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キネ旬1位の黒沢清、濱口竜介と野原位の脚本は「抜群に面白かった」

ナタリー

21/2/4(木) 23:24

「2020年 第94回キネマ旬報ベスト・テン」の表彰式に出席した黒沢清。

「2020年 第94回キネマ旬報ベスト・テン」の表彰式が本日2月4日、東京・Bunkamura オーチャードホールで開催され、日本映画ベスト・テン1位に輝いた「スパイの妻(劇場版)」の黒沢清らが登壇した。

「スパイの妻(劇場版)」は日本映画脚本賞も受賞し、濱口竜介、野原位、黒沢がトロフィーを手にした。濱口は「歴史ある賞を獲ってステージに3人で立っていることを本当にうれしく思います」、野原は「今回は一緒に脚本を書くだけでも幸せでしたが、受賞の機会もいただけて本当にうれしいです」とコメント。

東京藝術大学大学院時代、黒沢の教え子だった2人。濱口は、今作の脚本は黒沢に撮ってもらうために書いたものだと明かし「いちファンとして観たい黒沢映画をどうやったら作っていただけるか、またどうしたら企画を受けていただけるような面白いものにできるか考えていました」と話す。一方黒沢は「脚本の9割は濱口と野原が書いたもので、私は1割くらい。2人がこの物語を一から構築し、これを撮りませんかと仕事をくれた。原作者であり、脚本家であり、企画プロデューサーでもあったこの2人にはどれだけ感謝してもしきれない」と礼を述べ、「2人の書いた脚本は抜群に面白かった」と話した。

また日本映画ベスト・テン1位受賞の挨拶の際、黒沢は「この作品に関わったすべての人を代表して賞をいただきました」と話し、ずらずらとスタッフ・キャストの名前を口にしていく。その長さにはMCの笠井信輔も舌を巻くほど。また笠井から「今作への高い評価の根っこにあるものはなんだと思いますか?」と尋ねられると「この時代、そして戦争という非常に重たいテーマを中心に据えながら、サスペンスとメロドラマという娯楽映画の構造も同時に実現できたことでしょうか」と回答。「日本映画ではこれまでなかったような部類だったので、目新しさも含めて評価されたのかな」と分析した。

外国映画ベスト・テンの1位は「パラサイト 半地下の家族」。本作で外国映画監督賞、読者選出外国映画監督賞も獲得したポン・ジュノのメッセージを、本作を配給したビターズ・エンドの代表である定井勇二が読み上げた。ポン・ジュノはキネマ旬報ベスト・テンに入ることは「とても光栄でエキサイティングなこと」と表現し、「私がまだ30代の若造だった2004年、2本目の監督作『殺人の追憶』が初めて貴誌のベスト・テンに選ばれたときの喜びと興奮を、今でもまざまざと思い出します」と述懐。「長年にわたって貴誌が私に送ってくれた篤い応援とご支持に改めて感謝いたします」「キネマ旬報も全世界の映画人とともにあり続けることを願っています」と思いをつづった。

本作の日本における興行収入は47億円超。定井は「正直なところ、こんなことになるとは夢にも思っていませんでした。10分の1ぐらいの興行収入を目指していた」と述べる。笠井に大ヒットの要因を聞かれると、「予測がつかない面白さが一番。またエンタテインメントでありながらも社会性も兼ね備えている部分でしょうか」と笑顔を見せた。

文化映画ベスト・テン1位は、大島新による「なぜ君は総理大臣になれないのか」。大島新は「この映画は衆議院議員の小川淳也さんを17年間にわたって取材した作品です。当初は小川さんのヒューマンドキュメントを作ろうと思って取材を始めたんですが、続けていくうちに、今の政治状況の摩訶不思議さにたびたび直面することになりました。公開するときには今の政治に一石投じられるような、そして有権者に考えていただくきっかけになればと思い製作しました」と経緯を説明する。

本作では小川の家族にも密着したことにちなみ、大島新の父である大島渚の存在について笠井から質問が飛ぶ場面も。大島新は「長年にわたってコンプレックスでもありましたが、なぜか私も映像業界に進みました。私はずっとドキュメンタリーをやっているのでフィクションを作っていた父と違いはありますが、大きな存在です」と答え、「父はかつて『被写体に対する強い興味と関心を持続することが大事だ』と言っていたので、今回の作品ではそれができたのではないかと思います」と胸を張った。

なお読者賞は川本三郎による連載「映画を見ればわかること」、特別賞は野上照代の手に渡っている。

「キネマ旬報ベスト・テン」は、1924年度に当時の編集同人の投票によってベストテンを選定したことを発端とする映画賞。「2020年 第94回キネマ旬報ベスト・テン」の受賞結果は以下の通り。

2020年 第94回キネマ旬報ベスト・テン 受賞一覧

日本映画ベスト・テン

1位「スパイの妻(劇場版)」

外国映画ベスト・テン

1位「パラサイト 半地下の家族」

文化映画ベスト・テン

1位「なぜ君は総理大臣になれないのか」

個人賞

日本映画監督賞:大林宣彦「海辺の映画館―キネマの玉手箱」
日本映画脚本賞:濱口竜介、野原位、黒沢清「スパイの妻(劇場版)」
外国映画監督賞:ポン・ジュノ「パラサイト 半地下の家族」
主演女優賞:水川あさみ「喜劇 愛妻物語」
主演男優賞:森山未來「アンダードッグ」前後編
助演女優賞:蒔田彩珠「朝が来る」
助演男優賞:宇野祥平「罪の声」「本気のしるし 劇場版」「恋するけだもの」「37セカンズ」「星の子」
新人女優賞:モトーラ世理奈「風の電話」
新人男優賞:奥平大兼「MOTHER マザー」
読者選出日本映画監督賞:田中光敏「天外者(てんがらもん)」
読者選出外国映画監督賞:ポン・ジュノ「パラサイト 半地下の家族」
読者賞:川本三郎 連載「映画を見ればわかること」
特別賞:野上照代

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