まだ若きカリスマラッパーがやや自伝的に不遇な若者がラッパーとしての人生に目覚めるまでを描いた映画を撮った、とだけ聞くとなんとなく悪い予感しかしない。つまり、ナルシスティックな物語やMV的なカッコつけた編集などをつい想像してしまうからだ。ところが映画というのはやはり観てみないとわからない。本作はそういう「心配事項」を一切排除した、どちかといえば節度と古風さすら感じさせる作品で、野村周平扮する主人公の彷徨と自立の物語が素朴に描かれる。ベテランスタッフの助言を監督が謹聴した成果かもしれない。一点遊んだふしのある渡辺真起子の役柄と、繊細な播摩祐子のサウンドトラックも心に残る。