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杉咲花は暗闇を照らす月のよう 『おちょやん』“2人の千代”に見送られ旅立ったテルヲ

リアルサウンド

21/3/19(金) 12:05

「千代、お前はほんまにお月さんみたいやな」

 それが、本当にどうしようもないテルヲ(トータス松本)が千代(杉咲花)に残した最後の言葉となる。『おちょやん』(NHK総合)第15週では、父親を許すことも憎み切ることもできない娘の苦しみと葛藤が描かれた。

 千代を守るために借金取りと揉み合いになり、警察に連行されたテルヲは接見室で娘にこれまでのことを詫びる。けれど千代を奉公先に送り、何度も自分の借金を背負わせようとしたテルヲの行いは到底許されるものではない。それにもかかわらず、最後に父親らしいことをしたいという独り善がりな思いに千代は苦しめられる。

 自分の元に生まれてきてくれてありがとう、本来ならば子供にとって何よりも嬉しい言葉だ。全部許すことができたらどんなに楽だろう、「お父ちゃん」と笑いかけることができたらどんなに良かっただろう。何年も、何十年も、千代はテルヲを憎む一方で、父親からの愛情を渇望してきた。

 千代はサエ(三戸なつめ)の写真を取り出し、お母ちゃんなら許してくれるかもしれないとテルヲに謝らせる。鼻水を垂らし、肩を震わせながら頭を下げるテルヲに対し、どんな時も自分を支えてくれた母の写真を渡してくれたことだけは感謝していると告げる千代。

「悔しいけど、あんたはうちのお父ちゃんや」

 葛藤の末に絞り出した千代の言葉にテルヲは顔を上げる。しぶといだけが取り柄なんだから、どんな手を使ってでも生き延びてもう一度笑って「お父ちゃん」って呼ばせてみろ。それが千代なりに絞り出した、父親の“罪”に対する“罰”だ。もう未練はないと諦めていたテルヲの目に生気が宿る。そして、いつものような傲慢な顔で「やったろやないけ」と千代に向き合った。

 けれどテルヲは留置場の中で一人、静かに息を引き取った。死ぬ間際に見たのは、幼い頃の千代(毎田暖乃)と今の千代に「お父ちゃん」と笑顔で呼びかけられる夢。テルヲは現実にそれを叶えられることはなくこの世を去ったが、最後に幸せな夢を見ることができたのは暗闇をそっと照らしてくれるお月様のような千代のおかげだ。

 テルヲの死後、そんな千代の元にはお母さんとお父さんと代わりのシズ(篠原涼子)や宗助(名倉潤)をはじめとする岡安の人たち、みつえ(東野絢香)が嫁いだ福富の家族、劇団の仲間たちが集まってくる。テルヲが生前、千代をよろしく頼むとお願いしていた人たちだ。みんな千代の家でぎゅうぎゅうになってお酒を呑みながらテルヲを弔う。

 千代はみんなに愛されている。テルヲが頼まなくてもきっと、誰も千代を一人で泣かせまいと集まってくれただろう。大勢に囲まれて幸せそうに笑う千代を、一平(成田凌)と寄り添い合う千代を、サエと横並びで飾ってもらえた写真の中からテルヲは見ることができた。

 『おちょやん』ドラマ・ガイドによると、千代が一平にキスしたシーンは杉咲と監督が相談し、成田には内緒で撮影に臨んだという。一平が舞台の上で亡くなった初代・天海(茂山宗彦)からの言葉を聞いたように、テルヲの父親ぶったうるさい声が千代にも届いた。そんな制止を振り切って、一平にキスして笑う千代は、怒りと憎しみから解放された無邪気な一人の娘だった。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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