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本日休演はもう“京都のバンド”ではない 岩出拓十郎が明かす、レコーディングや歌への意識の変化

リアルサウンド

21/2/20(土) 16:00

 「今、魅力的なロックをやるならここに到達しないといけない」というところに気づき、そこを見事に実践したアルバム。本日休演の通算4作目となる『MOOD』は、そういう意味でも彼らの過去最高傑作であり、現代のロックアルバムの最高峰と言っていい。『MOOD』は全10曲を収録。リーダーの岩出拓十郎の鼻にかかった低く倦怠感のある歌とサイケデリック風味ある金属的でヨレたギターは初期から変わらない。だが、なぜここでこういう音が必要なのか、なぜこの曲にこのリフがのっかるのか、こうしたリズムはなぜそこに求められているのか……といった必然をしっかり理解した上で鳴らされている。偶発的にラフで荒削りな音が出たわけではなく、意識的にそれを作り上げただけでもなく、音そのものが意志を持ったように蠢いているというべきか。岩出のボーカルもギターも、有泉慧の何かを呟いているようなベースラインも、樋口拓美の重いのに乾いたドラムも、そういう意味ではフィジカルなグルーブを抽出しているのに決してエゴイスティックでも能動的でもない。かといって洗練されているのにニヒルでもなく。

 キーボードの林祐輔、サックスの安藤暁彦らが曲によって参加。さらにギリシャラブの中津陽菜、岩出にとってラブワンダーランドでの盟友でもある「ひでおasa桜井」という2人の女性コーラスも力を貸しているが、いずれも感情を極力排したような無表情な声や演奏が不気味なニュアンスを伝えていて面白い。でも、掴みどころはないけど確実にいる、というような存在の必然がどの曲にもある。これは東京のスタジオ「PEACE MUSIC」で中村宗一郎と録音からしっかり組んでいった最大の結果と言えるだろう。

 今回はこの『MOOD』と同時に、ライブアルバム『LIVE 2015-2019』も発売となる。こちらは、彼らが京都で活動していた時代のライブ音源をピックアップしてまとめたもので、1stアルバムに収録されている「ごめんよのうた」「すきま風の踊り子」もあれば、ライブで盛り上がるレゲエソング「けむをまこう」や、変拍子でイビツに進行していく「アラブのクエスチョン」など定番曲もある。今のステージではほぼ取り上げなくなった「ごめんよのうた」は、今は亡きキーボードの埜口敏博や現在は脱退したギターの佐藤拓朗が在籍していた5人時代の貴重な演奏だ。

 本日休演はもう「京都のバンド」ではない。実際、今やメンバ一のひとりは東京、ひとりは大阪、ひとりは滋賀在住。京都大学の現役学生同士で結成され、2010年代の京都の音楽(バンド)シーンを象徴するような存在だった本日休演は、京都から“卒業”しようとしている。ニューアルバム『MOOD』はそんな節目を伝える象徴的な作品でもあるのだろう。岩出拓十郎に話を聞いた。(岡村詩野)

肉体的なグルーブともっと向き合おうという方向性に

ーー京都を離れ、出身地である東京に戻ってもうどれくらいになりますか?

岩出拓十郎(以下、岩出):去年夏に戻ったので、6カ月くらいですね。でも、東京に戻ったら生活のリズムが変わりました。毎日朝起きて……。前は朝起きてなかったんで(笑)。

ーーどうして東京に戻ることになったのでしょうか。

岩出:去年の夏、今回のアルバムのレコーディングを東京ですることになったので。本当は一昨年(2019年)の年末から少しずつ作業は始めていたんですが、去年の2月頃からコロナの影響で延期になって、結局7月くらいから本格的に始めることになったんです。で、もうそのまま東京に戻ろうかなと。ずっと京都にいるのもどうかなあと思ってはいたんですよ。サークルの部室をずっと使い続けてて老害みたいにもなってたし(笑)、“京都のバンド”としてずっと括られるのもなんだかな……と思っていて。京都って狭くて活動の場所も限られるし、身内感も醸成されるし、限界ある感じを前々から思っていたので、(環境を)変えてみたら変わりそうな気もしていて。

ーー京都の限界ってどういうところに感じましたか?

