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橘ケンチが語る、日本酒擬人化マンガ『あらばしり』の狙い 「個性や味の違いがあって面白いということを伝えたい」

リアルサウンド

20/12/20(日) 17:00

 EXILE/EXILE THE SECONDの橘ケンチが企画原案を務めるマンガ『あらばしり』が12月18日より、少年マガジン公式無料マンガアプリ「マガジンポケット」で連載開始となった。ストーリーは看板もなく、必要としている人にしか訪れられない謎の店を舞台に、日本酒を擬人化したキャラクターたちが活躍するというもの。監修は、橘とともに『HiGH&LOW』シリーズの脚本や監督でも知られる俳優の平沼紀久が、作画はタクミユウが担当している。

 これまで日本酒をライフワークとしてきた橘だが、なぜ今回この様な斬新な企画をプロデュースしたのだろうか。これまでの活動を踏まえつつ、その背景や工夫を存分に語ってもらった。(小池直也)

蔵元さんの性格や歴史、味わいを知ったうえでキャラに投影

――橘ケンチさんはこれまで、様々な形で日本酒の魅力を伝える活動をしてきましたが、今回のマンガという展開は良い意味で意外でした。どのような経緯でこの企画が実現したのでしょうか?

橘:これまで酒蔵さんとコラボしたボトルも作りましたが、もっと自分の本業であるエンタテインメントの領域でも盛り上げていきたいと考えていました。日本には1万銘柄以上の日本酒がありますが、あまり詳しくない方からすると、どれが良いのかが分からない。美味しかったら美味しい、不味かったら不味いという判断が多いと感じるので「こういう銘柄があって、こういう個性や味の違いがあって面白い」ということを伝えたかったんです。そこで、マンガという手法に着目しました。

 最初は日本酒に背番号を付けようと思ったんですよ(笑)。『新政』だったら六号酵母だから6番で『真澄』は七号酵母だから7番、『十四代』が14番とか。スポーツだったらスター選手のユニフォームの番号が好きになるじゃないですか。同じように日本酒の銘柄がスターになっていけば面白いのかなと。

 そんなところから構想が始まって「だったら銘柄を擬人化してみたらどうだろう?」と思ったんです。酒質を投影したキャラクターは、例えばフルーティで軽やかなものだったらサラッとした美青年だったり。そういう人物が共演したら面白そうだなと考えて、色々な人と相談しながら企画していったんです。異なる入り口から入って日本酒にたどり着いてほしい、という気持ちもありましたね。

――マンガ化に当たって、こだわった点などは?

橘:僕が実際に各蔵を伺ったり、味わってみたり、蔵元さんの性格や歴史、味わいを知ったうえでキャラに投影したのですが、それを共有するのに苦労しました。チームの方々と蔵に行ったり、飲んだりしながら、同じ視点でキャラを見てもらうことが最初の壁だったように感じます。あとはストーリーをどう肉付けしていくかは悩みましたね。最終的に悩みを抱えている女性のところに、色々な銘柄のキャラが代わる代わるやって来て問題を解決する、という物語になりました。

――昨今はグルメマンガが人気ですが、その王道的な展開を踏襲しつつ、『刀剣乱舞』シリーズのような面白さもありますね。

橘:そうですね。あとは『神の雫』や『笑ゥせぇるすまん』など他の作品からもインスピレーションをもらっているかもしれません。僕はスポ根マンガが好きなのですが、そういう点は赤武というガッチリ系のキャラクターに反映されたかなと思います。

――擬人化するお酒はどのように選んだのでしょうか?

