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撮影:樋口尚文

樋口尚文 銀幕の個性派たち

川瀬陽太、銀幕のけものみちに分け入って (インタビュー 後篇)

隔週連載

第20回

19/3/28(木)

今回も引き続き、『月夜釜合戦(つきよのかまがっせん)』『天然☆生活』と、主演作の公開が相次ぐ「個性派」のおひとり、川瀬陽太さんにインタビューする、特別編でお送りいたします。

─── 『月夜釜合戦』が連日の盛況で渋谷の上映も延長となり、一方ではもうひとつの川瀬さんの主演作『天然☆生活』が新宿で公開が始まりました。なんと川瀬さんは渋谷と新宿のスクリーンで主演作が同時に公開されている、という凄いことになりましたね。

川瀬陽太(以下、川瀬) 本当にありがたいことです。『天然☆生活』は、僕も出ている『トータスの旅』で2017年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭でグランプリをもらった永山正史監督の新作です。僕はマイペースに田舎暮らしをしてるしょうもないおじさんの役なんですが、そこにいわゆる都会から来たナチュラル志向の津田寛治さん一家が現れて、いろいろなドタバタが起こるわけです。僕は田舎の身内の家にニートみたいに身を寄せていたんですが、その主が死んじゃってどうしようかという時に、津田さんたちがやって来て、その家を古民家カフェにしたいと言い出すわけですね(笑)。

─── 途中まではちょっと松竹調ホームドラマなのに後半から破天荒な展開になりますね(笑)。

川瀬 田舎のそこに住んでいる人間が考える暮らしかたと、よそ者の都会の人間が考える自然志向との軋轢を描いているわけですが、そこで郷にしたがわず自分の価値観を強いてくる不寛容さの側を津田さんが演じています。そこに発して作品の根底では世界の不自由さ、不寛容さへの批判もまぶそうというのが監督と僕らの狙いではありましたね。あまり詳しくは言いませんが、3.11の原発禍の後でいろいろと監督としては義憤に駆られるような出来事がありまして、そのことへの異議申し立てもあり、僕がある変身をするんです(笑)。

『天然☆生活』(C)TADASHI NAGAYAMA

─── そんなアナーキーな展開をもって撃とうとしている大状況があると。

川瀬 そうなんです。これも監督と話していたのですが、最近ニュースなんかで、池の水を抜いて外来魚をつかまえては、こいつらが古来のわが国固有の生態系を壊す諸悪の根源です、みたいに糾弾する物言いに凄く違和感があって。そういう魚には食用として明治期に連れてこられたものもあるわけで、もう十把ひとからげに外来種は悪い、なんてバッシングするのはなぁと。こんなに景気が悪いと何かに当たってプライドを保とうとするのもわかるんだけど、世の中にそういう論調がいくつもあると、もはやイデオロギッシュな居心地悪さしか感じない。そんな趨勢への批判や抵抗を、うっすら作品に忍ばせられたらと監督と一緒に考えました。

─── ところでこの永山監督や『月夜釜合戦』の佐藤零郎監督のように、未知なる将来のホープとも熱意をもって仕事されていますが、川瀬さんのなかには「こういう奴と仕事したい」という条件はありますか。

川瀬 条件なんておこがましいものはないんですが、たとえば昔は映画一本撮ったことで街金に追われて姿を消した人もいるし、映画を作ることってずっと大変だったわけじゃないですか。ところがデジタル時代の今はすぐに映画撮れちゃうし、それが単館のレイトなんかで上映してもらえたりもするし、自主とプロの垣根がなくなったからプロの俳優も出てくれたりするし、もうそこで作り手の夢が一応はかなっちゃうわけですよ。ところが簡単にできることは、簡単にやめちゃうことにもつながるわけです。でも幸いにして俺と一緒にやって来た人たち、またはその周囲の人たちには、ずっと諦めないで続けてきて花開いている例がいくつもあって、やっぱり彼らを信じてやって来たことは間違いなかったと思うし、そういうライトスタッフとずっと仕事していたいですよね。

『天然☆生活』(C)TADASHI NAGAYAMA

─── それはスタッフに限らず、志ある映画館についても言えるのではないですか。

川瀬 『天然☆生活』はK’s cinemaでかけてくれていますが、劇場の方とのおつきあいは僕が昔、俳優をやり出す前の助監督時代に遡るんです。当時僕らが作っていた自主映画を中野武蔵野ホールが上映してくれていたのですが、その時の劇場の方が現在のK’s cinemaを運営されていて、僕が主演した冨永昌敬監督の『ローリング』もまさかの4週昼興行を組んでくれたんですね。本当に僕は劇場に助けられてると思います。


作品紹介

『月夜釜合戦(つきよのかまがっせん)』

2019年3月9日公開 配給:映画『月夜釜合戦』製作委員会
監督・脚本:佐藤零郎
出演:太田直里/川瀬陽太/門戸紡/渋川清彦/カズ

『天然☆生活』

2019年3月23日公開 配給:Spectra Film
監督:永山正史 脚本:永山正史/弥富圭一郎
出演:川瀬陽太/津田寛治/谷川昭一朗/鶴忠博/三枝奈都紀


プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ) 

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』が2019年に公開。

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