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CENTRO鈴木竜馬氏が語る、デジタル時代の360度ビジネス「YouTuberがリリースするのは亜流、とは全然思わない」

リアルサウンド

20/4/3(金) 20:30

 音楽文化を取り巻く環境についてフォーカスし、キーパーソンに今後のあり方を聞くインタビューシリーズ。第14回目に登場するのは、株式会社CENTRO 代表取締役・鈴木竜馬氏。

参考:EMI Records 岡田武士に聞く、デジタル時代に“新しい才能”を発掘する方法「熱量の高さを大事にしたい」

 リアルサウンドでは、過去2度に渡って鈴木氏にインタビューを行い、その都度音楽シーンに対するメッセージを伝えてきた。今回のインタビューのテーマは、2017年に設立した株式会社CENTROについて。<unBORDE>というレーベル運営を経験した同氏だからこそ考えるマネジメントの在り方やスタッフの育成、また<etichetta>というレーベルを介した国内外での展開など、音楽ビジネスが岐路に立つ今、デジタル時代の360度ビジネスについて話を聞いた。(編集部)

CENTROのひとつのテーマは、“デジタル時代における存在意義”
ーー前回のインタビューが2016年、<unBORDE>5周年のタイミングでした。そこから鈴木さんは、2017年にワーナーミュージック・ジャパン(以下、ワーナー)の子会社として株式会社CENTROを設立。そもそもどういった経緯で同社を立ち上げたのですか。

鈴木竜馬(以下、鈴木):スタートとしては、レコード会社における360度ビジネスを実現する、というワーナー本社からのタスクが第一にあって。ただ、そのような事業を始めるにしても、レーベルの1ファンクションとして考えてしまうと、僕らのようなレーベルマンはそれまでの業務における考え方をすぐに切り替えることは難しい。であれば、そのビジネルモデルをレコード会社から切り離し、人材も外から確保し、法人化することで利益構造を一から見直してみよう、全体の整合性をとってからプラスを生み出していこう、とCENTROを立ち上げたのが2017年ですね。

ーーCENTROで最初にフォーカスした事業とは。

鈴木:パッケージの制作・販売や配信といったレコーデッドビジネス、いわゆるレーベル事業ではないところでのマネタイズを考えたときに、ワーナー時代から続くアーティストマネジメントの本格化と広告へのキャスティング業務並びに、ライブ興行の物販といったマーチャンダイジングから始めました。そこから1年ほど動かしてみて、会社の収益やフォーカスするべき事業を考えていった結果、まずはマネジメントやエージェント機能に力点を置いていこう、と。

ーーレコード会社のA&Rとして活躍してきた鈴木さんのキャリアからすると、アーティストマネジメントは未知の分野ですよね。

鈴木:そうですね。まずは見よう見まねで始めるところからスタートしました。スタッフの拡充という点でも、ワーナーのスタッフだけに限らず、大手事務所でマネジメント経験のあるスタッフをスカウティングして社内のリソースを入れ替えてみたり……レーベル経験に紐付いた知識だけでは、数多あるマネジメント会社の競争には勝ちぬけないとは思っていました。マネジメントしかやったことがないスタッフを含めることで、それぞれのノウハウを交換しあってもらう。基本理念は設立当初から変わらないですが、トライ&エラーとマイナーチェンジを繰り返しながら、マネジメントを中心とした360度ビジネスを作っている感覚はあります。

ーースタッフをヘッドハンティングしたということですが、これまで鈴木さんが携わってきたチームとも雰囲気は異なりますか。

鈴木:全体で15人にも満たない会社ではありますが、半数以上が20代~30代前半くらいの若者です。若ければ良いというわけではありませんが、新しいことを流し込む人材としては若いスタッフの方が真綿を広げてくれるように思いますし、みんながそこで成長していくような環境になっていると思います。9年前、まずは端っこから始めてメインストリームにしていければと<unBORDE>を作っていきましたが、その考え方はあまり変わらないですね。それはCENTROでマネジメントするアーティストもそうだし、スタッフも変り種が多いかもしれません(笑)。真綿にスキル(と僕のリテラシー)を流し込む側のスタッフとして、unBORDE立ち上げの時のメンバーも数名います。

ーー鈴木さんが若いスタッフをまとめる際の指針とは?

