ミニシアター文化が咲き誇っていた1980年代半ばに公開され、静かな反響を呼んだスイス映画である。 人里離れたアルプスの山岳地帯で暮らす家族の物語だが、『アルプスの少女ハイジ』のような牧歌的な世界を思い浮かべてはならない。スクリーンに映し出される大自然は美しくも厳しく、恐ろしいほど神秘的。ひたすら不便で過酷な日常を生きる人間たちの営みを、フレディ・M・ムーラー監督は一切の装飾を排し、ドキュメンタリーのように剥き出しのまま映し出す。 やがて姉弟の近親相姦という罪深き行為までも淡々と見つめる映像世界は、登場人物の死という悲劇さえ平然とのみ込んで、何事もなかったかのようにひっそりと幕を閉じていく。このデジタルリマスター版によるリバイバルで、背筋がゾクリとするほどの厳かな戦慄を体験してほしい。