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アニー賞ノミネートから考える、2019年アニメのトレンド 『天気の子』ら日本勢受賞の可能性は?

リアルサウンド

19/12/17(火) 10:00

 過日、アニメーション界のアカデミー賞とも言われるアニー賞の2019年ノミネートラインナップが発表された。

 長編アニメーション作品賞候補には、『アナと雪の女王2』や『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』、『トイ・ストーリー4』、スタジオライカの『Missing Link』など米国メジャースタジオのビッグタイトルが並ぶ。一方で、インデペンデント長編アニメーション作品賞には日本アニメの3本、『天気の子』『若おかみは小学生!』『プロメア』などがノミネートされている。

参考:【ネタバレあり】前作から驚くべき進歩を果たした『アナと雪の女王2』、そのすごさを徹底解説

 本賞で作品賞を受賞した作品は、これまでも高い確率でアカデミー長編アニメーション賞も受賞しており、アカデミー賞レースの前哨戦としても重要と位置づけられている。

 メインの作品賞候補に関しては、例年通りハリウッドメジャーの強さが目立つが、全部門のノミネートを見渡してみると、今年は顕著な変化が起きていることに気がつく。それはNetflixの躍進だ。総ノミネート数でディズニーを超えており、大変大きな勢力となっていることが伺える。

 本稿では、今年のアニー賞ノミネートから見る2019年のアニメーションのトレンドと日本勢の可能性について論じてみたい。

・アニー賞の特徴と選考基準
 アニー賞とは、国際アニメーション映画協会(ASIFA)が主催するアニメーションとそのスタッフのための賞だ。国際アニメーション映画協会は、世界各地に支部を持っており、アヌシーや広島のアニメーション映画祭など世界の映画祭とも関わりが深い組織だ。アニー賞を選考しているのは、その支部の一つ、ASIFAハリウッドだ。アメリカにはハリウッドのほか、中央、東、アトランタと4つの支部があるのだが、ハリウッド支部はその中でも最大手の存在だ。ボードメンバー(参考:https://www.asifa-hollywood.org/about-us/board-of-directors/)には当然だが、ハリウッドメジャースタジオに関わりの深い人物が多く顔を揃えている。アメリカのアカデミー賞も元々、アメリカ映画人によるアメリカ映画人のための映画賞だが、アニー賞もまたアメリカのアニメーション業界人によるアメリカのアニメーション業界の賞という側面が強い。アヌシーなどの国際映画祭とは性質が異なる。

 選考資格は、その年にアメリカで公開、もしくは放送、配信開始された作品が対象となっている。日本では昨年の公開だった『若おかみは小学生!』がノミネートしているのは、アメリカでは今年劇場公開されたからだ。

 アニー賞の長編作品賞は、メインの作品賞とインデペンデント長編部門が設けられている。インデペンデント部門は封切り時のスクリーン数が1000以下の作品を対象とし(参考:https://annieawards.org/rules-and-categories/production-categories/best-indie-feature)、通常の長編部門はそれ以上の規模で公開された作品を対象としている。日本勢の作品が軒並みインデペンデント部門に入れられているのはこの基準のためだ。アメリカにおいて、1000スクリーン以上の規模で公開される外国映画は極めて少ない。したがって、事実上、メインの長編部門はハリウッドメジャーのための部門、それ以外の作品がインデペンデント部門という形となっている。インデペンデント部門は2015年に新設されたのだが、これによって外国の秀作が日の目を見やすくなった一方、ハリウッドメジャー以外の作品が長編部門に挑戦することが難しくなっている。2014年以前は、宮崎駿の『千と千尋の神隠し』やイギリスのアードマンスタジオのクレイアニメーション『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』が作品賞を受賞したこともあるが、2015年以降、メイン長編部門の全ノミネート作品がハリウッドメジャーの作品となっている。

