佐々木俊尚 テクノロジー時代のエンタテインメント
Google大規模障害をきっかけに考える、テクノロジーの時代に不可欠なSF的想像力
毎月連載
第31回
“「時代が星新一に追いついた」Google大規模障害に星新一のショートショートを連想する人々”というTogetterのまとめが話題になっていた。12月14日にグーグルで世界的な障害が起こり、Gメールやグーグルカレンダー、グーグルドライブなど各種のサービスが使えなくなったことを受けての話である。
人によって使っているサービスに違いはあるだろうが、現代の私たちはこれらのクラウドのサービスに依拠して生きている。障害が起きれば、仕事のみならず生活までストップしてしまう可能性がある。上記のまとめには、グーグルの障害で「さっきまで話していた友人が急に喋らなくなり、グーグルがサービスを提供している個体だと判明」「障害のあいだの記憶がすっぽり抜け落ちていて、自分がグーグル上で運用されてるのに気づいた」とか、もはや笑うに笑えない想像力が展開されていた。
中には、グーグルホームというグーグルの家電制御サービスが使えなくなったことで、真冬だというのにエアコンのスイッチが入れられなくなったという実話も紹介されていた。そういえばしばらく前、アマゾンのクラウドを利用した玄関鍵の解錠サービスがクラウドの障害で使えなくなり、自宅に入れなくなったというケースもあった。まさに私たちはクラウドに依存して生きている。
テクノロジーの“その次”をどのくらいイメージできるか
大正生まれの作家星新一がショートショートを量産していたのはおもに1960〜70年代で、まだインターネットの存在など社会にまったく認知されていなかった時代に、このようなクラウド的なテクノロジーを半世紀以上も前にイメージしていたのはさすがである。
未来のテクノロジーを予測するのは難しい。たとえばSF映画の傑作として名高い『ブレードランナー』(1982年)には、ハリソン・フォード演じる主人公デッカード刑事が、有線の公衆電話でテレビ通話するシーンが出てくる。ワイヤレス通信とスマートフォンが当たり前になる21世紀を、1982年の時点ではまだイメージできなかったのだ。
2018年に、フランス陸軍はSF作家4〜5人を雇用して、今後の戦争の可能性をイメージするシナリオ作りに着手したという報道があった。ドローンやAI、完全自動運転車など前世紀には夢物語だったテクノロジーが次々と実用化されていくなかで、“その次”をイメージするのは非常に難しい。そこで奔放な作家の想像力が必要になってくるということなのだろう。
また米国では、サイフューチャー(SciFutures)という企業が100人ほどのSF作家と提携し、企業向けにオーダーメイドのSFを書くというビジネスを展開している。VISAやフォード、ペプシコなど大企業と契約したことで話題になっている。
自社製品をささえる技術だけでなく、企業がターゲットとする市場の環境もテクノロジーによって変化していく。“その次”をどのぐらいイメージできるかが、企業の長い戦略にとってはとても重要になってきている。
振り返ればSFという分野は、1950年代ぐらいまでは子供向けの読み物扱いされ、「SFは文学か否か」なんていう論争もあったほどだった。しかし21世紀というテクノロジーの時代に、SF的な想像力は文学のみならずこのリアル世界にとってももはや不可欠なものになりつつあるということなのだろう。
今後、テクノロジーとSF的想像力がどのように連携していくのか。それを想像すること自体が、もはやSF的な新しい時代に突入しているということなのかもしれない。
プロフィール
佐々木俊尚(ささき・としなお)
1961年生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部政治学科中退後、1988年毎日新聞社入社。その後、月刊アスキー編集部を経て、フリージャーナリストとして活躍。ITから政治・経済・社会・文化・食まで、幅広いジャンルで執筆活動を続けている。近著は『時間とテクノロジー』(光文社)。