鈴木:僕の役割としては、ビジネスの入り口を作って、そこにそれぞれ若いスタッフをアサインしていくことです。僕とデジタルネイティブな彼らでは、そもそもネットに対する感覚が違うと思っています。例えば、YouTubeで何十個もチャンネル登録しているのって、僕としては信じがたいことですよ(笑)。ネット系からデビューするアーティストも若いから、そこは若者同士で会話を持ってもらって。そうやって時代感を読んでいるスタッフが、今そこで何かが盛り上がっていると見定める。そこに対して僕がベットしていく、みたいなことですね。ある意味ビジネススキーム(僕)と情報(若手)の双方向。

ーーなるほど。では、CENTROが掲げる“360度ビジネス”ですが、デジタル化が進む音楽市場の動向にあわせて、その意味合いも設立当初とは変化していますか。

鈴木:CENTROのひとつのテーマには、“デジタル時代における存在意義”があります。例えば、TVCMの様な大きな広告に楽曲を使ってもらうことで、CMの商品も使われた楽曲もセールスを上げることが出来る。あくまで楽曲はタイアップと言う形の無償提供でしたが、それでお互いがwin-winになっていた時代もありました。でも、近年のWEB広告だと楽曲制作に対して対価としてキチンと制作費を払っていただけるんですよね。僕にとっては、それも360度ビジネスの一環だと思っていて。WEBの場合、広告の尺的にはテレビCMのような15秒に限らず、無制限になるわけです。そうすると、いわゆるインフォマーシャル的なMVを作ってほしい、という要望を受けることもある。その場合は当然ひとつの楽曲としても成立するから、原盤の持ち方次第ではありますが、iTunesやサブスクで配信リリースもできる。僕らが制作から二次利用的なところまで持っていくことができれば、それが360度の入り口になり得る。もちろん、楽曲配信という形でワーナー側に返していくことで、後々のビジネスに繋げていくこともできますよね。従来の1次利用と2次利用が逆転するという。

ーーCENTROにはトラックメーカー的なタイプのアーティストが多いですね。

鈴木:CENTROでエージェントしているtofubeatsやSASUKEは、まさにそういうビジネスに貢献してくれるアーティストの筆頭です。年間を通して数多くのWEB広告で活躍してくれています。楽曲制作を柔軟にできるアーティストをマネジメントすることで、並行して音プロ(音楽制作会社)的な機能も備わってきています。具体的には去年、chelmicoが爽健美茶のCM(キャスティング+楽曲タイアップ)をやらせていただいたのは記憶に新しいかと思いますが、その後に爽健美茶25周年ということで25人のトラックメイカーが爽健美茶のための曲をリミックスする企画を行うことになりました。クライアントから企画全体の制作費をいただく形で。そこでは中田(ヤスタカ)くんをはじめ、外部のトラックメイカーを20人以上集めて納品しました。レーベル機能としての音源制作ではなく、音プロ的なことも、表立ったアーティストで提供することができるんです。

ーーそうなると、面白いトラックを作れる人の価値はどんどん上がっていきますね。

鈴木:そうですね。あとは、自分たちのビジネスと上手く交差できるのが、トラックメイカーだけでなくchelmicoを含めたHIPHOP系のアーティストかなという思いもあります。海外の市場にも可能性が広がっている実感もあって。実際、弊社でラージャオという中国のアーティストをマネジメントしていて、中国圏で今度大きな広告を担当することになったんです。その広告で使う楽曲はどうしようとなった時に、それならtofubeatsに作ってもらおうと繋がっていきました。tofubeatsとしては向こうにプロデューサーとして出ていけるメリットもあるし、ビジネスとしても成立する。そんな風にして、この2年の間に事業のスキームがいみじくも見えてきたところはあります。

ーー360度ビジネスに加え、今後は海外展開もキーワードになってくる、と。

鈴木:数多のプロダクションがある中で、どうやって自社のアイデンティティーを持つのか。それをそろそろ決めていかなければいけないタームにも入ってきているのですが、そこで背骨になってくるのが海外にも通用するクリエイターやアーティストなのではないか、と考えています。もちろん、必ず国外に出なければならないということではないです。ただ、そういう可能性を持ったアーティストを多数マネジメントすることで、海外側のビジネスの視野が広がればいいなと思っています。

ーー英語圏でいえば、(unBORDEでは)きゃりーぱみゅぱみゅで一つ大きな成功例を作ったと思います。例えば、tofubeatsやSASUKEも英語圏に出していく可能性もありますか?

