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『天国と地獄』の今後の展開を左右する!? 柄本佑が“便利屋りっくん”で担う役割

リアルサウンド

21/3/7(日) 6:00

 謎が謎を呼び、先の読めない展開が続く『天国と地獄〜サイコな2人〜』(TBS系)において、“キーマン”ともいえるキャラクターを演じている柄本佑。彼は本作の核である綾瀬はるかと高橋一生による“入れ替わり劇”をより魅力的なものとし、物語に膨らみを与える役割を果たしていると思う。

 本作で柄本が演じているのは、刑事である望月(綾瀬はるか)の家に居候中のフリーター・陸。かつて、職務中にトラブルに巻き込まれている彼女を救出したことで出会った。そんな望月を自宅まで送り届けたところ、その部屋の散らかりっぷりからハウスキーパーとなり、いつの間にか居候の身となった存在だ。「便利屋りっくん」なるサイトを運営し、便利屋業を営んではいるものの、彼はいわば望月のヒモ。とはいえ、憎めない男である。金銭面は彼女に頼りきりであるのだが、甲斐甲斐しく家事全般を担う姿は愛らしい。

 この“憎めなさ”は陸という人物の持つキャラクター性に拠るところが大きかったが、それは物語中盤ぐらいまでのこと。彼が“入れ替わり”の事実を知り、「真実」に向かって物語も佳境に入りつつある現在、“癒し系のサブキャラ”は今後の展開を左右する重要な存在にまでなっている。そもそも、刑事モノであり犯罪モノでもある本作で、ヒロインのヒモにして“便利屋”というのはなんともユニークなポジションだ。陸と望月とのやり取りはいつだって愉快で、日高(身体は望月=綾瀬)とのやり取りにはヒヤヒヤ。安心感、緊張感、不安感、焦燥感……と、視聴者のなかにさまざまな感情を芽生えさせることが陸にはできる。こんな言い方は少しばかり不適切かもしれないが、このキャラクターの動かし方によっては喜劇も悲劇も生み出すことができるのだ。まさに“便利屋”。いまではさまざまな角度から、陸=柄本佑への注目が集まっているのである。

 そんな陸は、“入れ替わり”を知ってからというもの、望月の右腕的ポジションでもある。それまでの右腕といえば、溝端淳平演じる部下・八巻がいた(もちろんいまもだが)。八巻にしろ陸にしろ、片や部下で、もう一方はヒモ。当然といえば当然のことだが、望月との上下関係において彼女より下であり、両者ともに彼女から振り回されるキャラクターだ。どちらも望月との関係性において頭が上がらない立場には変わりないが、この二人の男の微妙な差異が面白い。八巻は刑事として奮闘する望月の背を一番近くで見ていた人物であり、陸は彼女の“素顔”をもっとも知っている人物。だからこそ、“入れ替わり”を知った二人の反応は違った。望月の不幸を思って涙する八巻にはこちらも涙を誘われたし、あっけらかんと受け入れる陸には笑ったものだ。ありえないような状況に理解を示そうとする八巻に対し、平然と受け入れる陸が“ありえない”。ところが、これをすんなり成立させてしまうのが柄本佑という俳優なのである。

 先述した“入れ替わり”を知る場面は、本作において非常に重要なものだ。受け手である柄本の演技の塩梅によっては、物語のリアリティも、喜劇と悲劇の比重も変わってしまう。しかしなにも、このシーンでの演技ばかりががカギになっていたわけではない。これをすんなり成立させるために、望月と陸とのそれまでの関係性を、多いとはいえないシーンのなかでいかに見せるかが重要であったように思う。そこでは陸の持つ“性質”も知ることができるわけだ。この一大事に巻き込まれる前までに、柄本が陸の飄々とした人物像を立ち上げていたからこそ、彼が対峙するその後の展開を私たちは納得して受け入れられたのである。

 現在、“陸と日高(身体は望月=綾瀬)”、“陸と望月(身体は日高=高橋)”の組み合わせがぐるぐると展開中。“男女の関係”と“男同士のバディもの”とが交錯し、こちらの頭もぐるぐるしてくる。綾瀬、高橋の中身が入れ替わった演技の成立には、その受け手である柄本の演技の柔軟性が大きく貢献していることは間違いないだろう。演技とは、上手いアクション(発信)だけでなく、上手いリアクション(受信)があってこそのものなのだ。

 望月のため、単身危険も冒しつつある陸。彼は同じ右腕である八巻以上に“アナザーストーリー”を展開させている。柄本を主演に「スピンオフ」をやったら面白そう。とまれ、警察である八巻の陰での活躍には限界がある。これからの展開は、“便利屋りっくん”にかかっていそうだ。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
TBS系にて、 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹、吉見一豊、馬場徹、谷恭輔、岸井ゆきの、木場勝己、北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
製作著作:TBS
(c)TBS

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