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「PARCO劇場オープニング・シリーズ」特集

イキウメの“隠れた名作”を亀梨和也主演で上演 前川知大が『迷子の時間 -語る室2020- 』で描く日常のドラマ

全20回

第8回

20/11/6(金)

描き続けてきたテーマが凝縮された“隠れた名作”

SFなど、超常的な世界のなかで生きる人々を描くことの多い前川知大がPARCO劇場オープニング・シリーズに選んだのは、2015年に自身の劇団で「語る室」として上演された作品をベースとした『迷子の時間 -語る室2020- 』。

「僕がこれまで描いてきたテーマが凝縮されているけれども、ふだんの僕の作品に比べるとSF的な部分が強くなくて、ごく日常が描かれた芝居。普段のイキウメの作品は、世界そのものの見え方が変わっていくものが多い。けれどもこの作品は人間ドラマというか、人の感情に寄り添った作品ですね」

2015年に上演された『語る室』は劇団の本公演ではなく、番外的な作品として上演されたもの。『太陽』や『散歩する侵略者』、『関数ドミノ』など、繰り返し上演されたり映画化されたものと比べると、知る人ぞ知る作品だ。

「僕の中では“隠れた名作”だと思っています。書きはじめたときには『語り』を主題にした長編を作ろうということだけだったんですよ。そこからスタートして、脚本にはかなり苦労した記憶があります。普段は全体の設定や構成から考えるタイプですが、この作品に関しては登場人物の人生、履歴を最初に作り込んで書いていった。時間をかけて、初心に戻って書いた作品で、苦労した分できてみたらいい内容のものになった。だからもう一度やりたいとも思ったし、やるとしたらタイトルも内容を表すものにしたいと思って『迷子の時間』という新たな作品として提示したんです」

ストレートプレイ初体験の亀梨和也が挑む課題

『迷子の時間-語る室2020-』

『迷子の時間』は、ある日の夕方、山道でひとりの園児と幼稚園バスの運転手が姿を消すところからはじまる物語。それから5年。園児の母、その弟の警察官、バス運転手の兄……、いなくなったままの二人を思いながら日々を生きていた3人は、久しぶりに集まって語り合っていると、霊媒師や未来人など、不思議な人々に出会う。彼らの存在が失踪事件の謎を紐解いていく。

今回、警察官の役を演じるのは亀梨和也。蜷川幸雄演出の音楽劇『靑い種子は太陽の中にある』(15)以来5年ぶりの舞台作品への出演となる。

「誰にこの警察官をやってもらおうか、プロデューサーと相談しているなかで亀梨さんの名前が挙がって、実際にご本人に脚本を読んでもらったところ、気に入ってくれたのでお願いすることになりました。亀梨くんって映画なんかではミステリアスで影のある役どころが多い気がしますが、この警察官はちょっととぼけたところもあって、一見、亀梨くんのイメージとはつながらない。だから、最初は彼にあわせて脚本を直すこともちょっと考えました。でも、僕の少ない亀梨くんのイメージに当てはめて直すよりも、このかけ離れたように見える役をそのままやってもらうほうが面白い気がして。いまは稽古の真っ最中ですけど、いい感じになっているなと思います」

意外にもストレートプレイへの挑戦は今回が初めてとなる亀梨には、たくさんの課題が与えられているという。

「毎日稽古をはじめる前に、みんなでウォームアップとしてゲームをやったりするんです。そういうときの亀梨くんの表情が本当にいいから、それをうまいこと役に混ぜていけたらと彼にも話しています。でも、自分の素というある種の真実を役というウソに混ぜていくのって、言うのは簡単だけどやるのは難しいんですよね。それと、亀梨くんの役は『語り』の外側にいる人間だから、冷静でいなきゃいけない部分と、感情をぐっと入れなくてはいけない部分のギャップがいちばん大きい役。そういういくつもの難しいトライをしてもらっています」

自粛期間が作品に与えるリアリティ

本作には亀梨和也をはじめ、ある日突然息子が消えてしまった母を貫地谷しほりが演じるほか、浅利陽介、松岡広大ら魅力的な役者が揃う。

「役者が変わると演出もどんどん変わるんですよね。よく知っている役者とやるときは、どうしてもその役者の行き着く先がある程度見える部分がある。今回は皆さん初めての方で、どこまでやるのか、どこが彼らのたどり着く場所なのかがわからない。だからこそ『そこまでやるんだ』という部分が出ているし、それによってシーンも想定とはまったく違うものになっていくんです」

稽古を通じて役者たちから感じているのは、いい意味で「感情的」であること。

「ふだん、イキウメではぐっと感情を抑えた演出をすることが多い気がするんですが、今回の役者さんたちは皆さん、瞬間的に観ている人の感情をぐっと引っ張るんです。観ていて持っていかれる感じがする。それが面白いし、ちゃんとPARCO劇場仕様の芝居になっているな、と思います」

たくさんの演劇人たちの例に漏れず、前川も5月に予定していた公演『外の道』を延期にせざるをえなかった。そんな状況下で、イキウメは「外の道 ワークインプログレス」という形で作品を深く理解するための創作活動を続けてきた。

「公演も仕事もできず、そんな状況のなかで、集まって稽古やミーティングをすることがリハビリになって、僕もみんなも救われたんですよ。足元を検証することができた。ワークインプログレスを通じて、これまで当然と思っていたことが幸せだったと気づけた部分もありました。副産物として、“金輪町の地図”ができたのはよかったですね。イキウメの作品って、今作も含めてすべて金輪町という架空の町で起きていることになっているんです。だからいろんな作品の台本からもってきた情報を地図に落とし込んでみた。その地図を、今回の稽古場に持ってきたら、意外と役に立ちました。実際にこの小さな町で起きたできごとなんだというイメージを共有できたり、リアリティを持つことができたりしました」

自粛期間の活動も糧にして作られる『迷子の時間 -語る室2020-』。登場人物それぞれの人生、人と人との関わりを味わっているうち、気がつけばはるか遠い場所に連れていかれるような作品になりそうだ。

「派手な話ではないけれど、現在と過去が“語り”によって干渉し合ったり、時間を飛び越えられたりする、演劇ならではの面白さのある作品だと思います。役者それぞれに見せ場があるから、そこにぜひ注目してほしいですね」

取材・文:釣木文恵 撮影:源賀津己

公演情報

迷子の時間 -語る室2020-

日程:11月7日(土) ~ 2020年11月29日(日)
会場:PARCO劇場
料金:12000円(全席指定・税込)

作・演出:前川知大
出演:亀梨和也、貫地谷しほり、浅利陽介、松岡広大、古屋隆太、生越千晴、忍成修吾

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