鈴木:今はコライトカルチャーが世界的に流行っているので、SASUKEやtofubeatsみたいなトラックメイカーは、世界の壁を簡単に超えていく可能性はあると思います。他にも、今後は英語も使えるヒップホップ系のアーティストもいくつかやる予定ですね。せっかくワーナーには、海外に向けて発信するインフラやノウハウがあるんだから撃てる弾は多く持っていた方がいい。CENTROでそういうアーティストを積極的にマネジメントして、海外に売り出していく。それも、今考えているover seas戦略のひとつです。

■圧倒的にマルチに対応していかないと、ビジネスとして勝てない

ーーCENTROで内包するレーベル<etichetta>もover seas戦略のひとつですか。

鈴木:<etichetta>は、他社も含めた往年のレーベルの概念とは全然違っているんです。アーティストのデジタル配信もするんですけど、所属するのはミュージシャンだけである必要もないとも思っていて。海外のフォトグラファーやクリエイターも何人かエージェント契約を結ぶ予定です。例えば、僕の古くからの友人にBrianCross(B+)という古くはDJシャドウのアルバムカバーや、妊娠中のローリン・ヒルのポートレイトを撮ったり、スヌープ(ドギードッグ)や最近ではカシマワシントンのカバーやサンダーキャットのMVも手掛けているフォトグラファーがいるんですけど、彼がアジアでも仕事がしたいというから、じゃあエージェントしましょうっていう流れで。<etichetta>は、ある種のマルチブランドみたいなものだと考えていて、今後も多方面のクリエイターをエージェントしていけたらと思っています。とは言え、音楽を背骨にしたアーティストも勿論排出していきます。ただ、基本の考え方がデジタルに寄り添っている場合が多いと。まだ発表はこれからになりますが、YouTubeを、むしろYouTubeのみを上手く活用して世界に対して強烈な再生数を誇っているアーティストも近々ローンチ予定です。

ーーねおのようなインフルエンサーも所属しています。彼女は、先日<etichetta>からデビューしたばかりの新しい存在ですよね。

鈴木:彼女に関しても、最初は音源を作る予定はなかったんです。ただ、良い機会に恵まれて、本人出演の広告をやることになったこのタイミングで、楽曲もあわせて配信することになりました。そうしたらやはり、彼女の持つパワーは凄くて。デビュー曲が配信直後にLINEMUSICでいきなり1位になった。当日はデイリーでも確か3位だったかな? 彼女からは、見習うところも本当にいっぱいあって。ねおを含め、Youtuberやインフルエンサー的な人って根本的にみんな毎日ルーティーンを欠かさず、いろんなことをアップする。ねおに至っては、YouTube、Twitter、Instagram、TikTokなど、いろんな媒体を駆使して朝から晩まで何かを発信しているんです。その世界でも弱肉強食で生きていると考えると、すごく真摯にメディアやファンと向き合っていて、努力を重ねていることが伝わってきます。だからこそ「YouTuberなんか」みたいな風には絶対に言えないし、我々もそこにはリスペクトを持って向き合わなければいけないなと思いますね。

ーー先ほど、<etichetta>はマルチブランドというお話がありましたが、彼女自身もモデルやインフルエンサーとしての活動に加え、AbemaTV『恋する♥週末ホームステイ』の企画でMV監督を担当したり、シンガーとしてデビューするなど、多岐にわたる活動が特徴的です。

