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でんぱ組.incがベスト盤で提示した、グループとしての“更新” 「WWDBEST」楽曲&MVから考察

リアルサウンド

16/12/19(月) 14:00

 2016年12月21日に発売されるでんぱ組.incのベスト・アルバム『WWDBEST ~電波良好!~』に収録される新曲「WWDBEST」は、でんぱ組.incのひとつの到達点だ。作詞は、前山田健一、畑亜貴、meg rock、かせきさいだぁ、只野菜摘、NOBE。そして作曲には、玉屋2060%(Wienners)、浅野尚志、釣俊輔、Tom-H@ck、小池雅也が名を連ねている。総勢11人によって制作された楽曲など破綻してもおかしくないはずなのに、ごくナチュラルに聴けて驚いた。これはどういうことなのだろうか。

 しかも「WWDBEST」のMVも、これまででんぱ組.incのMVを手掛けてきた志賀匠、スミス、田辺秀伸、鶴岡雅浩、BOZO&YGQ、山崎連基による合作だ。古川未鈴は志賀匠、相沢梨紗は鶴岡雅浩、夢眠ねむは田辺秀伸、成瀬瑛美は山崎連基、最上もがはスミス、藤咲彩音はBOZO&YGQが担当している。6人のメンバーそれぞれに6組の監督がいるわけだ。

 「WWDBEST」のMVには、過去のでんぱ組.incのMVのセルフ・オマージュや、過去の衣装が多数登場している。その中でもまずうなったのは40秒頃。でんぱ組.incの最新シングル「最Ψ最好調!」のMVの藤咲彩音のシーンを、彼女自身が見ている部分だ。「最Ψ最好調!」のそのシーン自体が、藤咲彩音の加入時を元ネタとしているので、それを藤咲彩音が見ているというのは複雑なメタ構造だ。1分30秒頃からは、ステージで踊るメンバーの前を、過去の衣装を着たメンバーたちが走っていく。3分35秒頃からヲタ芸のシーンが始まるのは、秋葉原ディアステージから生まれたでんぱ組.incらしい。

 かと思えば、2分10秒過ぎでは成瀬瑛美が「yesterday」と「tomorrow」を両手で合体させている。これは気のせいでなければピコ太郎の「PPAP」ネタ……。旬なネタである。

 視覚的な情報量が異常に多いのだが、単にでんぱ組.incの歴史を振り返っているだけではなく、メンバーそれぞれの現在の魅力を切り取ることにも成功しているMVだ。

でんぱ組.inc「WWDBEST」MV Full

 そして、『WWDBEST ~電波良好!~』は実に3枚組。さすがに身構えつつ聴いたのだが、懐かしい楽曲や、あまりなじみがないものの良さを発見できる楽曲、そして最近までの楽曲が並び、あっという間に最後の最後の「WWDBEST」になってしまった。

 「でんぱ組.inc」と聞いて、どんな音楽をイメージするかは人それぞれだろう。ある人が思い浮かべるのは、情報を圧縮したかのようなメロディーとサウンドがイントロ、Aメロ、Bメロと続き、一気に開放感のあるサビへと展開していく「でんぱれーどJAPAN」のような楽曲かもしれない。

 またある人が思い浮かべるのは、「冬へと走りだすお!」や「くちづけキボンヌ」のような渋谷系の系譜を受け継ぐ楽曲かもしれない。これらは、プロデューサーの「もふくちゃん」こと福嶋麻衣子の趣味の産物だった。渋谷系と言えば、小沢健二の「強い気持ち・強い愛」も、でんぱ組.incは自分たちのカラーに染めあげてカバーしていた。

 あるいは、「W.W.D」や「W.W.D II」のようなドラマテックな展開を聴かせる楽曲を思い浮かべる人もいるかもしれない。清竜人が作詞作曲編曲した、ミュージカル・ソングのような「Dear☆Stageへようこそ♡」もそこに分類できそうだ。

 そうした楽曲群の一方で、でんぱ組.incには「檸檬色」のような普遍的なポップスもある。そして「WWDBEST」で真に驚いたのは、「WWDBEST」がそうした普遍性を志向しているように感じられたからだ。11人もの作家が参加した異常な楽曲なのに。

 「WWDBEST」の作家陣について触れていこう。前山田健一は、ももいろクローバー~ももいろクローバーZの楽曲を多く作詞作曲編曲したことで知られ、でんぱ組.incにも「W.W.D」や「W.W.D II」などを提供している。畑亜貴はアニソンの作詞で知られ、『らき☆すた』の「もってけ!セーラーふく」も彼女の作品だ。でんぱ組.incとは2010年の「Kiss+kissでおわらない」からの付き合いで、「でんでんぱっしょん」などの歌詞を提供している。meg rockは、中川翔子の「空色デイズ」などの作詞で知られる。でんぱ組.incには「キラキラチューン」などの歌詞を提供している。

