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『アリー/ スター誕生』米大絶賛の理由 2018年的刷新とレディー・ガガに重なる物語がポイント?

リアルサウンド

18/10/24(水) 10:00

■アカデミー賞有力候補。『アリー/ スター誕生』は保守的なのか?

「『スター誕生』に生肉ドレス女など格下げもいいところだ」 – New York Post

 これは『アリー/ スター誕生』(原題『A Star Is Born』)のキャスティングが発表された際の評論家ジョニー・オレンスキーによるコメントである。ジュディー・ガーランドやバーブラ・ストライサンドが務めてきた偉大なる「スター役」に、生肉をまとう奇抜セレブことレディー・ガガなど見合わないと苦言したわけだ。しかしながら、彼の厳しい態度は映画を観るやいなや一変した。

「レディー・ガガの演技はアカデミー主演女優賞に足る。『アリー/ スター誕生』は今年一番の映画だ」 – New York Post

 ガガを絶賛した批評家はオレンスキーに留まらない。The Film Stageは「素晴らしいという他ない」、Varietyは「魅惑的で成熟したムービースターデビュー」と褒め称えている。さらに、オスカー像すらも夢ではない状況だ。2018年10月20日現在、アワード予想サイトGoldDerbyではガガが主演女優賞候補のトップ。映画自体の評価も高く、Rotten Tomatoesメーターは89%。Hollywood Reporterのアカデミー会員取材では、主演や監督部門含め「10ノミネートは行くだろう」と語られている。日本での公開は12月21日とまだ先だが、第31回東京国際映画祭のオープニング上映作品にも決まっており、その話題性は追って日本国内にも波及していくことだろう。歌手の映画主演デビュー、俳優の監督デビューとして、まさに「スター誕生」な本作だが、こうしたアカデミー賞有力視の裏には何があるのか、作品内容とともに探ってみよう。

「レディー・ガガがアカデミー賞を救えないのなら、誰も救えない」 – GoldDerby

 まず、Forbesがまとめるように、評価のみならずセールスも良い。製作費3600万ドルのこの作品は、公開から12日で1億ドルを稼ぎ出した。なによりも、主演は21世紀を代表するポップスターだ。映画とキャストの人気はアワードへの注目度、および視聴率に繋がる。『アリー/ スター誕生』は、レーティング下降に悩むアカデミー賞からしたらありがたいスター映画なのである。さらには、アカデミー会員内でも評判がすこぶる良い。

「アカデミー会員試写でこんなにも多くの高齢者を見たのは初めてだ!」 – Hollywood Reporter

 2018年10月に行われた『アリー/ スター誕生』のアカデミー会員向けの試写は満員となった。劇場では泣いている人も多かったようで、その場はまさに「10ノミネートは行きそうな」熱狂を迎えた。華々しいデビューを飾ったこの映画は一体どのような内容なのだろうか? アワードレースに被せるなら、引用コメントにある「高齢者」が鍵だ。

■ポスト#MeToo時代の映画として

 『アリー/ スター誕生』は、バーブラ・ストライサンドが主演を務めた1976年版とあまり変わらない内容とされる。音楽界が舞台で、男性スターが一般女性の才能を見抜き、恋愛関係となる。そして女性がスターダムに駆け上がる一方で男性は凋落するーーつまり、音楽スター同士の悲恋だ。The Economistによると、インターネットが当然のものとなった今日の音楽産業状況はあまり反映されていないようだ。このことから、テックに関心の低いとされる高齢世代も観やすい作品だと予想できる。70年代版とほぼ同じ世界観、クラシック作品のリメイク、音楽要素ーー『アリー/ スター誕生』は「アカデミー高齢会員の好みとされる映画像」に見事合致するのである。さて、こうやって切り取ると保守的な映画に思えるが、本当にそうなのだろうか?