鈴木:やっぱり、セルフプロデュースでSNS時代を生き抜いてきた発信力のある子は、何をやったら世間に届くのかっていうセンスを本能的にわかっているんですね。今回彼女自身の作品では別の方(SEPの瀬里くん)にMVを撮ってもらいましたが、今後は映像方面での可能性ももちろんあるし、<etichetta>として何をやっていけるのかは考えますね。

ーーそういうマルチなアーティストを擁するレーベルを運営する上では、スタッフの側にもこれまでとは異なる視点が必要ですよね。

鈴木:そこはもう本当に大事なポイントだと考えていて。スタッフが圧倒的にマルチに対応していかないと、ビジネスとして勝てないとは思っています。だから、CENTROのスタッフはみんなセクションを跨いで全部経験するように心掛けています。タイアップ事業のスタッフにもA&R的なことやらせてみたり、マルチな人材をどんどん育てていって、それが次世代のマルチタレントを生み出していく。次の時代がきた時、いくら日本とは言えど残念ながらフィジカルマーケットだけではビジネスとして難しくなってくると思います。たまたまこのタイミングではありますが、コロナウイルスの影響でライブやイベントが中止になった時点で、フィジカルの複数買いみたいな一つのカテゴリーがなくなる。今までギリギリで耐えてきたものが、その一発で揺らぐわけじゃないですか。そうなってくると、こっち側がその意識をちゃんと持って臨まないと、もう勝っていけないのかなって。もちろん音源だけでやっていく人もいると思うし、それを否定する気持ちはまったくないですが、僕が新しくビジネスとしてカテゴライズしていく領域は、そういうことを考えていきたいですね。

ーーそれはある種、レーベル機能とマネジメント機能を融合した何かですね。

鈴木:そうですね。もちろん、レーベルで培ってきたことは無駄では無いわけで。そう考えると、YouTuberがリリースするのは亜流なこと、みたいには全然思わないですよね。自分がマルチな考えを持っていれば、俳優・菅田将暉くんが歌うことを否定できない時代なわけで。彼は音楽が好きで、気づいたらあいみょんや石崎ひゅーいくんと自然と仲良くなって、コミュニケーションを取っている。そんな垣根のない時代だとすると、どこで何が起こるかはわからないですよね。誰がどういうアーティストポテンシャルを秘めているのかも。今になって改めてすごいと思ったのは、これがジャニーズ事務所さんがやってきたことなのか、と。菅田将暉くんもそうですけど、ジャニーズ事務所さん以外のタレントさんも結局マルチになってきている。だからこそ、インフルエンサーが、クオリティの高い音源も出していたって別に問題はないわけです。ねおには発信力があり、その力で音源が届いて、世の中を楽しくできさえすれば。ただ、やるんだったらかっこいいことやろうよって、ブランディングとしてはね。

ーーなるほど。

鈴木:きゃりー(ぱみゅぱみゅ)の立ち上げの時に近いかもしれないですが、YouTuberやインフルエンサーの中でも、音楽が大好きっていう子たちには、それを発信できる場を提供したいという思いがあります。それって今の時代の流れにもすごく合っていると思うんです。我々が築き上げてきた根本にあるレーベルのリリースがあり、そして米津(玄師)くんら以降のボカロPを含めたDTMで音楽を作る人たちの時代を経て、次のマーケットとして可能性を感じるのはYouTuberやTikToker。彼らの中で音楽リテラシーの高い人たちとは何か一緒にやりたいという気持ちを、必然的に持ち始めています。そういう気持ちは向こうからもやってくることもあるから、我々としても今年もYouTuberがひとつのキーワードだとは思っています。もちろん、音楽だけでなくクリエイティブなことであれば様々な形で取り組んでいきたい。eスポーツも然りです。

ーー動画ではふざけているように見えるけれど、裏では努力を重ねている。そんなギャップもYouTuberたちの魅力かもしれません。

鈴木:そうですね。中には、音楽の話をするとすごく詳しい子もいて。ねおも、MixChannelやTikTokで自分がいいなと思った曲をリップシンク動画に使っていて、それがサブスクでも上位に上がってくる。彼女にはそもそもの選曲眼が備わっている上に、どの曲が最適なのか、死ぬほど掘り倒しているんですよね。そういった音楽に対するリスペクトがあって、同時に僕らとの共通言語も持っているような人とは何かできたらいいなとは思います。

