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川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』

『チャンス』の作家コジンスキーの話から…ヘプバーンとマクレーンの『噂の二人』…『白と黒のナイフ』『推定無罪』というサスペンスにつながりました。

隔週連載

第18回

19/2/19(火)

イラストレーション:高松啓二

 イェジー・コジンスキー原作、ピーター・セラーズ主演の『チャンス』(79年)の監督ハル・アシュビーは近年、日本でもカルト・ムービーになっている、ルース・ゴードン、バッド・コート主演の『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(71年)で知られる。
 もともとは、映画の編集者。その時代の代表作は、リリアン・ヘルマンの戯曲の映画化、ウィリアム・ワイラー監督の『噂の二人』(61年)だろう。
 オードリー・ヘプバーン、シャーリー・マクレーン演じる仲のいい二人の女性は、アメリカ東部で女の子のための寄宿制私立学校を経営している。
 ある時、心ない女生徒(カレン・バルキン)の悪意の嘘で、二人は同性愛者だと噂され、学校を閉じざるを得なくなる。
 女の子の話は結局、嘘だったと分かる。そこでめでたく終りと思いきや、ミステリ映画風に言えば大どんでん返しがある。
 二人きりになった時、シャーリー・マクレーンが思いつめた表情でオードリー・ヘプバーンに告白する。本当は、あの子供が言ったように、ずっとあなたのことが好きだった、と。まだ同性愛が社会で認められていなかった時代のこと、告白したシャーリー・マクレーンは罪の意識にとらわれ、打ちひしがれる。
 一方、オードリー・ヘプバーンのほうも衝撃を受ける。心を静めるように、庭に出る。一人、木々のあいだを歩く。そのうち部屋に置いてきたシャーリー・マクレーンのことが気になる。もしや。あわてて部屋に向かって走り出す。
 ここからオードリー・ヘプバーンが部屋にたどり着き、鍵のかかったドアを打ち破り、部屋のなかに入って、首を吊ったシャーリー・マクレーンを発見するまでの約五分間は、この映画のクライマックス。
 庭を歩いていたオードリー・ヘプバーンが不安そうに部屋を振返る。はっとして走り出す。走る姿と顔のアップのカットが積み重ねられる。そして部屋に飛び込む。まさに編集のお手本でこの数分は息を呑む。
 これを手がけたのがハル・アシュビー。シャーリー・マクレーンはその手腕に惚れ込んで『チャンス』の難役を引受けたのだろう。

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