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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

『愛しのアイリーン』 (C)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ

樋口尚文 銀幕の個性派たち

田中要次、読み解く数だけ役がある

隔週連載

第13回

18/12/20(木)

 個性的な面立ちなのに特に自らのことは語らず、出入りするゲストたちを常に主人公として盛り立てるバーテンダーのような存在が、名脇役と言えるかもしれない。その喩えそのままに、フジテレビの人気ドラマ『HERO』の、物言わぬバーテンダー役で「あれは誰だ?」と注目を集めたのが、田中要次だった。ここでの寡黙な田中の台詞が「あるよ」だけだったことが話題になったが、最初の頃にお客にビールを出す際、「はい、ビール」と言ったらディレクターから「ビール」だけにしてください、と言われたそうである。

 この切り口はまんまとアピールして、「あるよ」しか言わない謎のバーテンダーはお茶の間で「あ、あの人だ」と一気に認知された。だが、それもそもそもは田中要次があえて何も語らずとも不思議でユーモラスなキャラクターとして見えてしまう才能を持っていたからこそ、こういう設定や演出が奏功するわけである。

 そんな田中要次の横顔をたどると、苦節何年の修行が彼を世に出したというよりも、そのぱっと見の奇異なるキャラクター性が、おのずと彼を俳優の道に引っ張り込んだ感じがする。1963年生まれの田中は、1982年に高校を卒業するとともに地元長野で国鉄職員となった。87年の国鉄民営化にともない、JR東海の社員となった彼は愛知に出ることとなり、そこでたくさんの映画にふれた。1989年に知り合いだった山川直人監督のミュージック・ビデオ『SEEK AND FIND/佐木伸誘』に出演するが、これをもって映画の世界に惹かれた田中は、家族の猛反対のなか1990年末にはJRを退職(この退職日がジョン・レノンの命日で、JRに在職した日数が8年8か月8日だったというのはもはや田中のネタである!)、91年には竹中直人監督『無能の人』の現場に照明助手として参加する。田中は、『居酒屋兆治』『1999年の夏休み』などで知られる照明技師の安河内央之についていた。

 だが、田中の風貌や雰囲気を面白がった竹中監督は、彼をカウンターのお客の役で劇中に登場させてしまう。以後も田中は、阪本順治監督『王手』や廣木隆一監督『魔王街・サディスティックシティ』、奥山和由監督『RAMPO』などの照明助手、村上龍監督『トパーズ』ではなんと録音助手もつとめたが、1994年に竹中直人監督『119』の作業中に事故を起こしたのがきっかけで俳優業に専念するようになったというが、何か田中の足跡には彼を役者道に引っ張り込もうとする引力が自然発生しているような印象がある。

  『レミングスの夏』(C)竹吉優輔/講談社

 そして、この匿名の独特な風貌の俳優が観客たちに視界にはっきり浮上しだしたのは、1999年ごろではなかろうか。ニックネームのBoBAでクレジットされた石井克人監督『鮫肌男と桃尻女』で田中の強い個性をキャラクター視した嚆矢と言えるだろう。同年には矢口史靖監督『アドレナリンドライブ』、大島渚監督『御法度』、降旗康男監督『鉄道員』、北野武監督『菊次郎の夏』、馬場康夫監督『メッセンジャー』と尖鋭な作家的な作品から安定した商業作まで実に幅広く田中が起用され、名前は知らないが印象的な「あの人」になり出した。

 この傾向は翌2000年から2001年にかけても顕著で、黒沢清監督『カリスマ』、篠原哲雄監督『はつ恋』、市川準監督『ざわざわ下北沢』、石井聰互監督『五条霊戦記 GOJOE』、三池崇史監督『漂流街・THE HAZARD CITY』、鶴田法男監督『リング0~バースデイ~』、新藤兼人監督『三文役者』、石井克人監督『PARTY7』、岩井俊二監督『リリィ・シュシュのすべて』、竹中直人監督『連弾』、和田誠監督『真夜中まで』、行定勲監督『GO』、鈴木清順監督『ピストルオペラ』などなど、気鋭の作家たちが次々と田中を起用した。テレビドラマにあっても大河ドラマから異色の深夜ドラマまで声がかかり、そのなかの『HERO』のあの役もめぐってきたことで「田中要次」の名も知れ渡った。それからの出演作の数も多彩さも目覚ましいものがあり、本人が“PV男優”を標榜するほどミュージシャンのPVでも重宝されている。

 このように田中要次はギャグめいた映画やドラマのキャラクターからPVのスタイリッシュなアイコンまで、田中というポテンシャルを作り手がどう「解読」するかによって到底まとめきれないさまざまな見え方、持ち味を獲得してきた。そういう意味では田中要次は作り手を映す鏡のような存在で、あいかわらず未知数を貫く稀有な逸材であって、できれば主演や代表作という概念に縛られてほしくない人である。

作品紹介

『サバイバルファミリー』

2017年2月11日公開 配給:東宝
監督・脚本:矢口史靖
出演:小日向文世/深津絵里/泉澤祐希/葵わかな/田中要次

『追憶』

2017年5月6日公開 配給:東宝
監督:降旗康男 脚本:青島武/瀧本智行
出演:岡田准一/小栗旬/柄本佑/長澤まさみ/田中要次

『蠱毒 ミートボールマシン』

2017年8月19日公開 配給:アークエンタテインメント
監督:西村喜廣 脚本:西村喜廣/佐藤佐吉
出演:田中要次/百合沙/鳥居みゆき/川瀬陽太/村杉蝉之介

『レミングスの夏』

2017年9月30日公開 配給:渋谷プロダクション
監督・脚本:五藤利弘
出演:渡辺裕之/たくみ稜/大桃美代子/城之内正明/田中要次

『リングサイド・ストーリー』

2017年10月14日公開 配給:彩プロ
監督:武正晴 脚本:李鳳宇/横幕智裕
出演:佐藤江梨子/瑛太/有薗芳記/田中要次/伊藤俊輔

『愛しのアイリーン』

2018年9月14日公開 配給:スターサンズ
監督・脚本:吉田恵輔
出演:安田顕/ナッツ・シトイ/河井青葉/ディオンヌ・モンサント/田中要次

プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ) 

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』が2019年に公開。

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