本が昔のように売れなくなったと言われて久しい。でも、僕はレコードも本も大好きで、古本屋も含めて好きな本屋が何軒もある。だから、美しく刺激的な本づくりで多くの読者を魅了し、作家たちからも愛されてきた稀代の装填家、菊地信義の仕事を通して“本をつくること”を見つめたドキュメンタリー『つつんで、ひらいて』はエンドマークが出た時に拍手をしてしまいたくなるくらいに魅力的な作品だった。 監督は、是枝裕和、西川美和率いる映像クリエイター集団「分福」に籍を置き、柳楽優弥主演の劇映画『夜明け』(2019年)で鮮烈なデビューを果たした広瀬奈々子。滅びゆく手仕事と、デザイン、印刷、製本に至る工程までを丁寧に綴っている。1万5千冊もの本を装った男が最後には“魔術師”の様に見えてきた。