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杏子、第一線を進み続けるシンガーとしての軌跡 味わい深い表現力で魅せる新曲「One Flame, Two Hearts」を聴いて

リアルサウンド

20/6/17(水) 12:00

 昨年、本格的に活動を再開し、ジャパニーズ・ロックファンの話題を呼んだBARBEE BOYS。そのボーカリストである杏子が、今度はソロで新たなプロジェクトを始動した。現時点ではまだ全貌は発表されていないが、第一弾となる配信限定シングル「One Flame, Two Hearts」を聴く限りでは、これまでにない新鮮な魅力を感じさせてくれる。ハスキーな声でパワフルに歌う杏子というボーカリストは、一般的にはロックシンガーというイメージが強いだろうが、実のところはそれだけではないとてもユニークな存在だ。

(関連:杏子、第一線を進み続ける軌跡

 もちろん杏子の揺るぎない原点はBARBEE BOYSである。1984年にデビューしたBARBEE BOYSは、非常に鮮烈な存在だった。杏子とKONTAという男女ツインボーカルをフロントに、KONTAのソプラノサックス、いまみちともたかのエッジの効いたギター、ベースのENRIQUEとドラムスの小沼俊明によるタイトなリズムセクションという特徴的なサウンドによって構成され、男女間の駆け引きを描いた独特の世界観を持つ楽曲で80年代のロックシーンに大きな一石を投じた。バンドにおける杏子の役割は非常に重要で、ハスキーボイスで艶のある世界観を歌い、衣裳も含め華やかなステージングでオーディエンスを魅了する存在感は唯一無二。渡辺美里やプリンセス プリンセスなど80年代は女性ロックシンガーが花開いた時期ともいえるが、その中でも杏子はトップランナーでありながら異色の立ち位置だった。「負けるもんか」や「女ぎつねon the Run」、「目を閉じておいでよ」といった往年のヒット曲群を聴けば、いかに彼女の歌が他にはないものなのかが改めてよく分かる。

 ただ、BARBEE BOYSは独特のスタイルであったがために、杏子のボーカルも、そのスタイルを演じていたと言える部分もあるのかもしれない。しかし、バンドが活動を休止し、本格的なソロ活動を開始してからは、徐々にBARBEE BOYSでは見られなかった個性を発揮していくことになるのだ。例えば、ソロになって発表した1992年のCMタイアップシングル「DISTANCIA~この胸の約束~」は玉置浩二が作曲したエキゾチックなポップスであり、憂いのあるメロディを歌い上げていた。また、映画『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』の主題歌に起用された1997年の「Happy Birthday」は、スガ シカオによるグルーヴィなソウルを独自の解釈で表現してみせた。

 さらには、杏子、山崎まさよし、スガ シカオの3人によって始まったユニット、福耳「星のかけらを探しに行こう Again」の切ないボーカル表現も忘れられない。このような彼女の歌い手としての器用さは、現時点での最新アルバム『Sky’s My Limit』(2012年)を聴いてもよく分かる。フラメンコ風にアレンジされた福耳名義のセルフカバー「DISTANCIA~この胸の約束~(- 20 Years After Ver.)」に始まり、OKAMOTO’Sを迎えたロックなBARBEE BOYS時代の名曲リメイク「タイムリミット」、いまみちともたかとのメロディアスで美しい「BUSU」などとにかく様々なタイプの楽曲が収められている。また、The Bandの「Java Blues」やジャズのスタンダードナンバー「Lullaby of Birdland」までも披露しており、ボーカリストとしての豊かな表現力はさすがとしか言いようがない。

 しかも、杏子はその歌唱力をもってミュージカルなどの舞台の出演も積極的に行ってきた。2005年には俳優の深沢敦とタッグを組み、自身初のプロデュース舞台となった『好色必殺時代劇版ミュージカル“URASUJI 裏筋”』を開催。これはライフワークのひとつになっている。他にも、『アニー』や劇団☆新感線の『SHIROH』に出演。さらにはその演技力から、『海猿』や『グッド・ストライプス』などの映画やドラマにも女優として出演するなど、その活躍ぶりは幅広い。

 とはいえ、やはり原点となるロックボーカリストとしての立ち位置が揺るぎないことは、BARBEE BOYSの活動再開によって証明されている。昨年29年ぶりに発表されたオリジナルアルバム『PlanBee』では変わらぬ妖しくセクシーな歌声を披露していたが、今年の1月に国立代々木競技場第一体育館で行われたBARBEE BOYSのワンマンライブは、復活後のピークと言ってもいいだろう。1万人以上のオーディエンスを前に、艶やかに名曲を歌う姿は、彼女が日本を代表するロックボーカリストであることを改めて認識させられた。

 その流れでいよいよ始動した杏子の新しいソロプロジェクトの第一弾シングル「One Flame, Two Hearts」は、先述の通り実に新鮮な一曲だ。タッグを組んだのは、ソングライターやアレンジャーとして売れっ子の多保孝一。Superflyのメンバーとしてデビューした後、現在はジャンル問わず様々なアーティストを支える、超売れっ子音楽プロデューサーとして活躍しているひとりだ。Superflyだけでなく木村拓哉のソロ曲、家入レオ「僕たちの未来」やchay「あなたに恋をしてみました」といったヒット曲を手掛けた彼の仕事ぶりを見れば、バラエティに富んだ杏子のソロ活動に対するスタンスに通じるものを感じさせる。とくに、Superflyをはじめとするロック系のアレンジやプロデュースを知っていれば、ああいった路線なのかと思うかもしれない。しかし、この新曲「One Flame, Two Hearts」は、いい意味で期待を裏切ってくれるだろう。エレクトロリックなシンセサイザーのサウンドとダンサブルなビートを核としたアレンジは、彼女の声とのマッチングもとにかく斬新だ。そして、深い愛を描いた歌詞の世界観も見事で、音楽シーンの一線でキャリアを重ねてきたからこその表現力でしっかりと歌い上げている。

 杏子の2020年のプロジェクトはまだ始動したばかりで、今のところどのような展開があるのかは見えていない。おそらく今後アルバムも制作されるだろうし、コロナ禍の状況が許せばツアーも行われるだろうが、そこでどのような新しい世界を提示してくれるのかは未知数ではある。とはいえ、この第一弾シングル「One Flame, Two Hearts」を聴く限りでは、なかなか面白いことになるのではないかと期待できる。まずは「One Flame, Two Hearts」をじっくり聴きこんでから、次なる展開のニュースを心待ちにしたい。(栗本 斉)

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