 『スター誕生』は「男性権力者にサポートされるシンデレラストーリー」の面もあり、ポスト#MeToo時代からするとモダンな話ではなさそうだが……実は、ジェンダー面で賞賛されているのは、男性権力者描写、つまりは、監督も務めるブラッドリー・クーパー演じるジャクソンの人物像だ。

「『アリー/ スター誕生』で描かれる男性性は、我々が見慣れた“良い男性”と“悪い男性”のどちらにも属さない。男性主人公には問題性とポジティブな面が混在しており、偶像化も悪魔化もされていない」 – i-D

 クーパーは、歴代フランチャイズとは異なる「複雑で脆弱な部分も持つ男性像」を描いたようだ。それによって、アリーとの交際におけるジャクソンの問題性も明瞭化していると評されている。この側面は時事的でもある。劇中、ロックスターのジャクソンはアルコールとドラッグ中毒に侵され転落していく。2010年代後半のアメリカでは、多くのスターが中毒に侵され亡くなっている。ドラッグ中毒の経歴があったマック・ミラーが26歳にして逝去した際には、元恋人アリアナ・グランデへのバッシングが生じた。The New York Timesは、本作が男性側の諸問題を明確にしたことで、こうした「男性の転落の責任をパートナー女性にきせる風潮」に一石を投じたことを示唆している。

■「スターダム悲恋」はガガの人生とも重なる

 21世紀版『スター誕生』プロジェクトは、元々ビヨンセが主演として関わっていた。彼女の場合、グループ出身やフェミニストなど、バーブラ版と共通するキャリアを持っていた。では、ガガはどうなのか?

 主人公アリーは、歌手となる夢を諦めた女性で、下積み時代のガガとは正反対だ。ゆえに「既存イメージを感じさせない演技」と絶賛された。その一方、彼女の音楽キャリアも大きく寄与したようだ。大半の楽曲をガガが作詞作曲したサウンドトラックでは、彼女の多彩なディスコグラフィーを再現するかのように、カントリーからロック、ポップまで様々なジャンル音楽が披露されている。本作に満点評価を下したThe Guardianは、ガガの変容能力が今までで最もハイレベルだと絶賛した。

 正反対と言っても、ガガに“一目惚れ”したクーパーが彼女用に脚本を加えたこともあってか、彼女の人生と重なる面もある。クーパーとガガの出逢いは癌関連のチャリティパーティーだった。そこで「La Vie en Rose」を歌うガガをひとめ見て主演オファーを決断。この曲は劇中でも歌われるため、現実での出逢いがそのまま作品に反映されている。なにより、本筋である「スターダム悲恋」は、ガガが身をもって体験してきたこと。彼女もまた、アリーと同じように、スターダムに登る過程で大切な人を失ってきた。Netflixドキュメンタリー『Five Foot Two』において、このように吐露している。

「いつも仕事で成功するたび恋愛がダメになってる」

「レコードを1,000万枚売り上げたとき、マットを失った。3,000万枚を売った時はルークを失った。映画が決まってテイラーとも破局した。まるで売上高みたいに3度も同じように失恋したの」

 また、ELLEのインタビューではこう語った。

「成功は関係性をテストする。家族や友人を。それがスターダムの時代。私は、心の傷にアクセスすることなく作曲や演技をすることはできない」

 実は、映画撮影中もガガは大切な人を失った。ハイライトになるであろう「I’ll Never Love Again」歌唱シーンが撮影されたのは、長年の親友ソニア・ダラムが癌で亡くなった直後なのである。撮影当日、ソニアが危篤状態だと知ったガガは、すぐさま友人のもとへ駆けつけた。しかし間に合わず、ソニアはガガが到着する直前に逝去。ガガと親友の夫は、このような会話をしたというーー「何をすればいいのかわからない」「ソニアが君にやってほしいことをやるんだ」。ソニアがガガに求めたのは、歌うことだった。ガガはすぐにセットへ戻った。当時の彼女はとにかく歌いたがっていたそうで、撮影後、クーパーはガガにこう告げたーー「この映画のファイナル・ショットになる」。

 本作のラストシーンは、主演女優の親友に贈られたと言っても良いだろう。レディー・ガガが自身の心を隠して創作することができない表現者だからこそ、『アリー/ スター誕生』は多くの人々に訴えるエモーショナルな映画になったのではないだろうか。彼女を信頼し続けたクーパーがこの作品に込めた願いは、「人々にトラウマを乗り越える勇気を与えること」だという。(文=辰巳JUNK)

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