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予想を裏切る驚愕展開のオンパレード! 沢村一樹主演『絶対零度』第1章を総復習

リアルサウンド

18/8/20(月) 6:00

「すいません」

参考:一度却下された企画が実現? 『絶対零度』プロデューサーが明かす、シリーズ3作目の誕生秘話

 太宰治の「二十世紀旗手」に出てくる「生れて、すみません」的な人だと、南(柄本時生)は評する(南は「生きていて、すみません」だと間違えて言い、それを突っ込まれるけれど)。

 『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』(フジテレビ系)で、主人公の井沢(沢村一樹)らのチームの一員である、田村(平田満)の口癖だったこの台詞。些細なことでチームの誰かから突っ込まれたときでも、いつも穏やかな笑顔を浮かべて呟く、この「すいません」が、まさかこんな悲劇的台詞として使われることになるなんて誰が予想しただろうか。ミハンのメンバーになる前の田村は、様々な部署をたらい回しにされた過去を持つため、鑑識の技術から爆発物処理に至るその幅広い才能は、物語の要所で発揮されてきた。それだけではない。個性豊かな面々が揃うチームの潤滑油として、南同様に、観る者をどこか安心させてくれた田村であり、彼の不在は誰にも補えるものではないだろう。そんな彼が、自殺を図った第6話。小田切(本田翼)が泣きわめきながら、彼の体を抱き寄せては、その場にいたメンバーがやるせない表情を浮かべてそれを取り囲むエンディングは、目頭を熱くさせた。

 放送直後は、ある種のテンプレートに合わせて作られた“事件解決モノ”の刑事ドラマであるかのように思われたが、回を重ねるに連れてその予想をことごとく裏切られた。第2話から本格的に始まる不気味な“仕置人”演出は、以降、視聴者の注目を引いていったほか、第5話に登場した狂気の青年(道枝駿佑)が自ら首を切り、血しぶきを上げて命を断つというシーンは大きな動揺をもたらした。本作では、毎話の事件解決劇の楽しみもさることながら、物語全体を通した、いわゆる“縦軸”のストーリー展開も見どころであった。そこで、第1章からうかがい知れる、本作の主題、及び今後の展望を考察していこう。

■ミハンが生むパラドックス

 最新のAI技術と、統計学を駆使しして設計された未然犯罪捜査システム、通称“ミハン”。膨大な数の監視カメラとともに、国民の基本情報や通話履歴などから、犯罪(特に殺人)を引き起こしそうな人物をあぶり出し、未然に犯罪を防ぐために開発された。井沢(沢村一樹)や小田切らが所属する資料課は、秘密裏にこのミハンシステムを用いた捜査を行い、そのシステムの精度を着々と高めようとしていた。しかし、当然のことながらこうした捜査は現時点では違法捜査扱い。まず、この点が一つの葛藤の種になっている。特に赴任したばかりの山内(横山裕)はこの点に当初は大きな拒絶感を示す。こんな違法捜査をしていていいのかと。それは山内だけではなく、小田切も田村も心のどこかで思っているような節があった。でも、もしも法律を破った捜査であったとしても、それで悪が生まれるのを防げるのであればと、暗黙の了解の中でミハンと付き合っていくことになる。しかしながら、(第4話の銀行強盗の事件のようなケースはあるが)法律を破ってまで行った捜査が、必ずしも良い結果に終わるとは限らなかったのだ。そんな皮肉を教えさせられる。

 本作によると、実際に欧米の一部の国々ではこうした捜査が行われているらしく、日本でもいつか本当にミハンのようなシステムが使われるようになるのかもしれない。ひょっとすると(無論、賛否両論あるが)、より犯罪が減るのであれば、歓迎できるシステムであるとの声もあろう。しかし、本作では、そのミハンが持つ矛盾からくる恐ろしさも伝わってくる。第2話や第3話が例として分かりやすい。どちらの話でも、ミハンが探知した人物が殺害の対象とする人間は、本来ならば法律で裁かれるべきだとして描かれる人間なのである。つまりミハンチームは、小田切の言葉を借りれば、“クズ”たちを守るために、捜査に乗り出さなくてはならないのだ。もちろん、今のチームの目的の一つには、不完全なミハンシステムをより完全なものに近づけるために、いくつかの捜査に当たっているということもある。しかし、当初はミハンが検知した人物に宿っていた殺意は、無事チームのおかげで大事に至らずに封じ込められても、皮肉なことにその殺意はある人物に奇妙なかたちとなって“伝染る”のだ。そして一度生れてしまったそんな殺意は、閉じ込められることなく萌芽する。これがミハンの生んだ皮肉なパラドックスである。第2話、第3話での“仕置”は視聴者に溜飲を下げさせる効果もあったかもしれない。しかし、結局制裁が下されるのであれば、一体何のためのミハンであったのかということも同時に考えなければならない。

■“法律に違反した制裁”の果てにあったもの

 そして、前回の第6話ではその“仕置人”の正体が田村だと判明した。田村は過去にフィアンセを連続殺傷事件で失ったという苦い過去があった。しかも、その犯人は以前から田村が目をつけていた人物であったということもあり、事件後に、被害者遺族から責任を追求されたときには、ただ「すみません」と頭を下げるしかなかった。そして、ミハンに配属された彼は、そんな経験もあってか、“法律で裁けなかった悪”に対して“法律に違反した制裁”をもって裁きを加え始める。目には目を、歯に歯を。

 言うまでもないことであるが、悲しいかな、それがたとえ“正義”なるものに裏付けられた行為であったとしても、私たちの世界ではそれが法律を破っているのであれば、罰が下されるということをグロテスクに見せつけられた(田村の場合は自殺ではあるものの、それはまるで因果応報の罰のようだった)。“法律に違反した捜査”、それで明らかになった、“法律で裁けない悪”、そしてそれに下された“法律に違反した制裁”。今回の『絶対零度』ではその奇妙な流れの中で、“正しい世界”に近づけようと葛藤する人間たちの有様を寓話的に描き出している。

■田村が残した意志を引き継げるのか?

「皆さんと出逢えて良かった。ミハンを必ず実現させてください。すいません」

 そう言い残した田村は、拳銃を自らのこめかみに当てて引き金をひく。

 田村が井沢らに託した意志は、ミハンを完璧なシステムにさせること。しかし大きな疑問として残るのは、完璧なミハンを作ることなど無謀のように思われるということ。そして、もし仮に完成させたとして、その先には“理想の世の中”が実現できるのかという難しさがある。AIによる完全な未然犯罪捜査システム。それはもはや、ある意味で全知全能の“神”のような存在をこしらえるようなものである。それに近づけようとする中で、恐らく今後も井沢らは大きな葛藤や壁に苛まれていくことであろう。そんな試みの中で一体資料課の面々は何を学び、何に気づいていくのであろうか? 田村の残した意志が少しでも、良い形となって井沢らに何かをもたらしてくれることを期待したい。

 田村なき資料課は、いよいよ次回から新たな局面で奮闘していくことになる。そして忘れてはならないことであるが、最も重要な“縦軸”のストーリーの一つに、桜木(上戸彩)の一件がある。一体、桜木の身には何が起こったのか? 『絶対零度』は今後も波乱の展開を予想させる。(國重駿平)

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