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『G線上のあなたと私』波瑠の必死の叫びが胸を打つ 難易度の高い人生に必要な仲間の存在

リアルサウンド

19/10/23(水) 11:45

 「楽しくしてれば、こっちの勝ちだ」

参考:桜井ユキが明かす、『G線上のあなたと私』眞於を演じる新鮮さ 「正直、すごく違和感がある」

 火曜ドラマ『G線上のあなたと私』(TBS系)第2話。大人のバイオリン教室で出会った也映子(波瑠)と理人(中川大志)と幸恵(松下由樹)は、27歳の元OL、19歳の大学生、46歳の主婦と、年齢も置かれた環境もバラバラ。だが、元恋人に裏切られて婚約破棄された也映子、兄の元婚約者・眞於(桜井ユキ)に叶わぬ恋をしている理人、夫の浮気に姑の嫌味に耐える幸恵と、それぞれがそれぞれのモヤモヤを抱えて生きているのは同じだった。

 辛い現実を少しでも変えたい、そんな藁をも掴む思いでバイオリンを手に取った3人。憧れの曲「G線上のアリア」を弾けるようになって、発表会に出る。「あの感情以外、前に進めるものが、何もないんです」と切実に訴える也映子に、背中を押される形で理人も幸恵も発表会に出場することに。だがバイオリンは、そう簡単にはいかない。「G線上のアリア」に挑戦することさえ叶わず、発表会での演奏もボロボロ。

 だが、それでも同じ壁にぶつかったことによって、彼らの絆は深まった。「もっと練習する」「次の発表会も出る」と掲げられた新たな目標には「この3人で」という言葉が続くのだろう。幸恵の言葉を借りるなら「フィールドが違う」メンバーではあるものの、バイオリンという面から見れば同じ初心者。年齢を重ねるうちに、それぞれの道を1人で歩いているような気分になるが、このバイオリン教室にくれば同じ山を登ろうとしている同志がいる。そんな心強さが、3人の心を温め始めていた。

 もちろん、バイオリンがなかなか弾けるようにならないのと同様に、日常はなかなか好転しない。也映子は「好きな人と元気にやっているのか」と元婚約者のことをふとしたときに思い出し、理人は社交辞令をそのまま受け取り兄の子が生まれたことを眞於に告げてしまう。そして、幸恵は2人と姑の旅行中に娘のピアノと合わせて練習しようと企画するも、姑が突然帰ってきてしまう。残念な空気が流れるまま、練習は早めに終了。「わざとだ……」と悔し涙を流す幸恵に、理人が放ったのが冒頭の「楽しくしてれば、こっちの勝ちだ」という言葉だった。

 誰かに自分たちの「楽しい」を、どうこうされたくない。理人には、その想いをストレートに表現する若さがある。理人に比べて長く生きてきた也映子と幸恵にとって、その素直さがくすぐったくもあり、愛しくもあり、そして救われるのだ。

 時間は常に流れている。大人になるほど、立ち止まってはいられないと、早く切り替えて見せたり、そもそも傷ついていないフリをしたりと、なんとか折り合いをつけながら前に進もうとするものだ。だが、理人はそんな大人になった女性ふたりに、まっすぐにぶつかってくる。

 理人に刺激を受けて、也映子と幸恵も少女のようにハシャいだり、思いの丈をぶちまけたり。平凡な大人という仮面を外してイキイキとして話す姿は、実に爽快だ。「本当に好きかどうかなんてどうやってわかるのか」と也映子が理人に食ってかかるシーンは、まさに名場面。理人にも伝わるように言語化を心がけながらも、誰にもぶつけられなかった想いをこれでもかと投げつける。

 そう、誰にもわからないのだ。誰がどんな思いを抱えて、どんなふうに苦しんでいて、何を頑張っているのかなんて。それぞれの問題と、それぞれの形で向き合って、なんとか生きている。私たちは、自分の人生を動かすことのできる唯一の存在。思い通りに音が出ないバイオリンのような人生を、必死に動かしているのだ。

 そんな人と人とが、一緒に生きていく上で必要なのは、人生経験を活かしたアドバイスよりも、味方であることを告げる「応援している」の言葉で十分なのかもしれない。立場やフィールドが異なっても、親愛を込めて名前呼びできる同志がいれば。楽しもうと思える
仲間がいれば。この難易度の高い人生を、のびのびと奏でられるはずだ。

(文=佐藤結衣)

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