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布袋寅泰 GUITARHYTHMという人生

原点回帰ともいうべき冒険心あふれる作品 『GUITARHYTHM Ⅴ』

毎週連載

第15回

19/8/28(水)

全国ツアー「HOTEI Live In Japan 2019 ~GUITARHYTHM VI TOUR~」を展開中の布袋寅泰。今回のライブの基軸をなすのは最新作『GUITARHYTHM Ⅵ』だ。その世界観をより深く理解するために、この連載ではGUITARHYTHMシリーズを読み解いていく。原点回帰ともいうべき冒険心あふれる、15年ぶりのGUITARHYTHM作品『GUITARHYTHM Ⅴ』を振りかえる。

── アルバム『GUITARHYTHM V』は、『GUITARHYTHM IV』以来15年ぶりのシリーズ新作となりました。なぜ、このタイミングでGUITARHYTHMシリーズを復活させようと思ったのでしょうか。

布袋 今思うとこのころ、創作に行きづまっていたのかな。困ったときのGUITARHYTHM(笑)。原点回帰してソリッドでアバンギャルドな冒険心あふれる作品を作りたいと思った。GUITARHYTHMという言葉は僕を自由にしてくれる。ソロになっていつの間にか“布袋寅泰”という殻に閉じこもってしまったところがある。自分を解散するわけにはいかないから、リセットするような気持ちで挑んだ作品だね。

── “8ビートの封印”と“コンピュータを使用しない生のバンドサウンドの極限”を志した前作アルバム『AMBIVALENT』からの反動、揺り戻しのようなものがあったのでしょうか。

布袋 制作やライブや何もかも、予定調和を息苦しく感じはじめたころだったのかもね。『AMBIVALENT』は中村達也をはじめとする非プロフェッショナル志向というか前衛志向のフリーなミュージシャンとの刺激的な接触によって、布袋らしさからの脱出を図った意欲的な作品だったけど、どこか核の部分がないというか、聴き手に対して説得力のないアルバムだったかもしれない。僕の作品は常に前作の反動から生まれているから、間違いなく『AMBIVALENT』での成功も反省も反映されてるね。

── GUITARHYTHM誕生から20年。あらゆる環境がアップデートされていたと思いますが、『GUITARHYTHM V』と向き合うにあたってあらためてコンピュータの進化を感じましたか。

布袋 『GUITARHYTHM』のころは「デジタルは予測不可能」なアバンギャルドなツールだったけど、20年後のデジタルは進化しすぎて、ただの便利なだけのツールになってしまった。雛形=テンプレートに沿って誰でもそれなりの表現ができるようになっちゃったしね。コピペ時代ね。歌詞の世界も、未来への行き止まり感というか、未来という名の絶望、みたいなデストピア的イメージがテーマになっちゃうよね。「SCIENCE KILLED THE FUTURE」という曲はバグルスの「ラジオスターの悲劇(Video kill the radio star)」の2000年代バージョンだよね。

── GUITARHYTHMシリーズではおなじみの永石勝さんが再びアートディレクションを担当されています。エッジーなビジュアル面を構築する上で、どんな会話をされましたか。

布袋 そのころ出会った資生堂のヘアメイクの原田忠くんが、ものすごく独創的なクリエィティブなアーテイストで、彼の作品から刺激を受けた部分もあるよ(https://hma.shiseidogroup.jp/harada/) 。永石さんのカメラで、退廃的なアンドロイドをイメージして作ったビジュアルだよ。トゲトゲのジャケットはコレクションラインのディオールでものすごく高かったけど購入し、その後のツアーでも使ったね。アクリルのトゲトゲがすごすぎてギターのストラップをかけることができなかったけど(笑)。『GUITARHYTHM』で着たヴィヴィアン・ウエストウッドのアーマージャケットに勝るとも劣らぬインパクトだったね。

── GUITARHYTHMのコンセプトである “ギター”と“リズム”に加えて“言葉のリズム”へのこだわりを強く感じました。ヒップホップ的ビート感など意識された点はあったのでしょうか。

布袋 森雪之丞さんとは確かにヒップホップ的な言葉の跳ね方や、韻の踏み方を意識しようと話した。「DECALOGUE」や「APPLES」、「TiC TaC」など個性的な他のGUITARHYTHMシリーズにはなかったアプローチにもトライしたよ。しかし日本語は難しいよね。毒とユーモアのギリギリの線を狙っても、なかなか思い通りの形にならない。早いビートに乗せると早口言葉になっちゃって、フックの部分が頭に残らなくなってしまう。

── レコーディングはロンドンではなく、日本で約半年にわたって行われましたが、これまでのGUITARHYTHシリーズの制作スタイルとの違いは?

布袋 GUITARHYTHMシリーズ中、唯一の日本録音。あのころの作品は自宅のスタジオでデモを作り、外のスタジオで仕上げるというルーティーンだったね。その制作方法に飽きも出て、行きづまった時期でもある。この『GUITARHYTHM V』を作ったあたりから、そろそろ日本を脱出しないとマズイな、と思いはじめたのかもね。音楽作りの環境を変えないと、ずっと同じ場所を堂々巡りするだけ、というか。イギリスのバンドなんか見てると、アルバム1枚ヒットさせたら入ったお金でドンとスタジオ作って、また次のアルバム当てたらまた違うスタジオ作っちゃうみたいな。やっぱり、毎回音楽を新しい気持ちで作ってゆくのは環境をアップデートしていかないと煮つまるよね。

── 本作には、コブクロの小渕健太郎さんが作詞で参加した王道感ある「風の銀河へ」、RIP SLYMEのFUMIYAさんらしさのあふれるリズムアレンジが活きる「TiC TaC」、過激なビートが炸裂する大沢伸一さんとの共作「VICIOUS BEAT CLASHERS」、Jazztronikの野崎良太さんとの共作によるLOVEさん参加のデュエット「BEAUTIFUL MONSTERS」、UKギターロックな會田茂一さんとの共作「APPLES」、ファンクでテクノなKREVAさん作詞の「NO TURNING BACK」など、数多くのミュージシャンがゲスト参加しています。

布袋 ここまで多くのコラボレーターとアルバムを作るのは初めてだったから楽しかったよ。それぞれ個性的な面々だし、いろいろ勉強になった。しかし今思うとちょっと他力本願だったかな。きっと自分の中の引き出しが空っぽに近かったのかも。長いアーティスト活動の中ではそういうスランプのような時期もあるさ。ま、そのスランプを抜け出すために『GUITARHYTHM V』を作ったんだけどね(笑)。

質問作成:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) 構成/編集部

最終回となる次回は9月上旬アップ予定。「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で日本全国を回ったあとの充実のコメントをロンドンからお届けします。

プロフィール

布袋寅泰

伝説的ロックバンドBOØWYのギタリストとして活躍し、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビュー。プロデューサー、作詞・作曲家としても高く評価されており、クエンティン・タランティーノ監督の映画『KILL BILL』のテーマ曲となった「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」が世界的に大きな評価を受ける。2012年より拠点をイギリスへ。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たし、 2015年10月にインターナショナルアルバム『Strangers』がUK、ヨーロッパでCDリリースされ、全世界へ向け配信リリースもされた。2017年4月にはユーロツアー、5月には初のアジアツアーを開催。6月9日から「HOTEI Live In Japan 2019~GUITARHYTHM Ⅵ TOUR~」で全国24ヵ所24公演を巡る。


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