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バカリズム、ドラマ脚本家として大成 日テレ朝ドラ『生田家の朝』にみる観察眼の鋭さ

リアルサウンド

18/12/25(火) 8:00

 『生田家の朝』は日本テレビが開局65年を機に立ち上げた “ドラマ製作プロジェクト“の一貫で作られた“朝ドラ”だ。企画プロデュースと主題歌「いってらっしゃい」を担当するのは福山雅治。脚本は、福山が以前から一緒に作品を作ってみたかったというバカリズムが選ばれた。

 放送時間は情報バラエティ番組『ZIP!』内で月曜から金曜までの5日間、7時52分から59分まで放送される。物語は生田家のお父さん・浩介(ユースケ・サンタマリア)、お母さんの早苗(尾野真千子)、お姉さんの美菜(関谷瑠紀)、弟の悟(鳥越壮真)の四人家族の朝を描いたもの。物語のほとんどは食卓の場面で、そこでやり取りされる些細なこと、例えば、納豆についている辛子の小袋を大量に保管しているお母さんになぜ捨てないのか? と話したり、悟が疑問に思ったサンタクロースはプレゼントをどこで買っているのかということについて、家族で話す姿などが描かれる。その意味で、家族のあるあるネタを次々と見せていくバラエティ的な作りなのだが、時々、あるあるネタからはみ出た、妙な話が入るのが面白い。

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 例えば、第5話は娘の美菜の語りからスタートする。美菜は最近、父親がうざくて仕方がない。前は好きだったのに、父親と自分の歯ブラシの毛先が触れるだけでも気持ち悪いと思ってしまう。これだけなら「思春期の娘あるある」とでもいう展開なのだが、面白いのは、美菜自身はパパが一家の大黒柱として働いていて頑張っていることをわかっていて、そんなパパを嫌いになる自分は病気ではないかと不安になること。

 そして、自分は不良になってしまうのではないかと悩むのだが、「うざい」と思う黒い感情が自分の中にありながら、そう思ってしまう自分を理性で否定しようとしている姿が面白い。感情に呑まれて不良にはなりたくないと思っている姿は、とてもねじれていて、同時にとても微笑ましく見える。結局、美菜は、それは思春期だから自然なことだよ。と父親に諭されて納得する。そして、父親に自分の気持ちを冷静に分析して回答を出されてしまうこと、それ自体をうざいと(安心して)思うようになるのだ。

 第8話は、お母さんが寝坊してしまった朝の話で、通常なら朝からお弁当と朝ごはんを作るのだが、ご飯は作る時間がないため、買い置きしていたカップ味噌汁を作るといった感じで、通常スケジュールと緊急の時間短縮スケジュールの違いを逐一見せていく。そして今のところ一番の問題作と言えるのが第10話「藤代さんの魔法」。悟が売れないマジシャンの藤代さんを家につれて帰り、いっしょに住んでもらおうとする話で、ハートウォーミングだが、家のクローゼットの中に見知らぬ人間がこっそり住んでいるという気持ち悪さも、少し匂わせている。

 このように本作は、家族のあるあるネタを展開しながら、時々、変化球を入れるという緩急で見せていく。この辺りは実にバカリズムらしいドラマ運びではないかと思う。バカリズム(升野 英知)は、お笑い芸人や俳優として活躍する一方で、テレビドラマの脚本も執筆している。どれも高い評価を受けているが、特に昨年放送された『住住』(日本テレビ系)と『架空OL日記』(同)は、演出を担当した住田崇監督の映像と淡々とした会話劇が絶妙で、ドラマのリアリティを大きく更新したと言える傑作だった。

 バカリズムの面白さは大きく分けて二つ。観察眼の鋭さと、アイデアの面白さだ。例えば『架空OL日記』は升野が普通のOLのふりをして書いていたBLOGを、ドラマ化したもののだが、ドラマ版では升野自身が主人公のOLを演じることで、BLOGの面白さ(升野がOLのふりをして書いていることの面白さと不気味さ)を体現していた。広末涼子たち人気女優が、もしも今と違う人生を送っていたらという設定で書かれた『かもしれない女優たち』(フジテレビ系)も同様で、アイデアの着眼点と精密な観察眼によって彼のドラマは成り立っている。

 この『生田家の朝』も、日本テレビで朝ドラを放送し、しかも本家の朝ドラ(NHK朝の連続テレビ小説)が始まる前に放送されているという形態こそが、面白さの核だと言えるだろう。だから全13話で終わってしまうのは勿体ない。せっかく朝ドラを意識した帯ドラマが民放で生まれたのだから、今後もこういう試みを続けて欲しい。その時は半年や一年といった長さにも挑戦して欲しい。なんなら生放送の回があってもいいのではないかと思う。

 以上のように本作は画期的な試みなのだが、唯一不満を上げるとすれば『住住』や『架空OL日記』で確立した映像と演技で、見たかったということだ。家族が見る朝の時間に放送される作品だから仕方のないことだが、もしも『架空OL日記』の演出で本作が放送されていたら、さぞかし不気味な異物感を醸し出していたことだろう。もちろん、朝からそれでは、ドラマとして駄目なのだが「藤代さんの魔法」のような話を見ていると、ついつい不気味なバカリズムを期待してしまうのだ。

(成馬零一)

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