岩出:お世話になったライブハウスとかもたくさんあるし、いい場所も多いです。ただラ イブやっても知り合いしか来なかったり、身内で批評し合ったり……それ自体は悪いことではないと思うんですが、油断するとその界隈の中だけで回っている感じになっていく。そこから一度抜け出してみたかったのは大きいかもしれません。そうやって身内だけでいろいろ試していく中で、自分たちの指針とかやりたいことを見つけられたので、京都で活動していたことはとても良かったとは思っています。あんまり周りのこととかを考えずにふざけることができたというか。演劇的だったりメタ的だったり、少しお笑いみたいなパフォーマンスとかもやっていましたし。

ーー確かに初期の頃はギミックのあるパフォーマンスをよくやっていましたよね。ベースの有泉くんが指揮者的な役割をしたり、暗黒舞踏を取り入れたり。

岩出:そう。そういうのは東京で知り合いができて、いろいろ影響を受けたり……っていう環境ではきっとできなかったと思います。でも、もうそういうメタ感が急に恥ずかしくなって。その代わりにより肉体的なグルーブにもっとちゃんと向き合おうという方向性になっていった。もともと日本的な表拍のノリみたいなリズムがなんか可笑しくて、みんなで茶化して演奏してたりしたんですが、演劇的に茶化すより、そのリズム自体の豊かさみたいな部分に注目していったみたいなことでしょうか。表拍で手拍子してパラパラずれていくみたいなノリの方が、タテ割りのメトロノームみたいなノリよりも、体にとって自然だし気持ちいいと思ったんです。そこにヒップホップや北アフリカのリズムの影響が入って、結果としてカチッとしない豊かなグルーブみたいなものを追求するきっかけになりました。

 ただ、例えば初期のライブでやっていた「青空列車」なんかは、「パソコンで切り刻んだような音楽を生でやってみよう」みたいなイメージで編曲されて、どうせ生でやるならその場で切り刻もうということになったんです。でも覚えるのはダルいから、その場で有泉が指揮を振ってそれに合わせて全員がどこをループするのか即興でやったという感じでした。メタ演劇路線ではあったんですが、あの曲にはあの曲のグルーブがあって、わざと拍と違うところでループしたりとか、メタ的感覚が今のリズム感覚にも生きてるとは思います。

ーー今思うと、あの曲あたりが起点になったのかなという気もします。ギミックを取り込んだメタ的な手法と快楽ありきのフィジカルな演奏との境目というか接合地点というか。そこから徐々に進化していって。

岩出:そうですね。やっとスタートラインに立てたというか。ライブはずっとそういう形でやっていたんですけど、アルバムではできていなかったんで、ようやくそこに起点を置いて作ることができたかなって思います。実は、東京に戻ってきたもう一つの理由として、実家に帰りたかったというのもあります。今はその実家にいるんですけど、祖母が亡くなって倉庫になっていた部屋があったので、機材を置いて録音部屋として使っています。

PEACE MUSICの録音で変化した“機材や歌への意識”

ーーいろいろなタイミングが重なったということですね。一度は戻ったギターの佐藤拓朗くんが再び離れ、鍵盤の埜口敏博くんが亡くなり……と流動が激しい中で徐々にメンバーが3人に絞られていったのも無関係じゃなかった?

岩出:それはありますね。サポートでギターをもう1本入れたり、キーボードを入れたりい ろいろ試したりしていたんですが、あまり掴めない状態が続いていて。たしか2019年9月、鈴木博文さん(ムーンライダーズ)のライブを京都で一緒にやった時、僕らこの3人で出たんですが、それが案外上手くいって。もうこれでいいじゃんという感じになりました。上モノみたいな楽器って、要らないと言えば要らない。ドラムとベースだけでも全然いいと思える瞬間もあるし、そこで自分がふとギターを弾くと、逆にすごい存在感が出るなと。

ーーギター1本でのトリオアンサンブルで成立するような曲が生まれていたということでもあるのですか?

岩出:いや、そこはあんまり関係ないかな。もともとギター2本を視野に入れて曲を作っていたわけじゃなかったし、僕のリズムギターはリードにもなるかなって考えたりしていたし。ただ、ヨレたりジャカジャカさせたりするギターをそのままリードにすればいいかなっていう感覚は、徐々に芽生えてきていました。

ーーなるほど。メンバーが変わる中で、アンサンブルのあり方そのものを捉え直すような意識になってきていたと。

岩出:そうです。それはドラムとかに対してもそうで、今回もバスドラを一切入れない曲もあったんですよね。「線路」とかはバスドラをキットから外して完全にナシにして、「全然、静かなまま」とかはバスドラを立てて、The Velvet Undergroundみたいにしました。ただ、そういうのもプリプロを中村(宗一郎)さんと一緒に作業したのを経たからこそ出てきたアイデアでしたね。