■こういうタイミングだからこそ、エンタメに出来ることがある

ーー2019年から2020年にかけては、chelmicoのブレイクがありました。

鈴木:chelmicoはまだブレイクとは言えないと思います(笑)。ただ、いい感じで火種が少しずつ大きくなってきてはいます。が、それでも2年は我慢の時期を経験しましたね。彼女たちはCENTROでマネジメントして、メジャーレーベルは<unBORDE>にはなります。そもそも<unBORDE>も、闇雲に新人にサインしていくというのではなく、一緒にやると決めたアーティストをじっくり売っていこうという選択集中型なんですよ。あいみょんだって、ここまで来るのに2年半かかりましたし。ただ、chelmicoを含め、この子は良いって思うスタッフがいれば、どんなに時間がかかっても諦めないことは大事で。ただ、<unBORDE>で稼いでくれてはいても、マネジメント(CENTRO)としてはライブにどれだけ人を呼べるかがビジネスになるので、時間がかかったという印象はあります。やっぱりライブのキャパは一足飛びにはいかないんだ、って(笑)。そこはレーベルとマネジメントで違う時間軸を体験している気はします。

ーーパッケージの売り上げやライブ動員など、人気に火がついたという指標は色々あると思います。その中で鈴木さんはどの指標を重要視しますか?

鈴木:フェスやライブでの動員はビジネスに直接的に影響してくるので肌感としては非常に重要視していますが、YouTubeの再生回数と言うのはわかりやすいですし、これからもっと評価基準としてのプライオリティーは高まっていくと思います。海外に向けてという意味でも一番簡単に使えるインフラだし、YouTube Musicも始まって、これからどんどん面白いことになっていくと思っています。これまでは音楽=MVみたいな世界だったかもしれないけど、我々のようにマルチにやろうと思っている人にとっては、使い勝手の良いフォーマットにもなると思っています。

 そういう意味でも、<unBORDE>時代から変わっていないのは、ビジュアルの大切さですね。音楽だけで語れる素晴らしさを否定はしないし、自分でもそういう感動もあります。ただ、音楽に寄り添ったビジネスをやると決めた時には、画として様になること、エンタテインメントとして何か訴えかけるビジュアルを持っているアーティストをやりたいとは常に思っています。否定ではないけど、僕の場合は音源だけでジャッジをしたり、サインするっていうことはあまりしないですね。

ーーchelmicoも、二人のあの雰囲気が人気のきっかけにあるとも言えますし。

鈴木:やっぱり可愛いというのは重要で、僕を含め、お客さんの心に引っかかる部分も多いと思います。今後は画と音を合わせて買っていく時代がさらに加速していくと思うし、CENTROとしてもそういう火種を探していますね。

ーーバンドで言えば、FIVE NEW OLDともマネジメント契約を結んでいます。

鈴木:FIVE NEW OLDは先日マネジメント移籍をしてきたばかりで、まだ所属レーベルを決めていないんですけど、CENTROで一番海外での成功体験を持っているのは彼らなんですよね。アジアツアーを回って、タイではすでにスーパースターですからね。<トイズファクトリー>の頃も、中国でオフィシャルに音源配信はされていないんだけど、5箇所程度まわって各地で500から600人は集めてしまう。over seasを体現している彼らとスタッフからは、僕らも習うところは多いですね。

ーービジネスの面で見ると、投資から回収までの期間が長くなると思います。そこにも従来のレーベルとの違いが出てくるのでは?

