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大野雄二が語る、ジャズに対する飽くなき探求心 「色んな面白さが無限に詰まってる」

リアルサウンド

18/10/28(日) 12:00

 大野雄二トリオ、Yuji Ohno & Lupintic Sixのホストを務める大野雄二が、前作『ジャズノート&DVD』から2冊目となる自伝的エッセイ『大野雄二のジャズ放浪記 JAZZ SQUALL』を刊行した。

参考:大野雄二、“音”に託したジャズへの思いーー『LET’S FALL IN JAZZ』公演レポート

 同著には、生い立ちからミュージシャン/作編曲家としてのキャリア、さらに大野自身の音楽論が余すところなく収められているほか、本人セレクトによる名盤解説、Yuji Ohno & Lupintic Sixのメンバー座談会も収録。ジャズやCMといった音楽分野の第一線で活躍してきた大野雄二の逸話から交友録、実践的なエピソードに至るまで充実した内容となっている。

 今回のインタビューでは、『大野雄二のジャズ放浪記 JAZZ SQUALL』の制作過程をはじめ、大野雄二の音楽に対する探究心やプロミュージシャンとしての心構え、2017年で生誕100周年を迎えたジャズの未来についてたっぷりと語ってもらった。(編集部)

■「ジャズでは少し外れたって、良いアウトはセーフ」

大野雄二『大野雄二のジャズ放浪記 JAZZ SQUALL』
ーー本書は大野さんにとって、2004年に出版された『ルパン三世 ジャズノート&DVD』以来の著書となります。当初は“大野雄二とジャズ”というテーマで執筆を進めていたそうですが、出来上がったものが少々マニアックすぎという理由から、“楽しく読んでもらえるジャズの本”として作り直したそうですね。

大野:最初に「音楽の専門的なことを書くのはどうですか」って出版社から話があって。その時は「まぁそれもいいかな」と思って書いてはみたんだけど、ある程度出来上がったものをいざ読み直してみたら、この本を最後まで読むマニアックな人はそういないかもなと思ったわけ。で、まずは“つかみはOK”みたいなことを改めて考えなきゃと思って。タイトルが『ジャズ放浪記』なのに、最初のページでネギを持ってる僕が出てきたら面白そうだな、と(笑)。

ーーそれが冒頭の料理のページですね。

大野:そうです。受け狙い好きの大野君としては、普通にジャズ的なことからは入りたくなかったしね。まずは、一番近くにいるスタッフの座談会を通して大野雄二の人となりを知ってもらうって所から、ついでに僕のクッキング力見せちゃうかーみたいな流れになったんだよ。ジャズと料理に深い意味付けは無い。単純に僕が食いしん坊ってことで。

 今までFMラジオに出る時や本の取材等でもよく料理のことを話してたからね。まー探究心はある方だから、味付けも色々考えるしね。ただ料理本に出てくるような本格的なものを作る気はさらさら無いんだ。冷蔵庫の残り物でチャチャーっとシンプルに作れてセンスの良い一品を作るのが僕のポリシーだね。

ーー過去にはお酒も研究されていたと聞いたことがありますが。

大野:うん。でも、お酒大好きで大酒飲みってわけではないよ。研究好きなのかな?

ーーひとつのジャンルを極めるのにどの程度時間がかかりますか?

大野:例えばお酒で言えば、3年くらいかな。どんな味か、なんで美味しいのか、各国のメーカーのものを飲み比べてみたりして、何となく分かったらおしまい。次の酒(ウィスキーとか)にいくのさ。

――音楽も研究家のように探究されると。

大野:まぁそうだね。一寸学者っぽく研究しちゃうね。CM作家になって、あらゆるジャンルの音楽を聴くようになってからだけど、気になるCDを聴いたらまずプロデューサーを覚えとく。メンバーも調べる。そして、そのプロデューサーの他の作品も色々聴いていくんだ。すると今まで知らなかったけど、あっ!!こんなすごい人がいたんだってことで、どんどん広がっていくから楽しいね。

