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年末企画:田幸和歌子の「2020年 年間ベストドラマTOP10」 今は戻れないビフォーコロナの熱狂

リアルサウンド

20/12/25(金) 8:00

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2020年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第9回の選者は、テレビドラマに詳しいライターの田幸和歌子。(編集部)

1.『ホームルーム』(MBS/TBS)
2.『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)
3.『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)
4.『猫』(テレビ東京系)
5.『MIU404』(TBS系)
6.『捨ててよ、安達さん。』(テレビ東京系)
7.『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)
8.『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』(NHK総合)
9.『心の傷を癒すということ』(NHK総合)
10.『共演NG』(テレビ東京系)
番外.『これっきりサマー』(NHK総合)

 コロナ禍によって、世界が大きく変わり、エンタメのあり方・求められるものも一気に変容してしまった感のある2020年。

 1位に選んだ『ホームルーム』は、今はもう戻れない、ビフォーコロナの熱狂・興奮に満ちた作品である。これが今年の作品なんて信じられないくらい、もはや遠い過去のように思える。これは意欲作が目立つ毎日放送(MBSテレビ)制作のドラマ枠「ドラマ特区」で放送された1月期の作品。テーマは「学園サイコ・ラブコメ」なのだが、山田裕貴演じるイケメン高校教師「ラブリン」(ただしド変態)と、秋田汐梨演じる真面目で純粋な女子生徒・桜井幸子(ただし、負けず劣らずド変態)が繰り広げる、歪みまくった愛に、めまいがするくらいだ。

 陰湿ないじめを受け続ける幸子と、そんないじめに激怒し、犯人捜しをするラブリン。しかし、実はその犯人は「不幸な目に遭う幸子を守ることが自分の使命」と考えているラブリンで……。目をつぶれば浮かんでくるのは、尻を丸出しにしてベッドの下で変態的な笑みを浮かべる山田裕貴や、薄幸な雰囲気を漂わせつつ、接着剤がスカートについて動けずにラブリンに椅子ごと運ばれ、恍惚の表情を浮かべる秋田汐梨の姿などなど……正直、リアリティなんて全くないし、心が癒されたり、元気をもらえたりするわけでもない。社会問題にも踏み込んでいないし、共感もしない。しかし、強烈に刻み込まれてしまったように、今も忘れられないセリフの数々、映像の数々が鮮明に浮かび上がる。キャスティングが完璧で、映像も凝りに凝っていて、音楽もかっこよく、何しろ理屈抜きに抜群に面白いのだ。

 そして、こうした無意味な熱狂の渦に巻き込んでくれるような作品は、コロナ以降では生まれにくくなるだろうと改めて感じて寂しくなる。

 その一方で、アフターコロナの新たな価値観を提示してくれたのが『姉ちゃんの恋人』である。手指の消毒や、客がマスクを争って買っていた過去など、コロナを想起させる状況が冒頭で描かれているが、マスクをしていなかったり、家族や仲間が集ったりしている状況に対して「ありえない」「リアリティがない」と見る視聴者もいる。しかし、ここで描かれているのは、おそらくアフターコロナの現状よりちょっと先の世界だ。だからこそ、当たり前の日常がいかに大切なものかが、心にしみる。

 有村架純演じる「姉ちゃん」桃子は、両親を事故で亡くし、大学進学を断念、弟たちを幸せにすることを目標に、ささやかな暮らしをしている。そんな桃子が恋をする青年・吉岡(林遣都)も過去のとある事件で心に傷を負っていて、一般的な豊かさ・幸せからは程遠い、無い無い尽くしの二人だ。さらに付き合い始めた二人を、許しがたい出来事が襲う。

 傍から見ると、どこまでも不運で、可哀想な人生に思えるが、しかし、そこに悲壮感はない。悪意や暴力はなくならないし、不幸な出来事もたくさんある。そんな中、大切なもの・守りたいものがあることが、人を強くし、人生を豊かにするという、ごくシンプルで当たり前のことを、この作品は実感を伴って伝えてくれている。

 おそらくアフターコロナで、世界が以前と同じに戻ることはないだろう。ここから先はきっと自分自身のブレない軸や、自身の小さな世界、家族や友人、趣味などでつながるミニマムなコミュニティが大切になってくる時代だ。

 ベスト10には、1位を除き、そうした社会の大きな転換期にふさわしい、他者に振り回されない個々の価値観や、大切なもの、小さな世界を愛する作品を多くセレクトしてみた。テイストが極端に異なる1位と2位の作品の落差は、2020年という1年のテンションの落差ということで。

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■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■リリース情報
『ホームルーム』
DVD-BOX発売中
価格:¥12,000(税別)
出演:山田裕貴、秋田汐梨、富田望生、横田真悠、大幡しえり、若林拓也、綱啓永
豊原江理佳、渡辺碧斗、ウメモトジンギ、青山隼、前野朋哉、山下リオ
原作:千代『ホームルーム』(講談社『コミックDAYS』連載中)
監督:小林勇貴
脚本:継田淳
制作:ロボット
製作:「ホームルーム」製作委員会・MBS
発売・販売元:ポニーキャニオン
(c)「ホームルーム」製作委員会・MBS (c)千代/講談社

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