Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

Cardi B & Megan Thee Stallion、Dua Lipa……女性ミュージシャン同士のコラボ曲から切り取る、メインストリームの“今”

リアルサウンド

20/8/23(日) 10:00

・Cardi B & Megan Thee Stallion「WAP」
・Ciara「Rooted ft. Ester Dean」
・Dua Lipa「Levitating (feat. Madonna and Missy Elliott) [The Blessed Madonna Remix] 」
・Avenue Beat「F2020」
・ppcocaine「3 Musketeers feat. NextYoungin」

 2020年のポップシーンのメインストリームにおける特徴の一つとして語られるのが、“女性ミュージシャン同士のコラボ楽曲”。以前、本連載で紹介したミーガン・ジー・スタリオンの楽曲にビヨンセが参加した「Savage(Remix)」を筆頭に、今年は4つの女性ミュージシャン同士のコラボ楽曲が全米ビルボード・チャートで1位を獲得している。ちなみに2019年以前に1位を獲得したのはわずか9曲。そもそも1年で複数の楽曲が1位となること自体が歴史上初めてなのだそう。

 「メインストリーム」をテーマに楽曲をピックアップする本連載だが、(選出する際に、特に意図はしていないが)その流れを受けるように、今回は5曲中4曲が女性ミュージシャン同士のコラボ楽曲となっている。

“性”の主導権は自分にある
Cardi B & Megan Thee Stallion「WAP」

 リリース前から大きな話題を呼んでいた、カーディ・Bとミーガン・ジー・スタリオンという人気ラッパー同士の初コラボレーション楽曲となる本作。全米ビルボード・チャート初登場1位、初週のストリーミング再生回数9,300万回(米国内)という今年トップの記録を叩き出し、ノーマニやカイリー・ジェンナーなどのカメオ出演も話題のMVも8月21時点で1.1億回再生を突破。すでに今年を代表する1曲と断言しても何の問題もないだろう。

 トゥワークを盛り上げる弾むようなリズムと、DJ Frank Skiの「Whores In This House」をサンプリングしたループの絡みが生む中毒性が印象的な「WAP」だが、本楽曲はその歌詞やMVの過激さから米国を中心に物議を醸しており、シーロー・グリーンといった大物ミュージシャンからも名指しで批判を受けているという一面も持っている。しかし、それ自体が2人の狙いでもある。本作の過激さは男性を楽しませるためではなく、あくまで“自分”が楽しむためのものであり、だからこそ大きな賛同と、やはり大きな批判を巻き起こしているのだ。

 本楽曲のリリックの大部分は自らの“Pu**y”を自慢しながら、性行為を楽しむ様子で占められているが、2人はその中で“男性に奉仕する”という考えを否定し、常に自らが主導権を握り続ける。さらに、「私は料理もしないし、掃除もしない。でも、どうやって結婚指輪を手に入れたのか教えてやるよ(I don’t cook, I don’t clean. But let me tell you how I got this ring.)」、「食物連鎖において、私は食べる側なんだよ(In the food chain, I’m the one that eat ya.)」と、性的行為をモチーフとしながら、家父長制や従属関係といったステレオタイプを解体していく。「WAP=“Wet-Ass Pu**y”」をタイトルに据えた本楽曲のテーマは女性のエンパワーメント、そして性の解放にある。これまで数多くの性的な楽曲が男性ミュージシャンによって歌われ、その中には女性に奉仕させるという内容も数え切れないほど存在する。カーディとミーガンは「主導権は私にある」と宣言し、その慣習を真正面から破壊しようとしているのだ。

Cardi B – WAP feat. Megan Thee Stallion [Official Music Video]

意志は根付き、受け継がれていく
Ciara「Rooted ft. Ester Dean」

 2000年代から活躍を続けるR&Bシンガーソングライターのシアラによる新曲となる「Rooted」。制作当時、シアラは第三子を妊娠中であり、本楽曲のMVではその凛々しい姿を子ども達と共にフィルムに収めている(この映像が撮影されたのは、出産のわずか2日前である)。そして、MVに映るプロテストの集団が示す通り、本楽曲は明確にBlack Lives Matterに代表される人種差別反対運動を意識して制作されている。