ーー他の音楽ジャンルと比べた際に、ジャズのどういった部分に惹かれるのでしょうか。

大野:ポップス、ボサ、ソウルミュージック、フュージョン等色んなジャンルの音楽はそれぞれに良い部分がたくさんあるし参考になるんだけど、アドリブパートがやたら多くはないでしょ。(まぁ、フュージョンはすごく聴きやすいジャズとも言えるけど。)でもジャズは基本的には個人プレイがメインで、みんなで”よきにはからえ”的なアンサンブルなんだよ。譜面的な部分がチョー少ないんだ。だから個人個人それぞれが、ものすごく相手をおもんばかるってわけ。それがほかのジャンルの音楽との一番の違いだと思うんだ。そこに深さが生まれる。譜面もほぼ無いし、全員がおもんばかりながら自由にプレイする。そこがジャズの良さだと思うよ。クラシックは譜面からは絶対に外れないからね。ジャズはかなり色々と外れてもOKだし。もっと言えば、枠から飛び出したほうがすごいって言われる。音楽だからギリギリの限度はあるけど。そんなところに惹かれるんだよ。奥が深いからね。

ーー枠から出ることが、あらかじめ求められる音楽だと。

大野:ジャズでは少し外れたって、良いアウトはセーフなわけ。アウトがセーフっておかしいでしょ? でもジャズではわざとアウトしていってお客さんを楽しませることもある。「うわー、今のプレイ良いアウトだなぁ」なんて言われたら最高に嬉しいからね。メロディーラインのアウト、サウンド(コード)面でのアウトやコードチェンジリズムでは、ポリリズムね。例えば4拍子でやってる時に3拍子のアクセントをやり続けたり、1拍半(3拍子の半分)やり続けたりと、聴いてるとわけ分かんなくなっちゃうようなことを入れつつ、どこかで元に戻す等々。色々あるよ。個人がそんなリズム面やメロディー、サウンド面でも勝手にやりながら合わせていく。これがモダンジャズの醍醐味。本当に色んな面白さが無限に詰まってるんだ。

■「プロは“つかみ”と“お約束”がないとダメ」

ーー演奏者同士の関係といえば、本書の中にある、Lupintic Sixメンバーの方々との座談会が大変興味深かったです。例えば、長年付き合いのある市原康さん(Dr)やミッチー長岡さん(Eb)とは感覚的なやりとりですが、宮川純さん(Key)や和泉聡志さん(Gt)といった若手の方はすごく勉強家で理知的な印象を受けました。世代によってプレイヤーの気質に違いは感じますか。

大野:それはある程度あるだろうね。時代が違うから。僕らの若い頃は情報が一切なかったから、独学でレコードを聴きまくってコピーして、正しい答えもなく、きっとこれで合ってるんだろうなって感じだった。でね、イッチー(市原康)やミッチーの時代になると、少し情報も入ってきて一寸やりやすくなってきて、和泉や純の時代は情報があり過ぎくらい。そりゃあプレイヤーの気質も変わるよね。ただ、和泉や(宮川)純のすごいところは、頭でっかちになってないし、フィーリングが熱いとこだね。2人とも本当に良いプレイヤーだよ。だから今のLupintic Sixは若手、中堅、ベテランと素晴らしいバランスのバンドになってるんだよ。

ーーなるほど。さて、今はMCにギターにと大活躍の和泉さんですが、彼はもともとロック畑の方ですよね。出会った当時、将来伸びるかもしれない、というような予感はありましたか?

大野:当初はまったくそういう予感はなくて、単純に彼のスケジュールが空いてたから声をかけたんだ(笑)。僕はライブハウスを中心にギタリストを探してたんだけど、そういう場所で毎日弾いているようなプレイヤーは割とジャズ的なこともできる人なんだ。逆にスケジュールが空いてるということは本当にロックしかできないんだろうなって。Art Blakey & The Jazz Messengersみたいな編成のバンドにするんだったらギターは必要なかったんだけど、そことは異なる音楽を作ろうと思っていて、ロック系のギターが必要だったから一か八かで和泉を入れてみたら、結果、大アタリだったね。

ーー座談会での市原さんとのやりとりも印象的でした。

大野:イッチーは出会った時から、オリジナリティーの強い独特のドラミングをするやつだった。ドラマーの中ではその曲にどうやって合わせて叩くかをよーく考えてプレイするし、フィルインがシンプルで音数が少ない。僕の好みのドラマーだね。ただ、Lupintic Sixというバンドは全国のホールでルパンナンバーを中心に、敷居は高くないけど上質のジャズをどこでも同じように聴かせたいバンドなのに、イッチーは自由気ままにその時の気分でテンポを変えちゃうんで、たまにメンバーに怒られたりするんだよ。そこだけは守ってもらわないとね。一度「ドンカマ」でテンポ確認してからスタートしてって彼に言ったら、「機械に指示されるのはキライだ」なんて言い出すから……(笑)。