鈴木:それは大変ですよね。音源の制作も昔に比べたら、比較的リーズナブルにできることはあるとはいえ、こういう時代に差し掛かり、やっぱり薄利多売でロングテールなものを狙っていかざるを得ないので。最初の原資のかけ方は潤沢ではないから、一歩間違えると怖いなとは思います。トライもいっぱいしたいけど、さすがにどれもこれも手を出すわけにはいかない。サブスクやYouTubeの回転数で長い目で見たとしても、PL(損益計算書)はどこで切ればいいのか。会社としては、2年後にこれ100万回まわるから(投資しよう)っていうわけには中々いかない。デジタル=身軽なように見えて、そう言った難しさがありますね。

ーーover seasという意味では、海外に音源やYouTubeが突き抜けていくと、回転のあり方も変わってきますよね。

鈴木:結局そこに求めてしまうというか、まさに戦略上リンクはするんですよね。日本は、約1億2~3000万程度の人口です。Amazon Prime Music、Apple Music、Spotify、LINEMUSIC他で1000から2000万の日本のシェアの取り合いといったら、やっぱり海外に出て行く必要を感じてしまいます。実際、海外のアーティストはビジネスとしてもそこで成功していて、例えば韓国はもちろん、タイやインドネシアでも数千万~億単位で(再生数を)回している人たちはいっぱいいるわけで。ただ、英語力や発信力の問題もあると思いますが、日本のアーティストにはいないんです。本当はそこに行けた方が圧倒的に夢もあるし、マーケットとしての可能性もある。CENTROには、そこで活躍できるであろうアーティストを集めていって、あとはどう道筋を立ててあげられるのか。当然、ワーナーのグローバルのインフラを使える強みもあるから、ワーナー所属のアジアのアーティストと何かをやりたいなどとも思うし、こっち側も対応できうるアーティストを用意しておく必要がある。そのアーティスト作りをCENTROでやりたいし、まさに今作りかけている状況です。

ーー今後は、CENTROからワーナー全体にそういう変化が波及していくことも考えられますか。

鈴木:そこは波及していかなければならないと思いますね。ワーナーミュージック・ジャパン自体のスタッフ数は200人弱で、世界3大メジャーと言われながらも、ソニーやエイベックスのような巨大空母と比べるとかなり小さい規模感で回しているんです。クルーザー的に小回りがきくというメリットもあるけど、巨大空母はひとつのエンジンが止まっても動き続けることができる。今後利益の上がりも薄くなると考えると、早いうちから分母の数字を大きくしていくことが重要になってくる。僕らが約2年間で見えてきたものが安定してきたら、きっと別のものを見つけていくと思いますし。簡単なことではありませんが、ワーナーと言うクルーザーに何かが起こった時、そこを補填できるサブエンジンの様な立場にもならなければいけないな、と。

ーー世界的に言えば、音楽業界全体の売り上げは伸びていますがーー。

鈴木:でも、そろそろ頭打ちですよね。僕も対外的には業界のロビー活動含めてそう言ってきましたし、この3、4年はバブルを迎えていますが、世界的に見ても天井までいききっていると感じますね。一方、YouTubeはわからない。音楽とは別の次元でビジネスが成長を遂げていますから。

ーー日本は、まだ伸びしろがあると思いますか?

鈴木:もう少しはあると思います。意外と早く(サブスクリプションサービスの)登録者数も増えたみたいですし、業界想定よりも、約1年ぐらい早く1000万人を突破するところまでは。個人的には、マーケティングの観点から言ったらZOZOなど、音楽のプラットホームだけでなく、会員数的にも優良な顧客を持つプラットフォームでも音源の配信はやったほうがいいと思っています。ZOZOにしたって、Amazonにしたって、そこのインフラで音楽をちゃんと聴いてもらえるようにした方が、シェアの取り合いよりもグロスで伸びてくる可能性がよっぽどあると思うけど、そもそもクルマも何も借り放題や使い放題のサブスク時代に、僕らの業界はどこか振り切れないていない印象もある。PayPayを見習えばいいんですよね(笑)。一度やるって決めてから、今では日本全国どこにでもありますから。あくまで余談ですが、昨年夏にWANIMAの故郷凱旋で熊本でも奥の方の天草に行った時、そこの個人タクシーでも使えてびっくりしたのを覚えています(笑)。我々の届けるものも、時代に合わせてもっともっと多くの人に届けられる機会があるんじゃないかと日々考えています。あとは、実行あるのみですね!! こういうタイミングだからこそ、エンタメに出来ることがある。そこを真摯に考えて。CENTROとしても、業界としても乗り越えていけたらと思います。(神谷弘一)

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