 今年から、この2つの長編作品部門にネット配信作品にもノミネート資格が与えられた。その変化はメイン長編部門に『クロース』、インデペンデント部門に『失くした体』のノミネートという形で早速表れている。ネット配信作品はスクリーン数で分けることができないので、エントリーする側がどちらに挑戦するか決めるという形になっている(一応、主催側が移動させる権限は持っている)。フランス製のアーティスティックな『失くした体』がインデペンデント部門で、バジェットの大きな『クロース』をメイン長編部門に配したのは、近年のアニー賞の傾向を如実に反映していると言える。

・ノミネート数でNetflixがディズニーを超えた
 長編作品の2部門に作品を送り込んだNetflixだが、TV部門に目を向けると大躍進と言っていい。

 TV部門の作品賞は、一般向け、子供向け、幼児向けの3つに別れている。一般向けのノミネート5作品中、3本がNetflix関連の作品、さらに幼児向け部門でも1作品、子供向け部門にも、ドリームワークス制作でNetflix独占配信の作品が1作品ノミネートを果たしており、3部門15作品のうち、Netflix作品が3分の1を占めている。監督賞などの各部門賞にも数多く顔を出しており、Netflixの関わった作品のノミネート数はディズニーの28を超え、37に達している(https://www.cartoonbrew.com/awards/analysis-netflix-overtakes-disney-in-2019-annie-award-nominations-183251.html)。

 今年のアメリカの映画賞レースは、アニメーションに限らずNetflix関連作品が猛威を振るっている。『アイリッシュマン』『マリッジストーリー』『2人のローマ教皇』などが各映画賞を賑わせており、アカデミー賞にも絡んでくると目されている。昨年『ローマ』のアカデミー賞ノミネートは大きな議論が起こしたが、今年のNetflixの勢いは昨年を上回っており、その波がアニメーション業界にも押し寄せているということだろう。

・日本勢の受賞可能性は?
 さて、日本の映画・アニメファンにとって気になるのは日本勢の受賞の可能性だろう。インデペンデント長編部門では、前述の通り『天気の子』『若おかみは小学生!』『プロメア』の3本がノミネートされている。その他、TV部門監督賞候補として『ULTRAMAN』の神山健治/荒牧伸志両監督、『リラックマとカオルさん』の小林雅仁監督が選出され、TV・ストーリーボード部門で『キャロル&チューズデイ』の渡辺信一郎監督がノミネート、ベストキャラクターアニメーションビデオゲーム部門ではスクエア・エニックスの『キングダム ハーツIII』の名前もある。

 日本勢で最も賞に近いのは、インデペンデント作品賞以外に監督賞と脚本賞、FX賞(元・視覚効果賞)の4部門にノミネートしている新海誠監督の『天気の子』だろうか。各部門それぞれ強敵が立ちはだかるが、北米市場で影響力の強いトロント国際映画祭に出品されたこともあって、チャンスはあるだろう。

 インデペンデント長編部門で日本勢の最大のライバルとなるのは、『失くした体』だろう。カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリとアヌシー国際アニメーション映画祭最高賞を受賞したこの作品は、今年のアニメーション賞レースの最大の目玉と言っていい存在だ。

 今回の日本勢のノミネーションで特筆すべきは、映画部門よりもTV部門かもしれない。映画作品に関しては、これまでもスタジオ・ジブリや細田守監督や原恵一監督などがノミネート・受賞を果たしてきた実績はあるが、日本のTV作品がノミネートされることは珍しい。TV部門でノミネートを果たした3作品に共通するのは、いずれもNetflixで配信されているということ。Netflixの躍進が日本アニメにも恩恵をもたらしたと言えるのかも知れない。

 今年のアニー賞の授賞式は現地時間の1月25日(土)。日本勢の活躍も気になるところだが、受賞結果でもNetflixがリードすることになるかどうか注目だ。その結果いかんでは、今後の米国アニメーション業界の勢力地図が塗り替わるきっかけとなるかもしれない。 (文=杉本穂高)

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