Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『鎌倉殿の13人』は“勝者”を描く三谷幸喜の新境地に? 革新路線が続くNHK大河ドラマの行方

リアルサウンド

20/1/12(日) 6:00

 1月8日。2022年のNHK大河ドラマの制作・主演発表会見が行われた。

 タイトルは『鎌倉殿の13人』。物語の舞台は平安末から鎌倉時代。源頼朝に学び、武士の世の基盤を作った男・北条義時と鎌倉殿(鎌倉幕府将軍)に仕えた13人の家臣のパワーゲームを描くという。主演は小栗旬、そして脚本は三谷幸喜。2004年の『新選組!』、2016年の『真田丸』に続く三度目の大河ドラマである。

●革新路線が続くNHK大河ドラマ

 会見で三谷は、北条義時を中心とする人物相関図を、フランシス・フォード・コッポラ監督の映画『ゴッドファーザー』、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『マクベス』、長谷川町子の漫画『サザエさん』を引き合いにして解説。サービス精神抜群の三谷節で記者たちを沸かせた。

 そして、大河ドラマを書くことに対しては「こんな仕事は他にはない」「僕の中でもビッグプロジェクトで、脚本家である以上は、みんな大河ドラマをやりたいと思っている」と語った。

 また、大河ドラマの魅力については「今は配信ドラマも力を持ってきているが、毎週同じ曜日の同じ時間に日本中の人がみんなで観て共有できるものは連続ドラマしかないわけで、その中でも大河ドラマは一年間かけられる」と語り、「今まで大河ドラマを二本執筆してわかったことがたくさんある。そのノウハウを生かして、自分にとっての集大成、最高の大河ドラマにしたいと思っている」と、決意を表明した。

 ユーモアの中に大河ドラマに対する熱い気持ちを感じさせる、力強い会見だったと思う。同時に、NHKが「まだ、大河ドラマを諦めていないこと」も、実感できた。

 『真田丸』以降、大河ドラマは新しいステージに入った。森下佳子、中園ミホ、宮藤官九郎といった朝ドラで成功した脚本家を中心としたチームで、今までとは違う新しい大河ドラマを作ろうとしている。しかし、その試行錯誤は、成功しているとは言い難く、作品のクオリティの高さに反し、視聴率の面では苦戦を強いられていた。

 そのズレがもっとも大きく出たのが、昨年放送された宮藤官九郎脚本の『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』だ。筆者は本作を大河ドラマはもちろんのこと、テレビドラマ史におけるひとつの到達点だと思っているが、大河ドラマ史上最低視聴率を記録した、作品評価と視聴率が極端に乖離した作品だった。三谷が「大河ドラマはもう終わるんじゃないかと思っている人もいるかもしれないが」と劣勢を強調していたのは、『いだてん』の苦戦を踏まえてのことだろう。

 『いだてん』をNHKがどう評価するのか? と考えると、視聴率の面から失敗作とみなし、戦国時代と幕末を中心に描く昔ながらの大河ドラマに回帰するのではないかと、半分諦めていた。実際、今年の大河ドラマは明智光秀が主人公の『麒麟がくる』で(放送を観るまで作品の評価は保留だが)題材だけを並べると、王道回帰にみえる。

 しかし、来年(2021年)が大森美香脚本の渋沢栄一を主人公に幕末から明治までを描く『青天を衝け』、2022年が平安末から鎌倉前期を舞台にした『鎌倉殿の13人』だと考えると、大河ドラマは今後も革新路線を貫くのだろう。まずはその選択に安堵した。では内容面ではどうか?

●三谷幸喜お得意の群像劇

 英数字の入ったタイトルを見て、真っ先に連想したのは、陪審制度を題材にしたハリウッド映画、シドニー・ルメット監督の『十二人の怒れる男』と、本作にオマージュを捧げる形で三谷が東京サンシャインボーイズ時代に執筆した1990年の戯曲『12人の優しい日本人』だ。

 「もしも陪審制度が日本に存在したら」という設定のもとで繰り広げられるディスカッションドラマは、本家と比べても見劣りしない三谷の初期代表作で、中原俊監督によって映画化もされている。

 本作を筆頭に、様々な人々が議論を繰り広げる密室劇は、三谷の十八番だが、彼が議論という形式を好むのは、作劇上の快楽はもちろんのこと議論を通して物事を決める戦後民主主義の理想を信じているからだ。それが強く現れていたのが昨年、監督した映画『記憶にございません!』だったが、日本の歴史上はじめて合議制で政治を動かした鎌倉時代を舞台に、13人のパワーゲームが繰り広げられるのだから、面白さに関しては心配無用だろう。

●勝者の中にある「孤独」や「絶望」

 最後に気になるのは、北条義時が今までとは違うタイプの三谷ドラマの主人公だということだ。三谷は『新選組!』と『真田丸』について「敗者の物語」だと語り、「僕は歴史に名を残した人よりも破れ去っていった人たちにシンパシーを感じ、ドラマを見出すタイプの脚本家なので」と、会見で語った。

 対して北条義時は「歴史上では勝者」だが、「彼は全てにおいて勝ち組だったのかというと、犠牲にしたものも多いし失ったものも多かったと思う」「孤独な男だった気がするし、孤独の中、絶望の中で死んでいったのかもしれない」と語っている。

 勝者の中にある「孤独」や「絶望」を三谷はどのように描くのか? 2022年(令和4年)に描かれる三谷大河の新境地が、今から楽しみである。(成馬零一)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む