橘:今回選んだ6銘柄は日本酒好きの間では知られている蔵のお酒ですが、個人的にニューカマーみたいなイメージのあるお酒にスポットを当てました。それを一般に紹介すれば日本酒業界の勢いが増すかなと。一番最初に決めていたのは『一歩己』でした。2年前くらいに飲んで美味しかったのと「作り手はまだ若い人だよ」とお店の方に教えてもらったのも印象に残っていました。そこまで派手ではないですが、バランスが良いので、そばに置いておきたい1本。それがメインで、周りに個性豊かなキャラが散りばめられていると構成としては面白そうだと思いました。

 『一歩己』という名前も好きなんです。ネーミングって大事じゃないですか。今回の6銘柄はその点からも擬人化しやすいし、好んでもらえそうだということも考えました。例えば『田中六五』も大好きなんですが「田中くん」だったらキャラクターとしては普通っぽいイメージになりますよね?(笑)。あと『村祐』はレザーの革ジャンとか着てバイクに乗っているんですが、蔵元さんがそういう方なんですよね。キャラの性格はそういうところから来ていたりもします。

――共同監修には『HiGH&LOW』シリーズの脚本を手がける平沼紀久さんが参加しています。どんなやりとりをしましたか?

橘:紀さんは一緒に企画を作りやすい方なので、アイデアが浮かんだら紀さんに連絡します。このマンガに関しても彼に相談して、講談社の編集者さんを紹介していただいて、早々に話が進んだのは大きかったです。準備は1年半くらい前からスタートしました。でもいくら企画を練っても、形にするのは漫画家のタクミユウ先生ですから。描く時間も必要ですし「マンガが半年でできる訳がない」ということを改めて学びました。

 タクミユウ先生は理解力が高いし、頭の回転が早くて、受け皿も広いんです。打ち合わせを兼ねて3、4回ほど飲ませて頂いたのですが、詳しく説明しなくても話のなかで全部汲み取って、仕上げてくださいました。先生の絵が好きだったので「絶対この方に書いてもらいたい」と。人物を綺麗でセクシーに描けるところが魅力だと思います。カッコ良く日本酒を飲める男性の絵が理想だったので、自分のツボに合うなと感じています。

――「特に女性に読んでほしい」という狙いがあるとのことですが、この意図とは何でしょう。

橘:エンタメに関してもそうですが、良いものを広めてくれるのは特に女性だと思うんですよ。だから女性に読んでいただいて、その流れで日本酒も知っていただいて、美味しいと広めてほしいですね。もちろん世代や性別を問わず読んでいただける内容だと思いますので、男性にも読んでほしいと思ってます。

蔵によって仕込み方も考え方も違う

――ご自分の日本酒についての活動が人々に響いてる、と感じることは?

橘:まだ世間一般で盛り上がっているという感覚はありませんが、LDHのファンの方々の中では僕の活動への認識が少しずつ定着している気がします。イベントにも多くの応募があるので、内側から輪が広がっているのかなと思います。

――毎回イベントで出てくる食事もおしゃれですよね。どんな料理が日本酒に合うのでしょう。

橘:日本酒を飲むだけじゃなく、ペアリングで提案してみると別の発見があるんです。そこも重要なポイントじゃないのかなと。LDH kitchenで日本酒のイベントを開催する時の料理はシェフにも提案していただいてます。

 食べ合わせに関してはプラス×プラス、マイナス×マイナスという感覚があるんですよ。要は甘いもの×甘いもの、酸っぱいもの×酸っぱいもの、辛いもの×辛いものは同調し合う。あとは甘いもの×辛いもので後味をきれいに切る、というか。例えば新潟では刺身を醤油で食べて、生臭さを淡麗辛口でクッと切るみたいなイメージだと思います。

 最近は「味の成分同士を掛け合わせてプラスアルファを生む」という考えが増えている気がします。僕は甘辛い鯛の煮付けに酸味の強いお酒を合わせるのが美味しいだろうなと体験のデータで考えたりすることが多いですね。僕はそこまで分かりませんが、化学式的にも合致するところがあると思います。詳しい人は「しいたけのグアニル酸が、こっちのイノシン酸と合う」と、化学式でペアリングを考えるんですよ。

――そういえば橘さんが日本酒と一緒に楽しむことをお勧めする料理には、麻婆豆腐とか和食以外のものも多いですよね。

橘:昔から提案してますね。僕が麻婆豆腐を大好きなのもありますが(笑)、酸味の強い日本酒と合うと思うんです。中華料理と日本酒の組み合わせは日々やってますよ。若い蔵元が作っている個性的な日本酒とかは面白いものが多いので、王道な和食はもちろん中華とかイタリアンでも合うかもしれません。

――他にも酒蔵を回って得た新しい視点はあります?