ーーどこまで自由にできるかというのは、メンバー同士の“おもんばかり”というわけですね。この本には様々な音楽理論が書かれていて、大野さんは「テクニックをひけらかす音楽ほどつまらないものはない」ということも強調されています。

大野:これは僕の好みを言っているわけで、すべてを否定しているわけじゃない。テクニック自体は大事だよ。例えばジョン・コルトレーンは、ある時期からやたら音符だらけの演奏をしていた。でも、コルトレーンはそこに説得力があるから成り立つわけで、頭の中にある情報を考えなしにバカバカ鳴らしているのとは違う。だから僕は、くだらない部分をもっと減らして、整理整頓してから出すべきだと言ってるのさ。

ーーそういうことを各パートのメンバーに伝えているのですか?

大野:そうだね。あと、つかみはOKか、とかね。

ーー“つかみ”と“お約束”は大事だとおっしゃってましたね。

大野:今のLupintic Sixのようなバンドは、ジャズ大好きなお客さんだけじゃなくて、ルパンが好きでその音楽も好きだからコンサートに来てくれるって人もたくさんいる訳。マニアックにジャズ好きな人専門のバンドでは無いんだよね。まぁ言ってみれば、Lupintic Sixはメジャーバンドになってきちゃったので、お約束は大事。ソロの頭でガッツリつかんで(つかみ)、ホットにガンガンいってお客さんが一番楽しんでるときに拍手しやすいように終わる(お約束)。ジャズコンサートに慣れないお客さんでも安心して拍手できるような終わり方、これが実は結構難しい。でもこんなお約束はある意味ミュージシャン側だって嬉しいことなんだ。終わった瞬間にワーって拍手されたら、ドヤ顔の一つもしてみたくなるじゃないか。どうだー!って。それが無いとダメなんだよ、プロは。

■「芸術は家で練習する時にやるもの」

ーー大野さんは藤家虹二さん(Cl)や白木秀雄さん(Dr)といった伝説的なミュージシャンのバンドにも参加してこられました。様々なバンドを経験することで、そういうお客さんへの見せ方を勉強された部分はありますか。

大野:たまたまね、両方ともサービス精神旺盛なバンドだったんだ。だから割と王道というか、お客さんへのサービス精神みたいなところはその頃に覚えたね。でも、その当時の他の人から見たら、僕はもともとサービス精神が旺盛なタイプだったしね。日本のジャズバンドはどっちかって言うとお客さんへのサービスが苦手な印象がある。みんな芸術家寄りというか。僕は、芸術は家で練習する時にやるものって思うんだ。お客さんに観てもらうなら、こっちもある程度のことは我慢して企業努力をしないとダメってこと。それでも、自分の本気の演奏の大半は聴いてもらえるからね。ただし、”コレしかやらないぞ、お客さんなんて来なくってもOK”って人がいても良いとは思ってるよ。否定はしない。大変だろうけどね。

ーーもともとサービス精神は旺盛だったんですね。

大野:そうそう。だって、お客さんが来てくれた方がプレイしてて楽しいからね。だから僕は、当時からみんなが知っている曲は1ステージに2曲は入れたいと思ってたし、たとえアドリブがわからないお客さんでも、知ってるメロディが流れれば大分印象は違うわけでしょ。そしてコマーシャルの音楽を作るようになって、そういう考え方が決定的になったのかも。

ーーYou & Explosion Bandでの活動やコマーシャルの音楽を作っていく中で、観客のことを一番に考えるという方向性が定まっていった、と。

大野:そうだね。

ーーステージマンとして、この先もライブをずっと続けていきますか。

大野:曲を書くのは大変なんだけど、演奏はずっとやってきたことだからやめられないね。やっぱり、お客さんが目の前にいることが一番面白い。もし自分のバンドを気に入ってくれるスポンサーがいて、最高の環境でいくらでも練習していいよ、アルバムを作るお金も全部出すよって言ってくれたとしても、それだけでは全然つまらないかな。やっぱお客さんがいないとね。ライブはお客さんあってのものだから。ライブは生き物! 一寸先はヤミ的な所もあるしね。

