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King Gnu 常田大希からBiSH アユニ・Dまで ソロプロジェクトでの音楽性に注目

リアルサウンド

19/9/21(土) 8:00

 バンドとしても活動しながら、別プロジェクトやソロ活動を始めるアーティストがいる。今回はその中でも所属バンドと違う形のアウトプットや異なる音楽性に取り組んでいるアーティストを取り上げたい。

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 まず紹介したいのが、飛ぶ鳥を落とす勢いでブレイク中のKing Gnuの中心人物である常田大希。彼は、今年からKing Gnuの活動と並行して、millennium paradeというプロジェクトを始動させている。元々、King Gnuも最初の頃は常田のソロプロジェクト的な要素が強かったが、マジョリティに音楽を届ける過程の中で、King Gnuの方向性は少しずつ変化していく。そこで重要になったのが、メロディ重視の楽曲制作。King Gnuは、サウンドこそニュースタイル感のあるミクスチャーサウンドだが、根っこにあるのは歌謡曲的なポップなメロディ。そこにコミットした結果、常田独自の芸術性は薄まった。おそらく、その部分を存分にアウトプットするために立ち上げたのが、millennium paradeなのだと思う。

 第1弾楽曲として公開された「Veil」だけでも、millennium paradeはKing Gnuと違う哲学で楽曲を制作していることがわかる。Black Boboiのermhoiが英語で歌うこの歌は、いわゆるJ-POP的サビがないメロディ進行であり、メロディそのものが主役ではないことを告げるかのような印象である。また、MVの映像や、すでに披露されたライブのパフォーマンスでも明らかだが、millennium paradeは単に音楽を扱うだけのパフォーマンス集団ではない。映像演出にも力を入れているし、音と映像をどのようなツールで表現するのか? というところまで突き詰められたクリエイティブが遺憾なく発揮されている。

 次に紹介したいのは、2018年からTempalayのメンバーとなったAAAMYYY。彼女も、バンド活動とソロ活動を並行している。常田ほどは大胆にアウトプットのチャンネルを変えていないが、AAAMYYYもバンド活動時とソロ活動時ではクリエイトする曲の性質が変わる。Tempalayはサイケデリックで独特の浮遊感があって、他のバンドにはない面白さに満ちたバンド。そして、常に音には“生感”が漂っている。リズムに対して絶妙なルーズさがあり、音に対する揺らぎも含めて音楽にしてしまっているのがTempalayの面白さなのである。一方、元々、トラックメイカーとしての才覚が強いAAAMYYYのソロは、リズムも音の質感も丁寧にコントロールされている。きっちりとした枠組みの中で、自由に歌うアプローチをしている。それ故、彼女の持つ個性がより際立ってくる。一度聴くだけで耳に残る人懐っこいメロディセンスや、すぐに情景が浮かぶ絵のような歌詞は、そんなAAAMYYYの魅力のひとつである。

 二組のアーティストだけでもわかる通り、バンドとソロでアウトプットの内容は大きく変わる。しかし、同じアーティストが作品を作っている以上、どこかバンド活動と地続きであるようにも思う。少なくとも、バンドとソロで方向性がまったく異なる、というほどでかけ離れてはいないようだ。

 しかし、中にはそうではないアーティストもいる。その代表がa flood of circleの佐々木亮介である。a flood of circleはガレージロックバンド。佐々木が常に革のジャケットを着用していることでも明らかなように、その佇まいやスタンスは“ザ・ロックバンド”である。しかし、ソロ活動では本当に同一人物なのか? と疑ってしまうほどに、ロックから距離の置いた音楽を作り上げる。ゴスペルやソウル、トラップまでを自在に扱うバリエーション豊かな作品を生み出すのだ。サウンドメイクもリズムアプローチも、バンドとは違う発想でクリエイトしているし、歌い方ひとつとってもバンドとソロで大きく異なる。バンドならば叫ぶように歌うことが多い佐々木であるが、ソロだと感傷的な歌い方はなるべく避けて、クールにラップを披露することすらある。その音楽性は、まるで海外基準のポップミュージックと言える。

 最後に、BiSHのメンバーであるアユニ・Dによるソロバンドプロジェクト・PEDROにも注目したい。PEDROは音楽的なジャンルはBiSHと近しい部分がある。ただ、“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーが“ソロでは楽器を弾いている”という部分が重要であり、ジャンルではなくスタンスが大きな差別化となっている。つまり、ソロ活動の意味合いが他の3組とは違うのだ。しかし、ソロ活動はグループではできないアウトプットを行うための実験の場と捉えれば、全員が共通の価値観を擁しているとも言える。

 リスナーが求めるサウンドに寄り添い続けることは、バンドとしてのアウトプットの幅を狭めることにもなりうる。だからこそ、彼らはソロ活動や別プロジェクトを立ち上げ、そこで今やりたいことやバンドではできないことにトライするのかもしれない。(ロッキン・ライフの中の人)

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