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『MAP OF THE SOUL』シリーズは“BTSとは何者なのか”を問う物語に ユング心理学も踏まえ新アルバム全貌を予想

リアルサウンド

20/2/10(月) 7:00

 2月21日にリリースされるBTSのアルバム『MAP OF THE SOUL:7』より、2つ目のカムバックトレーラー「Outro:EGO」が公開された。「Outro:EGO」はメンバー・J-HOPEのソロ曲。歌詞ではJ-HOPE自身が過去の不安から脱却し現在の心境に至るまでを描いている。

(関連:BTS、新アルバム『MAP OF THE SOUL:7』で葛藤と逡巡から抜け出せるか 先行公開された2曲を分析

 タイトルの「EGO」はアルバムのコンセプトの一部と思われるユングの心理学において、「自己(セルフ)からの分離による一部分のみが選択され、表面化されたもの=自我」と定義づけられている。“自己(セルフ)”が意識も無意識も全てを内包しているチョン・ホソク(J-HOPEの本名)であるとするなら、ここでいう「EGO」とはチョン・ホソクの中のアーティストである“J-HOPE”の部分を指すと思われる。最初のティーザーとして公開されたSUGAによる「Interlude:Shadow」と今回の「Outro:EGO」、前作『MAP OFTHE SOUL:PERSONA』収録のRMによる「Intro:Persona」を順に見ると、“自分は何者なのか/一生聞いてきた質問”(「Intro:Persona」)、“そう僕は君で/君は僕だ/もう分かるのか”(「Interlude:Shadow」)、“僕は分かるようになったんだ/JUST TRUST MYSELF”(「Outro:EGO」)となっていく。つまり、『MAP OF THE SOUL』シリーズというのはBTS自身が「BTSとは何者なのか?」ということを問いかけ逡巡する物語なのだろう。前作はIntro(Interlude)のみでOutroがなかったが、今作はIntro/Outroとして抑圧された自己であるShadowと、Shadowの影響を克服したEGOが対で配置されている。

 「Outro:EGO」にはデビューEPの『2 COOL 4 SKOOL』収録曲「Intro:2 Cool 4 Skool」をサンプリングしているが、この曲自体が「BTS(防弾少年団)とは誰なのか?」と問いかける曲だった。「Outro:EGO」の中でJ-HOPEが夢を追い苦しんだデビュー前後の時期を振り返る歌詞の前後にも「Intro:2 Cool 4 SkooI」のフレーズが使われており、サビの〈my EGO EGO〉は「EGO」と韓国語の「이거(移り去ること)」「이것(これ)」とのダブルミーニングと思われる。

 リーダーでありBTSの“顔”を演じることを要求される機会の多いRMが環境に適応するための仮面をかぶる“ペルソナ”を、アイドルとしての抑圧と葛藤に言及することが多かったSUGAが“ペルソナ”をつけた結果抑圧される自己=“シャドウ”を担当し、過去のネガティブな感情を全て今のポジティブな感情に変換していくようなストーリーのソロ曲を多く発表してきたJ−HOPEがそれらへのアンサーとも言える“エゴ”を担当することは、必然だったのだのかもしれない。ユングの心理学では「自我=EGOが自己から分離する時に失った、完全なるものへの可能性を取り戻すことで、全体性を回復して自己を実現する」ことが人間的な成長であるとしている。「Outro:EGO」の歌詞にある“そう俺は気にしないのさ/全ては自分の運命の選択/だから俺達はここにいる”“今は前に進むだけ”というフレーズは、まさにこの“自己実現”を達成したことを表すのではないだろうか。また、ラップラインが三者三様にひとりの人間の内面の変化を描いてみせる構成は、『花様年華』シリーズから繰り返し強調されている“7つの心臓を持つ1人の少年”というBTSのコンセプトからも外れていない。

 ちなみに、「Outro:EGO」にサンプリングされている「Intro:2 Cool 4 Skool」のパートは、それ自体が元々は韓国のヒップホップグループ・EPIK HIGHの「GO」(2003年のデビューアルバム『Map of the Human Soul』収録曲)からのサンプリングだ。元々韓国内ではユングをテーマとしたアルバムを制作したアーティストとしては、繰り返しモチーフとして取り上げ、自主レーベルの名前も<Map The Soul>にしていたEPIK HIGHが代名詞的な存在だ。「Go」も自己紹介から始まる自分のペルソナ/シャドウ/エゴについての曲と解釈出来るリリックでもある。2005年にEPIK HIGHがリリースしたアルバムのタイトルは『Swan Song』でリパッケージは『Black Swan Songs』。そしてこのアルバムに収録されていた「Fly」を聴いてRMとSUGAはラッパーを志すようになったという。『MAP OF THE SOUL』シリーズのコンセプト全体に少なからずEPIK HIGHからの影響とオマージュがあると言って良いだろう。実際、前作のリリース前にEPIK HIGHのリーダー・Tabloとメンバーがやりとりした経緯もあり、SUGAはTabloの紹介で韓国の大御所歌手、イ・ソラの楽曲に参加するなどいわゆる“成功したファン”的な側面もあるようだ。

 人間の心の成長を解き明かすのに有益なユングの心の地図=MAP OF THE SOULだが、一度成長しても、またそこから新しい壁にぶつかっていくのもまた人の心というものだろう。ペルソナにはエゴを守る役割もあるし、シャドウもまた心からは切り離せないものだ。今作がその様な逡巡と同時に、アルバム最後の曲であるはずの「Outro:EGO」で示した成長に至る過程を表したものになるのかどうか、アルバム全貌が待たれる。(DJ泡沫)

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