橘:蔵によって大事にしているところが違うということはよくわかりました。例えば、設備に投資するところもあれば、人や立地を重視するところもあって、それは蔵元さんの趣味趣向や経営感覚。その違いを見られるのが一番面白いですね。「この蔵はこれを重視しているから、こういう味になるのか!」という発見があります。機械をたくさん使っているのと、手仕込みが多いのとではまた違う味わいになる気がします。

 「この蔵はこういう層に好まれてる」みたいなスタイルも色々です。山梨の北杜市にある七賢という蔵は近くにサントリーの白州蒸留所が近いこともあって、観光客が年間2万人ほど来るそうです。蔵見学も出来て、帰りは隣の店でお酒を買って帰るというながれがしっかりできている。だから東京に出荷しなくても、自分のテリトリーで勝負できるから強いですよね。

――これまでコンスタントに4つの蔵とコラボ日本酒を作ってこられましたが、実際に作って学んだこともあれば教えてください。

橘:僕は素人なので蔵人さんに混ざって教えてもらいながら作る感じです。昔、居酒屋でバイトしていた頃の感覚が蘇る感じで楽しいんですよね(笑)。実際作ってみると愛着が湧きますし、工程も分かるので持論に説得力が生まれている気がします。

 個人的に大事だと思うのは酒母と麹。酒母はお酒のスタートになるものですね。最初は小さい容器で仕込んで、酵母を少しずつ培養していくんです。いきなり増やすと酵母が死んでしまうので。『新政』は「生酛造り」という特殊な仕込みをするんですよ。それは現代的なやり方に比べて3、4倍の時間がかかりますが、それをブランドとして作りあげたから今の『新政』がある。

 やっぱり蔵によって仕込み方も考え方も違うので、その多様性は受け入れていかなきゃと思いました。あとは同じ蔵でも毎年行くたびに表情が違いますから、進化も見られるのがいいですね。あとは単純に関係が深くなるのも嬉しいです。

――12月24日には福岡の白糸酒造とコラボした『橘6513』が発売されますね。

橘:去年作った『橘六五』よりも低アルコールであり、13パーセントになっています。日本酒は15から16パーセントが標準なんですが、最近は13から14パーセントものがトレンドになってきているんです。飲み口も軽いですし、飲みやすいので今回はそれに挑戦しました。出来はめちゃくちゃ良かったですね。水みたいに飲めますよ。ぜひ飲んでみてください。

――コロナ禍による日本酒業界へのダメージについて、どの様にご覧になっていましたか。

橘:大変だという話は聞いていました。中には前年比8割減、ということもあると聞きましたし。飲食店が営業できなくなると、一般よりも飲食店向けにたくさん降ろしていたお蔵さんは厳しいはすですし、家で飲まれるにしても限界はありますから。エンタメと同じく、これを機に色々変わっていくように思います。

 でも日本酒の文化はこれから海外への輸出量も増えて世界中で飲まれると思います。聞くところによると、アメリカやヨーロッパ、香港などで人気があるそうです。フランスではフランス料理のお店で日本酒が出てくるというところも増えているとか。輸出額は年々、右肩上がりで増えているので、この傾向はしばらく続くのではないでしょうか。

 コラボボトルやマンガを発表するのもそうですし、僕もできる限り応援させてもらいたいと思ってます。味に関してはプロが作るべきで、僕のやるべきことはプロデュースなどの形で魅力を届けることかなと。いかに自分の頭を絞って、色々なアイデアで展開していけるか。マンガを起点に今後も考えてやっていきたいと思います。

■マンガ『あらばしり』連載情報
漫画:タクミユウ 
企画原案:橘ケンチ(EXILE/EXILE THE SECOND) 平沼紀久
掲載媒体:少年マガジン公式無料漫画アプリ『マガジンポケット』
公開日:2020年12月18日よりスタート
公式HP:https://pocket.shonenmagazine.com

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