須藤朋寿(本日休演スタッフ):岩出くんの頭の中にある音のイメージを具現化することが結構大変で、そこに時間をかけた感じでしたね。だから、ドラムのセッティングだけで丸1日とか2日とか平気でかけました。僕としてはまず録り音を変えたいってことを(中村)宗一郎さんと考えていて。これまでは限られた録音機材と環境の中でまずは録って、ミックスで音を変形させていくようなやり方だったと思うんです。でも、そうじゃなくて、録り音から変えていこうというのをまず今回は考えてみたかった。録音段階で曲ごとのキャラクターや思い描いている音を考えて、追い込んでみるというか。そこがPEACE MUSICでやった狙いの一つでした。

岩出:そうですね。中村さんと須藤さんが録り音のアドバイスをしてくれて。でも、中村さんには本当にいろいろと言われましたよ。「この曲、何がしたいの?」って、もうそれしか言われてないような感じ(笑)。ただ、そこまで一緒に音作りを考えてくれる人もいなかったので、すごくありがたかったですね。

本日休演”天使の沈黙”(Official Music Video)

須藤:ギターのアンプ、はじめ岩出くんはJCを使いたがってたんですけど、それがまた「部室のぶっ壊れたJCの音がいいんです」って言うから、わざわざ京大軽音からそれを借りて持ってきて(笑)。ところが、それをスタジオで繋いで音出してみたらノイズがすごくて、録音には全然使えない。実際に「壊れた機材を使った音」じゃなくて、「壊れた“ような”音がいいんだよね?」ということになって。そこからPEACE MUSICの機材をお借りしながら音作りをみんなで試行錯誤していきました。

岩出:楽器や機材の使い方、そもそもどう違うのか今まで全然わかってなかったところを ちゃんと知ることができました。「何もない日」という曲では有泉がベースも替えたんですよ。SGベースにしたらシンセベースのようなモワッとした音になって印象が全然違ってきた。樋口のドラムも、スプラッシュシンバルをスネアに置いたら、ヒップホップのクラップや硬質なスネアのような音になって。僕もグレッチのギターを借りてみたらやっぱり音色が全然違う印象になった。そうやって試したらノリも変わるし、演奏自体も変わる、フィーリングも変わっていったんですよ。機材で演奏も変わる、曲のニュアンスも変わるってことを知った感じでしたね。ただ、機材もすごく勉強になったんですけど、やっぱり一番は歌ですね。仮歌を録ってる時、かなりまずい雰囲気になりかけて(笑)。

ーー岩出くんのボーカルはブレてるというか揺らいでるのが基本ですからね。

岩出:それでいけるんだろうと思ってほぼ練習しないで行ったら、全然ダメでした。須藤さんが「坂本(慎太郎)さんは、岩出くんと歌のニュアンスが近からずも遠からずという感じもしますけど、ボーカル録りとかどうやってるんですか?」って中村さんに聞いてみたら、「全然違うよ!」とか言われて(笑)。

ーー岩出くんのボーカルスタイルって、ぶわーって滑らかに音が移っていく、演奏記号で言えばスラーのような歌い方ですよね。ある種、音階の移り変わりを無視したような。

岩出:そういう風には多少意識的に歌ってきましたが、でももっと抑えるところを抑えないと聴かせられないなというところに気づきましたね。やっぱり悔しくなったので、まずチューナーを使って音程をとる練習からして、ブレスの位置とか歌の一息のラインがどう一続きのメロディになるのかというところを意識して、ちゃんと歌詞カードに書きました。発声自体が全然できてないと言われて、口を開いて歌うことの意味とか、そういうのも考えさせられました。真面目に練習したおかげで、録りはうまくいきましたね。

ーーその結果、バリエーション豊富な曲が一つ一つ際立って聴こえますね。でも、同じトーンで統一されているから、そこまでバラエティ豊かな曲が並ぶ作品という感じもしない。少なくとも私は前作(『アイラブユー』)より遥かにワントーンでコーディネイトされた作品だなと思いました。

岩出:確かに今まではいろいろと音をたくさん入れてゴチャゴチャさせていたから、そろそろ芯の通ったずっと同じトーンの音のアルバムを作りたいなという話はしていました。シンプルにして、キーボードも今回は林(祐輔)くんに少しだけ参加してもらったり、樋口が少し弾くだけにして、あまり入れすぎないように。鍵盤はじめ、全体的に音数は絞りました。

