にもまねできない彼女のキャラクターがそのまま出ている。そういうきちんとした個性を明確に感じる監督は少なくて。これは一度会ってみたいなと。実際にお会いしたら、やはり独自の個性を持っていて、一緒にやれたらなと思いました。

――最初の時点から『父の結婚』の長編化は視野に?

谷戸 いや、当初はまったく別のことを考えていました。ただ、紆余曲折の末、『父の結婚』の長編化がいいんじゃないかという声が高まっていったんですね。僕自身も、『父の結婚』はその家だけの話に収まっている気がするんですけど、もっと大きな世界で描きたいんじゃないかなと思っていたところがあって。そのあたりから長編化に動いていった感じです。

ふくだ 実は『父の結婚』の合評上映会のときに、出演者の板尾(創路)さんが壇上で、「これ長編にしたいんで誰かお偉いさんお金出してください」とおっしゃってくださって! ああ、確かに短編では各人物が掘り下げられなかったし、もっと広がりのあるものにしたいなと思う自分がいたんですね。やから、長編化の話が出たときはめちゃくちゃうれしかったです。


『おいしい家族』

――実際に長編化されて『おいしい家族』が完成しました。

ふくだ ほんとうにめっちゃラッキーです! ndjcで『父の結婚』を発表できてなかったら、生まれなかったわけですし、いくつもの幸運が重なって、こうして形になったわけで。力になってくださったすべての方に感謝です。正直なところ、長編化は私自身が何本か映画を作って、実績を積んでから、実現することと考えていたんです。やから、信じられないというか。ずっと先のことと思っていたので、こんなに早くひとつの夢が実現してしまってびっくりしています。

谷戸 ふくだももこという監督の個性が全面に出た作品になったのではと思っています。ほかの映画作家さんだと思いつかないようなシーンやアイデアがいっぱい入っている。

――父の再婚相手が意外な相手過ぎて戸惑う娘を中心にした家族劇。そこから家族の在り方や人間の多様な価値観といった今の社会にさまざまな問いを投げかけるテーマが不思議と浮かび上がってくる。そういったシビアな題材をユーモアをもって描いているところが印象に残りました。

ふくだ ユーモアは忘れたくないんですよね。以前、知り合いに「しんどいことがあった人間だからいっぱい笑えるんだよ、だからあなたはたくさん笑うんだね」と言われたことがあって感動したのが、ユーモアを忘れたくない理由のひとつです。悲惨な状況をありのままに撮れる素晴らしい監督はほかにもいっぱいいらっしゃるので、私じゃなくてもいい。私としては、切実なことを切実に伝えることがすべてじゃないというか。もうちょっと肩の力を抜いて伝えるからこそ伝わる場合もあるんじゃないかなと。もちろん当事者に不利益がないよう配慮は必要ですけど。どんなに厳しい状況やしんどい状況に見舞われても、どこかに光があると信じたい。それが私にとっての映画です。

谷戸 そこがふくだ監督の際立つ個性だと思います。今、若手監督でこうしたユーモアをもって社会を見つめるような作品を作っている方はほとんどいないのではないでしょうか。


――では、最後におふたりから「ndjc」に応募しようと思っている方にメッセージをいただければ。

ふくだ ndjcに参加する監督は、監督である前に、文化庁事業の実習生なので、いわゆるギャラはもらえません。やからお金は少しでも貯めておきましょう! そして自分がそうだったように、出さないと何も始まらない。映画を撮りたい気持ちがあるのならば、絶対に応募してほしいです。踏み出すことがすべて。自分の思いを伝えれば、何かしら返ってくるものがあると思います。 

谷戸 プロデューサーの視点から助言させていただくと、どこかしらひとつでいいので自分しかできない爪痕を残すというか。変な話、タイトルでもいいんです。地球上で自分しか考えつかないこと、できないことを恥ずかしがらずに示すこと。それに目を止めてくれる人がきっといると思います。今年もどんな作品が生まれるのか楽しみにしています。

ふくだももこ

1991年、大阪府出身。監督、脚本を務めた卒業制作『グッバイ・マーザー』(13)がゆうばり国際映画祭2014、第六回下北沢映画祭、湖畔の映画祭に入選。同年、映像産業振興機構(VIPO)による『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2015』に選出され注目を集める。2016年には執筆活動も開始し、すばる文学賞を受賞し小説家デビュー。山戸結希企画・プロデュース映画『21世紀の女の子』(19)、ドラマ『深夜のダメ恋図鑑』(ABC/18)にて監督を務めるなど映像、文学の両フィールドで活躍中。