ーーライブが活動する上での活力になる。

大野:なるねー。例えば小さいライブハウスだといつもほぼ満員になるんだけど、贅沢な話、立ち見がいないと少しだけ物足りないというか。もし、ファンがあと東京に2000人から3000人いたら、埋まってるだけじゃなくて、もっとザワザワ感のある状況にもっていけるわけでしょ。だから、もうちょっとなんとかしてやろうって思うんだ。このもう一寸なんとかしたいって気持ちが、活力になるわけさ。逆にね、お客が入らないことに慣れてるバンドはお客さんがいないのが当たり前だと思って、少し多いだけで喜んじゃうから。それじゃダメなんだ。

■「僕の一番のお師匠さんはCM作曲家」

ーー満足してはいけないってことですね。本書には大野さんによるディスクレビューも掲載されています。選盤のポイントは。

大野:自分がずっと聴いてきて、良いと思っているものを集めたよ。本当はもっとたくさんあったんだけど、これも全部出せば良いってわけじゃないなと、大分カットした。長くなりすぎちゃうからね。その代わり、ジャンルはけっこう広くなってると思うよ。

ーーたしかに、ジョン・コルトレーンやレッド・ガーランドもあれば、スティーヴィー・ワンダー、キャロル・キングなども紹介されていました。

大野:お酒にも言えることだけど、お師匠さん的な人がいると、無駄なく早く良いものが選べるようになるよね。少しおこがましいけど、僕がその役を務めようかと思ってね。

ーー大野さんにもお師匠さん的な人はいるんですか?

大野:いないね。強いて言えば、色んなジャンルの本かな。変な言い方だけど、僕の一番のお師匠さんはCM作曲家だったってことかな。CMの音楽を作る上で、必然的に色々と聴かなきゃいけない立場だったから。知らない世界へどんどん入って行けたんだもの。

ーーパイドパイパーハウス(南青山にあったレコードショップ)に通っていたんですよね。

大野:そうそう。まぁ確かにあそこの店員さんもお師匠さんと言えるかもしれないね。当時、あの場所にいた人たちは新しい音楽の先駆者だったから。ひとつのジャンルを追求していた人たちがたくさんいたからね。

ーーレビューを読むと、大野さんがプロデューサーやディレクターも重視されていたことが伝わってきます。

大野:そこに注目したほうが、自分の趣味に合った作品を見つけやすかったからね。好きなアーティストの作品で見つけたプロデューサーが他の人との作品でも良いセンスしてるなーと思ったら、どんどんそのプロデューサーの作品を聴いていくんだよ。すると、今まで知らなかったアーティストとも出会えるし、どんどん広がっていくからね。

ーー例えば、ジャズ人気の一般化に貢献した音楽プロデューサーのクリード・テイラーは本の中でも度々出てきていますね。

大野:ブルーノートのアルフレッド・ライオンはやっぱり堅いんだよ。ジャズのやり方もレコードの出し方も。おそらくクリード・テイラーもブルーノートを聴いて育ってきたとは思うんだけど、さっき僕が言ったようなちょっとした“我慢”ができる人だった。ジャズプレイヤーがどうすれば売れるのか、よりポピュラーにしていくことを自ら進んでやっていったんだ。で、彼はA&Mっていう会社で<CTIレコード>っていうレーベルを立ち上げるんだけど、A&Mはそもそもミュージシャンが作った会社だったから、自分のポリシーも出しやすかったんだろうね。ウェス・モンゴメリーみたいなプレイヤーを次々にスターとして輩出していった。ボサノバを広めたのもクリード・テイラーだからね。“売れるものしか作らない奴”って軽く見られがちなんだけど、僕はね、クリード・テイラーはリアルジャズが大好きだからこそ、そういう売り方をしていったんだと思うんだ。ジャズミュージシャンの底上げだね。

ーーミュージシャンの見せ方を変えることで、スタープレイヤーに育てていった、と。

大野:ジャズミュージシャンは自分の見せ方が下手だから、スタン・ゲッツもフレディ・ハバードにしても、一人でいると単なるジャズの世界で上手いプレイヤーってだけで終わっちゃう。それじゃあまりにももったいないし、ジャズが好きだからこそもっと有名にしてあげたいという情熱があったんだと思う。

ーーそういうプロデューサー的な視点は大野さんも持っていますよね?