 前作となる昨年のアルバム『Beauty Marks』はR&Bを軸としつつも、ポップシーンとも親和性の高いキャッチーな楽曲群が印象的な作品だったが、「Rooted」は高揚感を掻き立てるような原始的なリズムと壮大なコーラスワーク、女優として活動するエスター・ディーンによるスピーチのような咆哮、言葉の一つひとつを力強く歌い上げるシアラのボーカルが牽引する、自らに根付くルーツを踏まえた、強くリスナーの本能に訴えかけるような楽曲に仕上がっている。

 最初のバースで「全ての私の楽曲はメラニンから生まれている。ハリエット・タブマン(※米国における歴史的な奴隷解放運動家)のような心を、魂を手に入れた(All my songs come with melanin. Got the heart, got the soul like Harriet)」と宣言する本楽曲のテーマは「黒人であることの美しさ」だ。未だに差別が蔓延する世界の中で、新たなる生命の誕生を前に、シアラは黒人であることを強く称える。「人生が簡単で無いことは分かっている。あなたの人生は重要だ。私を信じて(I know that life it ain’t easy. Your life it matters, believe me.)」という言葉は、あらゆる同胞へのメッセージであると同時に、間もなく生まれようとしている我が子への、母の祈りのようにも聞こえてくる。

Ciara – Rooted ft. Ester Dean (Official Video)

様々な時代のレジェンドが交わる、懐かしくも新しい”ダンスフロア”
Dua Lipa「Levitating (feat. Madonna and Missy Elliott) [The Blessed Madonna Remix] 」

 今年3月にリリースされた、ポップシンガーのデュア・リパによる『Future Nostalgia』。各メディアで「2020年のベストアルバム」とも語られるほどの支持を集めている同作だが、その勢いを加速させるように、本作のリミックスアルバムとなる『Club Future Nostalgia: The Remix Album』のリリースがアナウンスされた。本来、リミックスアルバムというのは、クラブでDJがプレイすることを前提として原曲を再構築するのが一般的だが、デュアは本作で新たなアプローチを試みようとしている。そのヒントとなるのが、リードシングルとして発表された本楽曲だ。

 今回リミックスを手掛けたのは、現行クラブシーンで絶大な人気を集めるThe Blessed Madonna(旧:The Black Madonna)。原曲はディスコソングにおけるクラシック中のクラシックであるBee Geesの「Stay’n Alive」を彷彿とさせるファンキーなメロディと高揚感溢れるコーラスワークが印象的な楽曲だが、今回のリミックスでは同じくディスコ界のレジェンドであるジョルジオ・モロダーの楽曲のようなシンセフレーズのループを軸とした、よりダンスフロアを想起させる楽曲へと生まれ変わっている。そして、そのステージに立つのはデュア・リパだけではない。マドンナとミッシー・エリオットという、それぞれポップカルチャー、ヒップホップカルチャーを象徴するレジェンドが参加しているのだ。

 この2名は、カルチャーを象徴すると同時に、かつて様々な現場を盛り上げてきた“ダンスフロアの当事者”でもある。それを示すように、本リミックスではマドンナがメロディパートのほぼ全編を歌うことでステージの中心として君臨し、ミッシー・エリオットがまるでフロアMCのように場を駆り立てる構図となっており、まるで80年代からゼロ年代までのダンスフロアが一つに交わったような楽曲となっているのだ。クラブシーン全体がパンデミックの影響で停滞を余儀なくされている今、デュア・リパは『Club Future Nostalgia: The Remix Album』を通して、自身にとっての“理想的なダンスフロア”を創り上げようとしているのではないだろうか。

Dua Lipa – Levitating (feat. Madonna and Missy Elliott) [The Blessed Madonna Remix] (Official Video)

「2020年」にウンザリして疲れ切った私たちのための曲
Avenue Beat「F2020」

 元々カントリーポップを中心に活動していたアメリカ・ナッシュビル出身のトリオであるAvenue Beat。そのメンバーが7月に未完成の音源をTikTokにアップしたところ、翌日にはなんと450万回再生を記録し、完成後のバージョンがアップされた現在でも絶大な人気を集め、いよいよTikTokの枠を超えてメインストリームへのヒットへと手を伸ばそうとしているのが、この「F2020」である。タイトルにある“F”はFワードを意味している。つまり、「2020年」に中指を立てているのだ。

