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『ルパン三世 THE FIRST』はなぜ高い満足度を獲得できたのか? 制作手法やストーリーから紐解く

リアルサウンド

20/5/31(日) 12:00

 頭脳明晰な変装の名人にして稀代の大泥棒、女性に少し弱いところがあるものの、コミカルに動き回る中でも、決めるところはきっちりと決める。そんな国民的人気キャラクタールパン三世が活躍する映画『ルパン三世 THE FIRST』のBlu-ray&DVDが6月3日に発売される。ルパン三世シリーズ初の3DCGアニメーション、そして単独長編映画作品としては『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』以来23年ぶりの映画化ということもあり、大きな話題を呼んだ作品だ。今回は公開当時、劇場満足度95.3%(映画『ルパン三世 THE FIRST』劇場アンケート集計結果)を記録した本作の魅力について迫っていきたい。

参考:『ルパン三世 THE FIRST』が描いた“変わらなさ” 新しいフォーマットで生き続ける一味たち

 ルパン三世とは何者なのか……この問題は、作中だけのものではない。一般的にルパン三世と聞いてイメージするのは、通称赤ジャケルパンと呼ばれるTVシリーズ『ルパン三世 PART2』か、あるいは宮崎駿が監督を務めた『ルパン三世 カリオストロの城』が多いのではないだろうか。しかし、原作はハードボイルドな大人な雰囲気が漂い、セックス&バイオレンス描写が多く、TVシリーズのイメージのままに読み出すと面食らう読者もいるだろう。近年でも原作の雰囲気に近づけた小池健監督の『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』などの『LUPIN THE IIIRD』シリーズも公開されている。一言にルパンらしさといっても、まさに変装の名人らしく、そのイメージは作品の数と同じだけ存在すると言っても過言ではない。

 そのあまりにも多様すぎるキャラクターイメージや、初の3DCGアニメーションという壁があるものの、今作に対する観客の声として「いつものルパンが楽しめた」というものが多かった。しかし宮崎駿などの日本を代表するクリエイターたちが数々の技巧を凝らし、多くの傑作を生み出してきたルパンシリーズの“いつもの”を3DCGで描き出すのは並大抵のことではない。

 特に難しいのは動きだろう。手書きのアニメと比較した場合、3DCGは滑らかな動きを堪能できるものの、細かなタイミングの違いなどから、ともすればアニメ的な誇張された動きの面白さがなくなってしまいかねない。しかし今作では警察官に押し倒されながらも下着姿になりながらも抜け出しパンツを直す仕草や、空中を平泳ぎのように泳ぐ仕草、また『カリオストロの城』でも印象に残る走り幅跳びのように大きくジャンプする姿など、CGの滑らかさと手書きの面白さの両方の味わいのある動きが堪能できる。

 その動きが生まれた試行錯誤の様子は、特典映像のメイキングに収録されている。通常のアニメ作品と同様に、そのシーンの基本的な設計図となるストーリーボード(≒絵コンテ)を制作したのちに、それをつなげて動画にする。そして基礎となるCGにてカメラやキャラクターの大まかな位置などを決める。その後、実際にスタッフが演技して、リファレンスと呼ばれる参考となる動画を撮影し、それを元に表情などを制作、細かな修正を加えていく。

 注目してほしいのはストーリーボードとリファレンス動画だろう。まずアニメの設計書となるストーリーボードは手書きで描かれているのだが、アニメの快楽性、面白さが詰まっておりその時点でワクワクしてくる。そしてリファレンスではスタッフが実際に演技をしているのだが、それがアニメらしいコミカルさがありながらも過剰になりすぎない絶妙なバランスで、筆者はモデルとなった男性に賞を送りたいと思ったほどだ。これらの試行錯誤により、アニメのコミカルさがありながらも、CGでも硬くなりすぎずに滑らかでありながらも、人間らしい動きを再現することに成功している。

 そして、今作のキャラクターたちを生き生きとさせている理由の1つがプレスコ方式だ。多くの日本のアニメ作品は絵に合わせて声優が声を当てていくアフレコ方式を採用しているが、本作はあらかじめ声を録音し、その後にキャラクターの映像を作り上げていくプレスコ方式で制作されている。その結果、ゲストキャラクターの広瀬すず演じるレティシアを引き合いに出すと、まるで広瀬すずが実写でそのまま演じているかのような、はつらつとした躍動感と凛とした魅力が備わったキャラクターとなっている。栗田貫一と浪川大輔は特典映像のインタビューにて「山崎貴監督が少しずつ声に影響を受けてキャラクターを作っていった」と語っており、また山崎貴監督自身も「作品の骨格になった」と明かしていることからも、プレスコ方式だからこそキャラクターの魅力がさらに増しているのだ。

 ストーリーに目を向けると、ルパン三世の宿命との対決が描かれているのが印象的だった。アルセーヌ・ルパンも手に入れることができなかったお宝を盗むために奮闘するルパン三世だが、同時にレティシアもまた祖父との因縁に決着をつけるために行動する。本作の悪役も過去の因縁に縛られているのだが、この三者三様の過去との向き合い方がドラマを盛り上げていく。視点を広くすれば、「過去=ルパン三世の過去作といかに向き合うか」という物語とも解釈することができる。ルパン三世たちの奮闘と山崎貴監督などのスタッフ・キャストが過去の名作たちにどのように向き合ったのかと考えることもできるストーリーだ。

 さらに、Blu-ray豪華版の特典にはお馴染みの音楽とともにルパン一味が派手に動き回るノンクレジットOP映像のほか、ブックレット、メイキング映像などの多くの特典が封入されている。ルパンというお馴染みのキャラクターたちを、どのように3DCGで描くのかという難題に向き合った作品だけに、ぜひともその制作過程もチェックしてほしい。(井中カエル)

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