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おとな向け映画ガイド

今週の公開作品から、ミニシアター系で注目の3本をご紹介します。

ぴあ編集部 坂口英明
20/9/13(日)

イラストレーション:高松啓二

今週のロードショー公開は17本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。全国100スクリーン規模以上で拡大公開される作品は『TENET テネット』『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』『思い、思われ、ふり、ふられ〈アニメ〉』の3本。中規模公開とミニシアター系の作品が14本です。その中からオトナが愉しむ3本を厳選して、ご紹介します。

『メイキング・オブ・モータウン』



マイケル・ジャクソンもスティーヴィー・ワンダーも、多くの偉大なミュージシャンがこのレーベルからキャリアを始めました。モータウン、60〜70年代のアメリカ音楽シーンを牽引したレコード会社の、貴重なドキュメンタリーです。創設者ベリー・ゴーディJr.と、ナンバー2として草創期から関わったスモーキー・ロビンソンとのくだけたトークのあいだに、ポンポンと信じられないほど豊富な映像、音源、インタビューが挿入されて、うきうきしたノリで観られる構成です。

車の町(モータータウン)、デトロイトで生を受けたゴーディは、フォードの工場で働いた時、その分業化された組み立てラインに感動したそうです。音楽ビジネスに参入すると、それを取り入れた、といいます。ヒッツヴィルと名付けられた、スタジオのある小さな一軒家で会社を設立したときから、曲作り、アーティスト発掘、レコード制作、販売などにそれぞれプロを集め、分業を徹底します。新曲を出すときは、ミュージシャンも参加する「品質管理会議」で自由な議論を交わし、競争をかき立てます。

次々と若い才能が集まってきます。マーヴィン・ゲイ、スティーヴィー・ワンダー、スプリームス(シュープリームス)、ジャクソン5……。11歳の天才少年スティーヴィーや、幼いマイケルのオーディション映像は圧巻のひとこと。ダイアナ・ロスの独立をめぐるエピソードは独占秘話、といったところ。1965年、当時ヒットチャートを5位まで独占するビートルズを引き下ろした、「史上最高のギターリフ(=スモーキーの言葉)」で始まるあの歌、テンプテーションズの『マイ・ガール』ができるまで、も感動的です。品質管理会議では、賛否両論だったそうですが。

首都圏は、9/18(金)から新宿シネマカリテ他で公開。中部は、10/30(金)からセンチュリーシネマで公開。関西は、9/18(金)からシネ・リーブル梅田他で公開。

『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』



世界失踪児童の日(5月25日)というのがあるくらい、少年少女をめぐる謎の失踪事件は世界的な問題のようです。『宮廷女官チャングムの誓い』で日本でも人気のイ・ヨンエが、結婚、子育てから復帰し、14年ぶりの主演作に選んだのはこの題材でした。

ヨンエが演じるのは、6年前に失踪した息子を夫と探す看護師ジョンヨン。元教師の夫は、リアガラスに写真入りの「息子を探しています」というメッセージを描いた車に乗って、有力情報には多額の懸賞金をだす、そんなチラシをまき、全国を探索して回ります。からかいや金目当ての通報に振り回される夫婦。手かがりがあればどこへでもとんでいくのですが、そんな夫婦にまた予期せぬ事態が起こり……。ああ、そんなことしたら、警戒されるだけじゃん、とか、もう少し慎重にことを進めればと、この理不尽な現実と必死で戦う姿を観てると、つい気をもんでしまいます。手が込んでいて、まさに手に汗にぎるサスペンス・スリラー。最後の最後まで目が離せません(本当です)。

キム・スンウによるオリジナル脚本、初の監督作品。地元警察の署長役は人気ドラマ『梨泰院クラス』の敵役ユ・ジェミョンです。

首都圏は、9/18(金)から新宿武蔵野館他で公開。中部は、9/25(金)から伏見ミリオン座で公開。関西は、9/18(金)からシネ・リーブル梅田他で公開。。

『マーティン・エデン』



最近も『野生の呼び声』がハリソン・フォード主演で映画になりましたが、ジャック・ロンドンは20世紀を代表する作家のひとり。村上春樹さんの小説にも引用されたことがありますね。その彼の自伝的小説の舞台を、20世紀初頭のアメリカから、イタリア、ナポリに移して映画化した作品です。

ナポリの労働者地区で育った、船乗りの若者マーティンが、偶然知り合った良家の息子を助けたことから、彼の家に招かれ、姉エレナと出会い、たちまち恋に落ちます。エレナも、無教養だけれどハンサムで純粋な心の持ち主の彼にまんざらでもなさそう。そして、この家に出入りするうちに、マーティンは詩や文学の世界に興味を持ち、自分でも何か書いてみたいと思いはじめるのです。

そこからの集中力というか、一途な思いが心を打ちます。中古のタイプライターを買い、小説を書きはじめます。売れない小説家、というのはよく映画の題材になりますが、日本のように、登竜門となる文学賞があるわけでなく、出版社へ送り続け、返され続ける日々。そんな苦しい日々を支えてくれる周囲の人々の静かな応援と、その逆にあざけりも半ばするなかで、身分違いの恋、夢と現実のはざま……文学青年がいかに生きるかという青春映画になっています。

マーティン役のルカ・マリネッリがなんといっても魅力的。この作品で、2019年ヴェネチア映画祭の主演男優賞を受賞しています。

首都圏は、9/18(金)からシネスイッチ銀座他で公開。中部は、10/9(金)から伏見ミリオン座で公開。関西は、9/25(金)からテアトル梅田他で公開。

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