女性コーラスと歌詞の結びつき

ーーサウンド面で大きな効果が感じられるのは女性の声だと思うんです。中津さんと桜井さん。二人とも、感情を極力押し殺したような無表情なボーカル・コーラスで、特有の白痴美のような印象を加えてくれてますね。

岩出:ゆらゆら帝国の『ゆらゆら帝国のめまい』が好きで、ああいう女性コーラスのイメージがありました。特に中津さんの声って近い感じがしたし、「夏の日」とか自分が歌う感じ じゃないなと思える曲もあったのでお願いしました。「ウソの旅」もデュエットだったら意味深になって面白いかなって。

ーー実は前から感じていたことなんですが、岩出くんのボーカル表現ってかなりユニセクシュアルではないかって思うんですよ。男でも女でもない、どこの誰かもわからない。でも表情に乏しいというより、むしろ何かが蠢いている印象が強い。生物的な生命力がある。

岩出:キーが高くて自分では歌えない曲を作って、キーを下げるよりも女性に歌ってもらった方が良さそうだなという時が結構あって。ラブワンダーランドはその発想がもともとありました。知らない女性が出てくる感じって匿名感があって、ちょっと“黒い”というか、民族音楽的なイメージとも繋がる。PUFFYとかもそうだけど、ダブルの女性ボーカルのそういう不思議な感じが好きなんです。あと、よく聴いてたラヴァーズ・ロックのコンピレーショ ンの影響もあります。Love JoysとかFamily Loveが好きでした。

ーーそういう指向性は、岩出くんの持っている素地のどういった側面を象徴していると思いますか?

岩出:うーん……童謡っぽい曲ってところですかね。俺、基本的にメロディを簡潔にしたいんですよ。譜割を細かくしないで太くしたい。そういうところが、匿名的で感情のあまりない女性コーラスと相性がいいのかなって思いますね。もともと自分が書く上では男性的な歌詞が好きじゃないというか。どういうものが男性的な歌詞なのかはわからないですけど、「俺が〜」みたいな歌詞をあまり書かないですね。

ーーホモソーシャルな歌詞ではない。

岩出:中学、高校と男子校だったし、ホモソーシャルな環境にずっといたんですけどね。た だ仲の良い友人たちだけでの閉じたホモソーシャル的な環境では、相手の考えていることは別にあまり話さなくてもわかるという感じになり、むしろ一人称はなくなっていくこともあるような気がします。歌詞でそれが現れているかは自分ではわかりませんが、意識としてはあります。「夏の日」はラブワンダーランド「永い昼」の延長線上にある曲で、「永い昼」と同じく埜口の死の景色が一つのモチーフなんですが、もはやそれだけじゃない曲になってきていて、葬いモードからは抜け出して、もっと内在化したというか。「埜口ならどう言うだろう?」「こんなことしたら埜口は怒らないだろうか?」みたいなこととか、そういうことが心の中でわかる気がする。人の死を受け入れるっていうのはそういうことかもしれません。今回のアルバムは、埜口はもとより、佐藤(拓朗)すらいないですから。

ーー結成時のメンバーは岩出くんと有泉くんだけになった。

岩出:でも、今朝、佐藤が夢に出てきましたけどね(笑)。みんなで練習してて、なぜかThe Beatlesのコピーをみんなでやってて、「ああ、楽しかったな」って感じ。そういう夢を見るってことはどこか寂しいのかもしれないですけど、前とは違った形でやっていっているので、それを頑張っていきたいですね。東京に戻ってきたのも一つの節目で。そろそろ有泉や樋口にも何か曲作りに関わってほしいんですけど、どうも守りに入っている感じがして(笑)。やっぱり自分だけ1人で作ってるのは寂しいというのもある。最近はリフを一人3つ作ってくるっていうのをお題にしてますね。新曲にするための断片になればと思って。

ーー今回のアルバムは100%岩出くんの引き出しですか?