 かせきさいだぁはラッパーであり、彼の1996年のアルバム『かせきさいだぁ≡』を聴いたときの衝撃は大きかった。そして、そのアルバムには「冬へと走り出そう」という楽曲が収録されていたのだ。かせきさいだぁは、でんぱ組.incに「冬へと走りだすお!」などを提供している。どこかで聞いた曲名だ。只野菜摘は、ももいろクローバー~ももいろクローバーZの作詞で知られる。でんぱ組.incには「ORANGE RIUM」などを提供している。NOBEは、Buono!の「初恋サイダー」の作詞家だ。でんぱ組.incには「ノットボッチ…夏」などを提供している。

 ここまでが作詞陣で、続いて作曲陣。玉屋2060%は、Wiennersのボーカル、ギターとしても活躍している。でんぱ組.incには「でんぱれーど JAPAN」「でんでんぱっしょん」「でんぱーりーナイト」「サクラあっぱれーしょん」などを提供している。重要曲が多い。浅野尚志は、チームしゃちほこなどにも多数の楽曲提供をしている。でんぱ組.incの「最Ψ最好調!」は、彼による作詞作曲編曲だ。釣俊輔については、Tomato n’ Pineの楽曲を多く編曲していたことを特筆したい。でんぱ組.incでは、「W.W.D II」などの編曲のほか、「あした地球がこなごなになっても」などを作曲している。

 Tom-H@ckは、『けいおん!』などアニメ関連の楽曲を多く手掛けてきたほか、最近では清竜人25の編曲でも活躍している。でんぱ組.incでは、「おつかれサマー!」などの編曲や、「破!to the Future」などの作編曲を手掛けている。そして小池雅也は、かつて桃井はることのユニット・UNDER17で活動していたミュージシャンだ。でんぱ組.incとは「Kiss+kissでおわらない」の作編曲からの付き合いで、「Future Diver」などの作曲もしていた。初期からでんぱ組.incに関わる彼が「WWDBEST」に参加したことは感慨深い。

 以上のような11人がどのように楽曲を作ったのか、詳細は明らかになっていない。しかし、いわば「とりまとめ役」であるアレンジャーをTom-H@ckが担当しているのは興味深い。作曲家5人が関わった楽曲をひとつの艶やかなメロディーにまとめあげているのだ。そして、ロックなバンド・サウンドとエレクトロニックなサウンドを混ぜつつ、ストリングスの音色も鮮やかである。Tom-H@ckの力量を感じさせるアレンジだ。

 そして「WWDBEST」では、イントロから過去の楽曲のフレーズが交錯している。しかし、前述したような過去の楽曲のいくつかのパターンのすべてを吸収しつつも、同時に「でんぱ組.inc」を更新しているのが「WWDBEST」なのだ。過剰にコケティッシュになることなく、自然なエモーショナルさが内在している。

 「WWDBEST」という楽曲を映像とあわせて聴いたときに感じるのは、やはりノスタルジーよりも新鮮さだ。しかも、それはポップスとしての普遍性を志向している。ベスト盤において仕掛けられたのは、「総括」というよりは「更新」なのだ。

 過去のでんぱ組.incを振り返ってセンチメンタルになるにはまだ早い。「WWDBEST」を繰り返し聴いていると、そんなことを言いたくなってしまうのだ。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

■リリース情報
『WWDBEST ~電波良好!~』
発売:2016年12月21日
CD3 枚組+DVD、64P 歌詞ブックレット
【初回限定盤】 ¥4,000(税抜)
(DVD) Music Video ※副音声コメンタリー付き
【通常盤】 ¥3,000(税抜)

■ライブ情報
『でんぱ組.inc 幕神アリーナツアー2017
電波良好Wi-Fi完備!』
【東京公演 : 幕張イベントホール】
2017年
1月6日(金)
1月8日(日)
1月9日(月 ・ 祝)
【神戸公演 : ワールド記念ホール】
1月14日(土)
1月15日(日)

『でんぱ組.inc 幕神アリーナツアー2017 in 日本武道館 ~またまたここから夢がはじまるよっ!~』
【追加公演 : 日本武道館】
1月20日(金)

■オフィシャルサイト
http://dempagumi.dearstage.com/

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