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『ONE PIECE』は「差別と革命」を描く物語だーー壮大なスケールの“新世界編”、その行く末は?

リアルサウンド

20/6/29(月) 13:06

 『週刊少年ジャンプ』で連載されている尾田栄一郎の『ONE PIECE』(集英社)は、海賊王ゴールド・ロジャーが残した、「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」をめぐって、海賊達がしのぎを削る「大海賊時代」を舞台にした海洋冒険ファンタジーだ。

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 ルフィが率いる麦わら海賊団は、イーストブルー(東の海)から旅立ち、グランドライン(偉大な航路)で様々な冒険を繰り広げる。しかし、マリンフォワード頂上決戦で、自分の限界に直面したルフィは冒険を一時中断。ゴールド・ロジャーの片腕だった冥王シルバーズ・レイリーの元で“覇気”と呼ばれる力を使いこなすための修行をおこなう。

<以下、ネタバレあり>

 それから2年後。ルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルックたち麦わら海賊団の仲間たちが、シャポンティ島に集結。潜水用のコーティングが施されたサウザンドサニー号に乗って、深海1万メートルの海底にある魚人島へと旅立つ。

 魚人島は、リュウグウ王国の海神ネプチューンによって統治されていたが、ホーディ・ジョーンズ率いる新魚人海賊団がフライング海賊団とともに、王国の破壊を目論んでいた。

 一方、ルフィたちは「海の森」で、海侠のジンベエから「魚人たちの虐げられてきた歴史」について聞かされる。かつて、ジンベエはフィッシャー・タイガーを船長とするタイヨウの海賊団のクルーだった。「奴隷解放の英雄」と呼ばれるタイガーは元奴隷の魚人たちと共にタイヨウの海賊団を結成し、世界政府と戦っていた。そのため、「人間と魚人の友好」を目指すリュウグウ国のオトヒメ王妃の考えとぶつかっていた。

 そんなある日、タイガーは、奴隷として扱われていた11歳の人間・コアラを故郷の島に送り届けることになる。コアラとの交流で人間とも理解し合えるのではないかと思ったタイガーだったが、島の人間に通報され海軍に襲撃される。何とか逃げ出したタイガーだったが、自分たちを裏切った人間に絶望し、船上で命を落とす。

 その後、ジンベエはタイガーの後を継いで新しい船長となる。やがて2億5千万ベリーの賞金首となったジンベエは世界政府公認の海賊・王下七部海に誘われる。魚人の立場が良くなると考えたジンベエはその誘いを受けると同時に、海軍に捕まった仲間のアーロンを釈放させる。しかしアーロンは「人間の戌(イヌ)に成り下がった」とジンベエを非難。仲間を連れて海賊団を離脱する。

 アーロンは序盤に登場する冷酷な魚人だ。すでにシャボンディ諸島編で、魚人たちが差別される姿が描かれており、差別されるマイノリティとしての魚人と、世界を牛耳る世界貴族(天竜人)の存在が明示されていたのだが、この魚人島編において、かつて戦ったアーロンもまた、酷い差別を受けて人間を憎んでいたことが判明する。

 『ONE PIECE』は2部構成となっており、1~61巻の第597話までが「サバイバルの海 超新星(ルーキー)編」、2年後の598話以降が「最後の海 新世界編」となっている。

 第61巻の表紙は第1巻の表紙と同じ構図で成長したルフィたちの姿が描かれており、折返し地点であることが強調されているのだが、第2部の幕開けとなる魚人島編に、序盤に登場したアーロンたち魚人族の背景を掘り下げる話を持ってきたことで、物語がより深まっていると感じた。「差別」という難しいテーマを、少年漫画の娯楽活劇として見せる手腕も見事で、これぞ『ONE PIECE』だと言えよう。しかし、問題意識の落とし所としては、若干、後味の悪さが残るものとなってしまった。

 アーロンの意思を継いだホーディたち新魚人海賊団を、ルフィたち人間とジンベエたち魚人が共同戦線を張って倒すことで、魚人島編は幕を閉じる。

 暴力による国家転覆を企てるホーディは「環境が生んだバケモノだ」と語られる。「こいつらの恨みには「体験」と意思が欠如している!!!」「実体のない……空っぽの敵なんだ!!!」と語られるホーディたちは、被害者意識を肥大させ人間を「下等種族」と見下し、「おれ達は選ばれた!! 復讐という「正義」をうけつぐために!!」と語る、カルト集団だ。

 社会正義を掲げる集団が戦いを自己目的化することで暴走することは珍しくないことだ。だから、彼らを悪として描くと物語の収まりがいいのだが、それだけに問題を矮小化していないか? と感じた。つまり、ホーディを「バケモノ」にした「環境」に対する意識が足りないように感じた。それは魚人差別を生み出した世界政府や天竜人の罪で、そこへの踏み込みの甘さが、後味の悪さにつながっている。

 だが、ここでの語り残しは今後、描かれるのではないかと思う。ルフィの父・ドラゴンが世界政府と戦う革命軍総司令官だと考えると「差別と革命」は本作の大きなテーマだ。

 おそらく最終的にこの問題をどう描くかで本作の評価は決まるのだろう。巻を重ねるごとにテーマが深まっている『ONE PIECE』だ。その辺りは信頼して良いのではないかと思う。

(文=成馬零一)

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