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『エール』柴咲コウ×金子ノブアキの切なく辛い恋 オムニバス週で浮かび上がったそれぞれの人生

リアルサウンド

20/6/19(金) 12:10

 本編は一旦お休みで、登場人物たちの知られざる物語がオムニバス形式で描かれている『エール』(NHK総合)第12週。ラストは音(二階堂ふみ)が憧れる世界的なオペラ歌手、双浦環(柴咲コウ)の物語だ。第59話では、若かりし頃の環が留学先のフランス・パリで、画家の嗣人(金子ノブアキ)と恋に落ちていく姿が描かれた。

参考:フローラン・ダバディ、『エール』出演 元日本代表監督トルシエの通訳としても活躍

 時は大正初期、環はまだアジア人に対する差別が色濃く残っていたミラノに飛び、プッチーニが日本を舞台に作曲したオペラ『蝶々夫人』のオーディションを受ける。見事に一次審査を通過した環の成果に、嗣人も一緒になって喜ぶが、嗣人の個展が開かれた翌日から状況は一変。

「ただただ凡庸。すべてがものまね」

 15歳で「サロン・ドートンヌ展」で賞を取り、天才画家と賞賛された嗣人の個展に対する評価は散々なものだった。一方、日本人の役を欧米人が務めた『蝶々夫人』の初演が最悪の評価を受けたオペラハウスは起死回生を狙い、新キャストとして環に目をつける。さらに、絵の展覧会や舞台をプロデュースするアダムという男性が環を訪ねてくるなど、環の才能は周知のもとに。それに伴って、嗣人の環に対する態度は荒々しくなり、2人の関係には暗雲が立ち込める。『蝶々夫人』のオーディションをもう一度受けられることになった環も、嗣人の変化に気づいている様子だった。

 そして最終選考前日、ホテルで過ごす環のところに友人の里子(近衛はな)が訪ねてくる。さぞ緊張しているかと思いきや、「ただ楽しみ」と心を躍らせる環に、里子は世界的なバレエダンサーを目指していたが、欧米人からの差別と体格差で夢を諦めた過去を明かす。「正直悔しいの。あなたと私は違う」という里子の本音は、まるで嗣人の気持ちを代弁しているようだった。

 その後、行きつけのカフェの店主(ピーター・フランクル)から、店で個展を開かないかと誘われた嗣人。新聞で自分の絵が酷評されて傷ついた嗣人にとっては喜ばしい出来事だったが、最終選考を終えて帰宅した環から合格を告げられる。街のカフェで個展を開催できることに喜んでいる嗣人と、誰もが知るオペラハウスの公演に立てることになった環。その差に怒りをあらわにし、嫉妬に狂う嗣人に「あなたには才能がある」と必死に伝えるが、嗣人は「その優しさが人を苦しめる」と突っぱねた。“中途半端な絵”と環に言われ、笑っていた大らかな嗣人はもういない。環は「君という光の影にいるのは耐えられない、歌を諦めてくれ」と嗣人にお願いされ、夢のために別れを選んだ。

 やはり環の人生は音の人生と重なるところがある。どちらも歌手を志ざし、その道の途中で嗣人と裕一(窪田正孝)、共に才能ある男性と恋に落ちた。さらに理由は違えど、2人とも“夢”か、友人や家族、恋人と平凡に暮らせる“日常”の2択を迫られている。しかし、環はいずれかを選択し、音はどちらも諦めずに両方手に入れようとした。そんな音を“傲慢だ”という人もいたが、妊娠して『椿姫』を降板しても「夢も子供も、夫婦2人で育てていきます」と真っ直ぐ前を向く音の姿に、環は動揺していたように思えた。けれど、カフェの店主が別れを選んだ環に「自分に嘘をつくことが最大の罪だ。それでいい、それが君の人生だ」と言ったように、2人の選択はどちらも間違ってはいない。才能がゆえに人から距離を置かれ、たった一人孤独に夢を追いかけてきたからこそ、環は現在の地位に登りつめたのだから。

 そして、環と別れた嗣人はカフェで無事に個展を開く。以前の個展で嗣人の絵を酷評した批評家のピエール(フローラン・ダバディ)から「この絵が描けるなら、まだ将来はあると思う」と褒められた絵は、着物を着て歌う環の姿だった。

 そんな嗣人を見て、第57話で人間界に戻ってきた音の父・安隆(光石研)が三女の梅(森七菜)に言った「負けを受け入れるから人は成長したり、違うことに挑戦できる」という台詞が浮かぶ。天才画家と言われながら、最初はどこか絵に執着していないように見えていた嗣人だが、環に出会い、才能の違いを見せつけられたことで変わったように思える。きっとその経験が、これからの嗣人を一流の芸術家として成長させるのだろう。

 故人の安隆と残された家族、カフェ「バンブー」の店主・保(野間口徹)とその妻である恵(仲里依紗)、オペラ歌手環と元恋人の嗣人……普通ならば見逃されてしまう物語。本編は音と裕一の物語だが、登場する人物ひとり一人に隠された過去や想いがある。それを丁寧に描くのは、これまでも裕一や音を支える人物をしっかりと映し出してきた『エール』ならではだと感じた。(苫とり子)

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