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『いいね!光源氏くん』は千葉雄大×伊藤沙莉だったから成功した らしさ溢れた有終の美を振り返る

リアルサウンド

20/5/26(火) 6:00

 終わってしまった。連続ドラマの最終回を終えて、こう思えるなんて幸せだ。『源氏物語』の光源氏(千葉雄大)が、突如として現代のこじらせOL沙織(伊藤沙莉)の前に現れ、交流を深めていくファンタジーラブコメディ『いいね!光源氏くん』(NHK総合)は、まさに「もっと、ずっと観ていたい」と思える良作だった。(※以下ネタバレに繋がる記述あり)

【写真】光源氏(千葉雄大)と中将(桐山漣)

 第七絵巻「ばっくとぅ京都?」で大ゲンカをしてしまった光と沙織。続く最終絵巻「光くんばいばい?!」は切ないシーンが多くなったが、第一絵巻からほっこり笑える姿勢を貫いてきた本作らしいシーンはきちんと用意されていた。光と中将(桐山漣)、ホストのカイン(神尾楓珠)のイケメン3人衆による、沙織との仲直りのためのスイーツづくりは、可笑しさと目の保養に十分だった。そしてその夜。沙織も同じ思いでスイーツを用意していた。微笑ましいプレゼントかぶりに目を細めていると、光が「わたしはここにいたい。いま目の前にいるそなたと」と告白! 興奮させられたのもつかの間、沙織は光をもとの世界へ戻すために「あなたのことが嫌い」とウソをつく。中将から「女人の口から出てくる言の葉は大概が本音の裏返し。本音を知りたければ瞳を見なさい」とアドバイスを受けていた光だったが、光を想うからこその沙織の固い決意の前に、そのウソを見破ることができない。

 ほっこり、にっこりで進んできた本作を観ながら、まさかの涙腺崩壊である。住む世界が違うふたり。現実の世界と平安の物語の世界へ、それぞれが生きる場所へと戻るしかないのかと遣り切れない気持ちのまま、光と沙織の最初で最後のデート(別れの儀式)を見守ることに。抹茶ラテフロート、ボール蹴り(蹴鞠もどき)、もんじゃ焼き屋……、過ごした時間と今のふたりの距離の変化にグッとくる。そして、もう確実に両想いだよ! と切なさが最高潮に達したその時、光をもとの世界へと戻す計画の仕上げが実行され、光は沙織の前から姿を消した。

 さて、このご時世に癒されると老若男女の支持を集めた本作は、ほっこり、にっこりだけでなく、大切な出会いによって人が変化する様を描いてみせた。「100%の気持ちで向き合いたい」と願った沙織だが、彼女自身が自分と向き合い、光への想いと向き合ったことで、結果、「元の世界に戻ることは不可能だから、だったら沙織と一緒にいたい」という代替的ではない「光の100%の気持ち」に引き寄せられたラストへ成就した。また最終話では姉妹愛もこれまで以上に伝わり、詩織(入山杏奈)を見つめる沙織の優しい表情が印象的で、ひと回り大きくなった沙織を感じさせた。

 光は本当に大切なものを知った。雅で愛くるしいチャーミングな趣はそのままに、優しさが加わった微笑みに、きちんと“相手へ”向けられた気持ちが伝わった。そして中将。「自分は源氏の添え物である」と物語上の自分の役割を知り、「己とは何であるのか」と苦悩した中将の、「しかし私は友に恵まれた」との言葉には、「自分が何者であるのか、どんな名で呼ばれたかではなく、どう生きたかのほうが遥に大切だ」と語った光の言葉への答えが見え、カインの「中ちゃん、かっこいい!」はそのまま視聴者の気持ちだった。

 1話30分、全8話。丁寧な演出(衣装や小物など含む)と役者の力量が多くの視聴者を引き付けた。特に最終話、沙織の部屋、そしてラストに繋がる横断歩道前での光と沙織の1対1の芝居は非常に見ごたえがあった。それぞれの輝きとともに、1+1は必ずしも2ではないことを実感させた千葉と伊藤。間違いなく本作は、千葉と伊藤であったから成功した。あざと可愛さが人気の千葉だが、本作のコメディ演技でさらに一皮むけた感じがある。巧さを再認識させた伊藤は、ヒロインとしての煌めきに、さらなる魅力を発揮した。また桐山も彼自身が持つもともとの色気に加え、年齢を重ねてきたゆえに醸し出される優しさに溢れ、中将をより魅力的な人物にしてみせ、入山と神尾もそれぞれにフレッシュな空気を送り込んだ。

 沙織の「100%」が叶ったラストは、実に本作らしい幕引きだった。後ろ髪を引かれるくらいが有終の美を飾ったことになると分かってはいるものの、だが、それでもその後の光と沙織を観てみたい。どこか可愛らしい安倍課長(小手伸也)らのいる沙織の職場や、中将のスピンオフもぜひ観たい。キャラクターみなを愛おしいと思える、観ているこちらまで優しくなれる作品だった。土曜の夜を温かな気持ちで満たしてくれてありがとう。

(望月ふみ)

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