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いま、最高の一本に出会える

ヒトリエ、ボカロシーン発の“源流”としての存在感 アルバム『HOWLS』にある興奮の方程式

リアルサウンド

19/3/1(金) 18:00

 ヒトリエのニューアルバム『HOWLS』が素晴らしい。

(関連:ヒトリエが『BORUTO』EDテーマで掴んだ新境地「メンバーとお客さんありきの孤独に踏み込めた」

 メジャーデビューからは4作目。ニューカマーの季節は過ぎ、バンドとしては、いわば中堅としてのキャリアに差し掛かりつつある。それでもなお、いまだキレキレの演奏と目の醒めるような歌を放ち続けている。さまざまなアプローチを試みつつ、その核心に彼らにしか鳴らせないような興奮の方程式を感じさせる。

 たぶん、一つのきっかけになったのは「ポラリス」だろう。アニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のエンディングテーマとして書き下ろされた一曲。そのためか「少年たちのヒーローとなることを引き受けている」感じがする。

 00年代以降の日本の音楽シーンでは、アニメとロックバンドが結託することで数々の名曲が生まれてきた。たとえば『NARUTO』とASIAN KUNG-FU GENERATIONの「遥か彼方」のように、たとえば『TIGER & BUNNY』とUNISON SQUARE GARDENの「オリオンをなぞる」のように、たとえば『君の名は。』とRADWIMPSの「前前前世」のように。楽曲と物語のロマンティシズムが結びつくことで両者の魅力が倍増するような回路が機能してきた。

 数々のアニメタイアップのヒストリーを掘り下げていけば、その回路によってユースカルチャーの中でロックバンドがどのようにして“少年性”を体現してきたかを一つの文化史として紐解くことができるのだが、それは今回は置いておいて。この「ポラリス」も、まさにそういう系譜に位置づけられる曲だ。

 「コヨーテエンゴースト」もいい。

 癖の強い4人の演奏を点と点で噛み合わせるようなアンサンブル、高速なテンポにフックの強いフレーズを高密度に詰め込む曲作り、そういう彼らの武器を研ぎ澄ましたような曲になっている。火花を散らすような2本のギターが左右で鳴り、wowakaが早口で歌う。

 その一方で、郷愁の感覚も新作の一つのキーポイントになっている。たとえば「SLEEPWALK」はシンプルな打ち込みのビートとシンセからなる曲。

 サカナクションにも通じ合うような音空間の作り方と“和”のテイストを感じさせる曲だ。アルバムにはピアノを配したミディアムチューンの「November」やパワーバラードの「青」も収録されているが、そこでも郷愁を誘うメロディの節回しがポイントになっている。

 先日当サイトに寄稿したキュレーション原稿でも書いたが(参考:長谷川白紙、中村佳穂、King Gnu……柴 那典が選ぶ、2019年期待のニューカマーベスト10)、2019年の今、ネットカルチャー発の才能が日本のロックを、そしてポップミュージック全体のシーンを目覚ましく更新している状況にある。

 Eve、須田景凪(バルーン)、ヨルシカ、神山羊など、2000年代から2010年代以降のボカロ文化が育んだ才能が次々と世に登場している。初音ミクが登場した2007年から2012年頃までの5~6年を勃興期と位置づけるならば、そこから時を経て、ボカロがBUMP OF CHICKENやRADWIMPSなどのロックバンドの系譜に結びつき日本独自のユースカルチャーとして根付いてきた結実が表れはじめている。

 言うまでもなく、ヒトリエはその源流となる存在だ。wowaka(Vo/Gt)は2009年にニコニコ動画への投稿を始め、その後のボカロシーンに高速で高密度な楽曲が増え一つの潮流を作り上げるきっかけとなったクリエイターの一人。シノダ(Gt/Cho)、イガラシ(Ba)、ゆーまお(Dr)も、それぞれネット上で表現活動をするところから音楽を始め、ネットを介してwowakaに出会ったという経歴の持ち主だ。

 wowakaが影響を受けているバンドの一つに最近再結成を発表したNUMBER GIRLが挙げられるのだが、向井秀徳(Vo/Gt)を中心に田渕ひさ子(Gt)、中尾憲太郎(Ba)、アヒト・イナザワ(Dr)という個性の強く切れ味鋭いプレイを繰り広げるメンツが集まったバンドという意味で、ヒトリエとNUMBER GIRLに共通点を見出すこともできる。違うのはNUMBER GIRLが90年代末の福岡のライブハウスシーンの猛者が集ったバンド、ヒトリエが00年代末のボカロシーンの猛者が集まったバンドであるという、時代と世代と環境の差だ。

 8年前。ヒトリエを結成する前のwowakaは、2011年春にインターネット発のレーベルとして発足したインディーズレーベル<BALLOOM(バルーム)>の設立第1弾として、アルバム『アンハッピーリフレイン』をリリースしている。

 同レーベルからは、wowakaと同時期に「ハチ」名義でニコニコ動画への楽曲の投稿を始め、wowaka自身もたびたび「戦友」と語る米津玄師による初のアルバム『diorama』もリリースされている。

 今はなくなってしまったそのホームページには、まるで檄文のようなフレーズが書かれていた。

“日本の音楽シーンは終わった”
“**年のシーンが一番熱かった”
本当にそうでしょうか?
私たちは知っています。
この広大なネットの中に熱い情熱を持った音楽がたくさん埋もれていることを
音楽シーンが熱くないと言われている今でさえ、私たちは音楽が大好きで仕方がないんです。
(中略)
2011年“から”の音楽シーンが一番熱い。そう思ってもらえるように。

 今になって振り返ると、とても感慨深い一文だ。

 たしかに、2011年“から”の音楽シーンが一番熱かった。

 価値観の転換が起こりつつある2019年の日本の音楽シーンにおいて「ロックバンドが格好よくあるためには何をどう研ぎ澄ますべきか」という意識を改めて音に込めたようなヒトリエの新作を聴きながら、改めてそんなことを思ったりもする。(柴那典)

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