 単音のギターが紡ぐシンプルなフレーズとトリオならではのコーラスワークを活かした音像の中で、ボーカルは終始気だるげに、いかに2020年にウンザリしているのかを綴っていく。「12月31日、私はビールを吐くほど飲んで、『2020年は私の年になるよ』って言った。実際そうなるって思っていたんだ。この最悪な一年に1、2カ月くらい与えるまでは。(December 31st, I grabbed a beer. Threw it up, said, “2020 is my year, bitches.” And I honestly thought that that was true. Until I gave this motherfu**er like a month or two.)」と歌い出し、映像にはマスクを着ける人々やプロテストに参加する人々の様子が映し出されていく。そしてフックで歌う、「2020年なんてF**kだ。まだ悲しいし、お金も無い(Lowkey f**k 2020. Still sad, still ain’t got no money.)」というフレーズ。内容への強い共感と響きの良さが相まって、嫌なことがあった時に思わず口ずさみたくなるような1曲になっている。

 この楽曲が生まれたきっかけは、実際に生活にウンザリする中で、歌詞にもある通り、メンバーの愛猫が亡くなってしまったことだという。強い閉塞感を感じたり、ニュースに憤りを感じる生活、その中で起こる身近な不幸。もちろん、それ自体は悲しい出来事である。ただ、あくまで世の中の事象ではなく、パーソナルな出来事がトリガーとなっているからこそ、「F**k 2020」という言葉がよりリアルな感情となって聴き手の心を動かす。だからこそ、本楽曲は大きな共感を集めているのだろう。誰もが抱く感情を正直に、怠く歌うこの曲は、2020年を生きるというムードを的確に描いた楽曲だ。間違いなくTikTokという枠を超え、メインストリームへと広がっていくはずである。

avenue beat – F2020 (lyric video)

驚異のスピード感で人気を集める、TikTok発の新鋭ラッパー
ppcocaine「3 Musketeers feat. NextYoungin」

 2020年の6月に音楽活動を開始したアメリカ西海岸出身、19歳のppcocaine(通称:cocaine)はTikTokで今、最も人気を集めるラッパーの一人だ。6月にリリースした「DDLG」がすでにTikTokで900万回以上の再生回数を記録し、若い世代を中心に強い支持を集めており、その勢いのままに新たなスマッシュヒットとなっているのが、日本語で“三銃士”を意味する言葉を冠した「3 Musketeers」である。

 cocaineの魅力は、まるでカートゥーンから飛び出したような奔放な声でアグレッシブに放たれるラップと、過激なトピックを扱いながらも下世話になりすぎないユーモア溢れるワードセンスにある。本楽曲でもこの魅力は存分に発揮されており、「私には3人のBitchがいるんだ。まるで三銃士みたいにね(I got three bitches on me like the three musketeers.)」というキラーフレーズが炸裂するフックを筆頭に、数多もの女性を自らのテクニックで魅了していく様をコミカルかつ好戦的にラップしていて、とにかく聴いていてテンションが上がる1曲となっている。

 本楽曲は多くの若い人々の支持を集め、TikTokフォロワー数世界1位(約8千万人)の16歳、チャーリー・ダメリオが本楽曲を使ったダンスビデオを投稿し、Spotifyでの再生回数は自身最多の800万回を突破と、その勢いは加速していく一方だ。ppcocaineの楽曲は、「過激である」ということから批判の対象となることも少なくないのだが、むしろ本人もそれを自覚した上でやりたいようにやっており、リスナーもその姿勢に共感して応援している。だからこそ、音楽活動を開始してわずか数カ月という驚異のスピードでここまでの人気を得ることに成功したのであり、ppcoccainが新世代のアイコンとして語られる日もそう遠くはないように感じる。

ppcocaine – 3 Musketeers feat. NextYoungin ( Official Audio/ Lyric Video ) Prod. SpainDaGoat
RealSound_ReleaseCuration@Noimura20200823

■ノイ村
普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
note
Twitter : @neu_mura

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む