大野:考え方の柱になっているのは、CDやLPをいっぱい出せる状況にしたいということ。アバウトイコール、人気者になるってことさ。でも、売れないものをたくさん出しても意味がないから、ちゃんと売れる可能性のあるものを作ろう、と。かと言って、「売れりゃあいい」みたいな気持ちで作ってはダメだけどね。

ーーそこは難しいところですね。

大野:例えば川があったとして、売れてる側(ポピュラー)と売れないけど好きにやってる側(ジャズ)とに分かれてて、そこにそれぞれのファンがいたとする。好きにやってる側が売れてる側にいくのは簡単なんだよ。売れるようなものを作るだけだから。でも、それじゃあ意味がないし、かと言って頑なに好きなことをやり続けるだけでもダメ。好きにやってる側に身を置きながらも、売れてる側のファンを自分の方に渡ってきてくれるようなこと(ちょっとした我慢)をしなくちゃいけないの。

ーー自ら売れてる側に行ってはいけないと。

大野:もし芸術を追求したいというなら自分が良いと思ったことをずっとやってればいいんだけど、売れないより売れた方がいいって言うなら、カッコつけないでそう言えよって話。僕がやっているLupintic Sixは、クオリティを保ちながら、それを分かりやすく伝えることが大切だと思っていて。選曲、1曲の長さ、ソロの内容、お客さんに対するサービスは、ある程度考えるようにしているね。譲れない一線はあるけどね。

「世間と逆行するようなピアニストが出てきてほしい」
ーーそういう考えのもとで作られているからこそ、本書も広い意味でジャズを楽しむきっかけになるようなものに仕上がったんですね。大野さんは今後、ジャズがどのように発展していくと考えますか。

大野:かつてのジャズと現代のジャズでは、すでに考え方が違うものになっているよね。戦後、日本でジャズがポピュラーになってきた頃は、いわゆるスウィングジャズと呼ばれるものが主流だった。一方、同時期のニューヨークではビバップがミュージシャンの中で流行っていたけど、これはまったく商売になるようなものではなかった。チャーリー・パーカーやバド・パウエルが出てきてモダンジャズを芸術化していくことで、ある種ジャスは死んでしまった。つまり人気がなくなってしまったんだ。それまではグレン・ミラー、ベニー・グッドマン、カウント・ベイシー、デューク・エリントンなどのフルバンドやオーケストラがいて、ポピュラリティーを持った踊れるジャズが主流だった。それがモダンジャズによって、音楽的なクオリティは上がったけど、ポピュラリティーは下がっちゃった。

ーー芸術性が高まっていった。

大野:ただ、同じ頃アメリカでは黒人の間でR&Bやソウルミュージックが出てきて、それはジャズの4ビート系の音楽からすごい影響を受けてたんだ。でも、エルヴィス・プレスリー等のスーパーロックスターが人気者になった頃からジャズの影響力はどんどん薄れていく。ポピュラー音楽はリズム面でも8ビート16ビートと進化していくしね。スティーヴィー・ワンダーはジャズとソウルの要素も持っているけど、彼自身の考え方がすごく新しいから独自のスタイルで音楽を作っていたし、Earth, Wind & Fireのモーリス・ホワイトも元はラムゼイ・ルイスと一緒にやってるからバンドにも少なからずジャズの影響はあったと言えるけど、そういう流れの中でリズムがどんどん進化していったから、4ビート感は減っていった。一方リアルジャズとしては、チャーリー・パーカーやハービー・ハンコックの音楽からみんな勉強を始めるわけだから、どんどん頭でっかちな人が続いてくことになるわけで……。

ーーではジャズに影響を受けたポップミュージックが広まる一方で、リアルジャズ、4ビートはまた盛り上がると思いますか。

大野:4ビートが希少価値になれば、それはそれで長持ちするんだよ(笑)。狭いけど。だから、世間と逆行するようなピアニストが出てきてくれると楽しいね。50年代のジャズを参考にしたビーバップやハードバップしか好きじゃないみたいな。なかなか難しいだろうけどね。みんなそこを知らずに育ってるだろうし。

ーー大野さんとしては、若いミュージシャンにどんなことを望みますか。

大野:プレイする前にどれだけ情報を整理できるのか。人間って余計なことをしちゃうから、僕も未だに音数を減らそうと思っても、なかなか減らせないんだよね。色んな情報をいっぱい知っているのはいいことだけど、それをごちゃごちゃ出すんじゃなくて、圧縮して一番いい状態のダシにして出せばいい。結局大事なのは、シンプルに丁寧に1音1音を大切に出すってことかな。あとは「間」だね。マイルスやカウントベイシーの間。ただ休めば良いってもんじゃないんだよね。これが一番難しい。(神谷弘一/泉夏音)

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