岩出:曲はそうですね。「ロンリネス」の歌詞の一節は、河内宙夢くん(京都在住のシンガーソングライター。岩出はアルバム『河内宙夢&イマジナリーフレンズ』をバックアップ、プロデュースしている)が手伝ってくれました。去年の春から夏前にかけて、まだ東京に戻る前ですけど、一時期京都の河内くんの家に居候してて。コロナもあってどこにも出られずだったから、いろんなことを話して深い部分を共有できたりしました。

ーー確かにこれまでの作品の中で、最も密室感のある、ライブとはストレートに直結しない作品でもあります。

岩出:ああ、ある意味ではそうですね。音色なんかは密室感があるかもしれないです。 「アレルギー」の7インチシングルのバージョンでは打ち込みの音を使ったんですけど、あれは実際は打ち込みというか樋口が手でパッドを打って、ギターとベースも一緒に録りました。

「過去の自分たちからも学ぶということ」

ーーそういう意味では、ライブアルバムも同時に出すことはとても辻褄が合う。「2枚合わせて本日休演」というような、互いに補完するような関係の2枚になっていて。

岩出:そうですね。ライブバンドというのは自負していたので、ずっとライブ盤を出したいと思っていたんですよ。で、メンバーがこの3人になった一区切りとして出したいなと。ただそれだけじゃなく、改めて昔のライブ音源を聴いてみると、これからやりたいことや何かのヒントがたくさん含まれていると気づきましたね。過去の演奏のこういうところがいいから、フィジカルな部分を自分たちで再認識して、スタジオワークでもできるようにしたいというか。最初から演奏を構築してできたものというより、自分たちのフィジカルな演奏の特徴がむしろ曲のポップなフックになっていて、もっとこれからもそういう部分は意識的に発展させていけるなと思いましたし、そういうフィジカルとポップのバランスという部分に自分たちのルーツも現れている気がして、改めて得るものがありました。

ーー「ごめんよのうた」はこの中では最も古いライブ音源ですね。2015年、京都VOXhallでのイベントに出た時のものです。

岩出:これね、途中の部分を当時結構サラっとやっちゃってて。今だともっと引っ張ったりすると思うんですけど、こうして聴くとむしろ自然でいいなって思ったりするんですよね。

ーー引っ張らないけど、淡白でもない。間(ま)を生かした演奏ですよね。

岩出:そうです。「ごめんよのうた」のソロとか、まさに間があって。そういうのがライブ盤では如実に出てるから、そこを生かしたり、逆のことをしてみたり……。いろいろととっかかりになりそうな発見がありますね。ただ、このライブ盤は今回の『MOOD』と並行して作業していたので、まだ新作の方には反映されてないんですけど、次のアルバムには生かされるかもしれないなって思います。

ーー私はこのライブアルバムの演奏をすべて生で観ているんですけど……。

岩出:大ファンじゃないですか(笑)。

ーーそうですよ。その上で感じたのは、スタジオとライブ、そして岩出くんが最初に頭で描いている、言わばデモ段階の3つの関係性の深さなんですね。その3つの関係性がかなりはっきりと干渉し合って、作品完成へと導いているバンドだなということなんです。それらが確実に遠因関係にあることを証明するのが「アレルギー」という曲で。実際、「アレルギー」は今回出す3種類の作品(アルバム『MOOD』、ライブ盤『LIVE 2015-2019』、7インチシングル『アレルギー』)のすべてに入っているけど、どれもが全然違う。

岩出:なるほどね。一番最初のデモの時は7インチバージョンのような感じで、シンセが少し入ってて、ちょっとプリンスみたいな感じ。で、それをバンドでやってみたらポストパンクみたいになっていって、『MOOD』のバージョンに落ち着いた。その途中段階のライブ盤ではデモの音源を再現しようとして、何も考えないでやってライブで荒ぶってポストパンク的になっていく過程。7インチではポストパンクみたいな感じではなく、最初のデモをイメージした感じにしようとしてて……そんな関係性がありますね。まあ、あの曲自体は「山本精一がプリンスやってる」みたいなイメージで作りましたけど(笑)。でも、確かにそのあたりの関係性を意識的に考えながら曲を完成させていきたい感じはありますね。昔の演奏やデモから得られるヒントも生かしながら次に繋げていきたいです。過去の自分たちに学ぶ部分はたくさんある、ということですね。

■作品情報
本日休演『MOOD』
2021年2月10日(水)リリース/¥2,200+税
<収録曲>
01.ウソの旅
02.アレルギー
03.何もない日
04.Hey Baby Love
05.線路
06.全然、静かなまま
07.砂男のテーマ -Midnight Desert Surfin’-
08.ロンリネス
09.天使の沈黙
10.夏の日

本日休演『LIVE 2015-2019』
2021年2月10日(水)リリース/¥1,400+税
<収録曲>
01.アラブのクエスチョン
02.アレルギー
03.秘密の扉
04.何もない日
05.けむをまこう
06.全てにさよなら
07.すきま風の踊り子
08.ごめんよのうた

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