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『ブルーピリオド』『アルテ』……絵描き漫画のヒットに見る、クリエイター志向の高まり

リアルサウンド

20/4/28(火) 8:00

 『ブルーピリオド』や『アルテ』など、最近、絵描きが主人公となる漫画のヒットが目立っている。いずれもクリエイターの苦労など内幕を描いた面白さや、絵で表現するマンガというメディアで絵をテーマにするメタ的な表現としての面白さがある。こうした作品が流行する背景はなんだろうか? いくつか理由を考えてみたい。

参考:『アルテ』は「好き」を貫く勇気と強さを描く ルネサンス期の女性画家の生き方が共感を呼ぶワケ

■絵に関わる仕事をする人、クリエイター志望者の増加

 まず、ここ十数年で、大量にイラストが必要とされるソーシャルゲームなどの影響で、絵を生業にしている人の数自体が増えた、という受け手側の事情が考えられる。

 また、pixivなど絵の投稿サイトも当たり前のものとなって絵描き・イラストレーターの母数も増えているし、マンガやイラストを描いているからといって「オタクだ」などと言われてバカにされたりすることも少なくなった。

 絵に関わる仕事をする人、それを目指す人の数自体が増えている――絵描きの苦悩や自分が納得する絵が描けたときの達成感、人に喜んでもらえたときの嬉しさに共感できる人が増えている。

 絵に限らずとも、クリエイター志向は強い。たとえば2019年の小学生の「将来なりたい職業」ランキング(日本FP協会調べ)では男子はゲーム制作関連(4位)、YouTuber(6位)、女子はパティシエール(1位)、ファッションデザイナー(8位)、美容師(9位)。

 2018年の中学生の「なりたい職業」ランキング(ソニー生命調べ)では男子は「YouTuberなどの動画投稿者」(1位)、「プロeスポーツプレイヤー」(2位)、「ゲームクリエイター」(3位)、「ものづくりエンジニア」(6位)、「歌手・俳優・声優などの芸能人」(9位)、女子は「歌手・俳優・声優などの芸能人」(1位)、「絵を描く職業(漫画家・イラストレーター・アニメーター」(2位)、「YouTuberなどの動画投稿者」(7位)、「文章を書く仕事(作家・ライターなど)」(8位)、「デザイナー(ファッション・インテリアなど)」(10位)。

 何かをつくる仕事、ゲームや映像に関係する仕事が非常に人気が高いことがわかる。つまり絵描きのような存在への関心が高いがゆえに、絵描きマンガは広く受容されている。

■大人の世界もアート、デザイン重視

 子どものクリエイターへの憧れが強まっているだけではない。「これからの世の中を生きぬくにはSTEAM教育が必要だ」とよく言われる。Sは科学、Tはテクノロジー、Eはエンジニアリング、Mは数学、そしてAはアートだ。「アートが大事だ」と大人が子どもに対して言っていることからわかるように、大人の世界、ビジネスの領域にもアートやデザイン重視の流れがある。

 「MBA(経営学修士)よりもデザインスクール」「ロジカルシンキングよりもデザイン思考、アートシンキング」とビジネス界でもよく言われるようになり、ビジネスとテクノロジーとクリエイティブを結合させられるBTC人材が求められている。

 そうは言っても、大人が絵描きマンガを読んで仕事の参考になるのか? と思うかもしれない。しかし、たとえば『アルテ』は肖像画家の女性が主人公だ。彼女は芸術至上主義的に自分が描きたいものをただ描けばいいわけではなく、クライアントがどんな絵なら納得し、満足してくれるのかを引き出しながら制作する。

 そこにはクリエイターとしての栄光と苦心があるだけでなく、客商売の難しさがある。つまりビジネスとクリエイティブの両方をにらみながら働く今の私たちに通じるものがある。

■マンガ家マンガの飽和から

 もちろん、ではなぜ数あるクリエイターのなかでも絵描きなのか、という疑問はあるだろう。

 絵描きマンガの前には『バクマン。』に代表されるマンガ家マンガの流行があった。さまざまなマンガ家マンガが描かれ、飽和状態になったものの、描き手にも読者にも「クリエイターものはおもしろい」という感覚は定着した。

 たとえばここ数年で話題になった小説家マンガには『響 小説家になる方法』があるし、役者マンガも『アクタージュ』や『累-かさね-』『ダブル』『マチネとソワレ』等々と絵描きマンガに勝るとも劣らないくらい傑作がたくさん生まれている。

 マンガは、絵で表現する。マンガ家が絵描きの心理を理解することはたやすいだろう。そして、ここぞというシーンで、絵の説得力で読者を感動されられるマンガ=絵画芸術の最大の武器を使うことができる(役者マンガの多くも、演技の説得力を絵の力で表現しているという点で、絵描きマンガに近い)。

 もちろん、作中に登場する絵を見た人が感動しているのに、マンガに出てくる絵がヘボかったとしたら、読者は納得しない。そこにはほかのジャンルのマンガ以上に描き手には絵に神経を注がなければならないという緊張感があるだろうし、読む側も「すごい絵が見たい」と期待を高めて読む。

 『ブルーピリオド』にしろ『アルテ』にしろ、そのハードルを乗り越えて絵の力で息を呑ませてしまう凄さが、何より読者を惹きつける。(飯田一史)

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