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K-POP人気で表層化するアジアンヘイトや“アイドル”への偏見

リアルサウンド

21/3/20(土) 12:00

 2月23日、BTSがアメリカMTVの『MTV Unplugged』に出演し、最新アルバム『BE』の収録曲「Telepathy」「Blue & Grey」とColdplayの「Fix You」のカバーを披露した。その2日後、ドイツのラジオ局Bayern 3のラジオ局ホストが「Fix You」カバーについて中国と北朝鮮を絡めた表現で不快感を表明し、「自分は韓国車に乗っているのでゼノフォビア(外国人嫌悪・恐怖症)ではない」という言い訳までつけた。当然ながらこの発言は炎上しハッシュタグ運動にまで発展したが、後日ラジオ局や本人から出た謝罪は発言に含まれていたアジア系への偏見やステレオタイプへの謝罪というより、「ファンの気持ちを傷つけて申し訳なかった」という点に終始するものだった。

 K-POPが欧米圏でカルチャーの一種として人気になり、チャートやSNSでのバズを超えて各種のアワードの中に名を連ねるようになってからしばらく経つが、K-POPが人気コンテンツになり注目を集めることが逆に一種のアジア系のステレオタイプベースになってしまったり、ヘイトの的にされることを多く目にするようになってきている。例えば、以前のアメリカツアー中には、野球好きのBTSメンバー・SUGAがLAドジャースの試合を観戦した様子を伝えるスポーツメディア・ESPNのツイートに対して中国人と混同したり、ネガティブなリプライがついたことが問題視された。BTSはメンバー全員が韓国人だが、多国籍グループであるNCT 127がアメリカで活動した際も、シカゴ出身のジャニーや韓国系カナダ人のマークといった英語ネイティブであるメンバーに対して「英語が上手い」とコメントするMCと困惑するメンバーの姿がファンによって差別的だと指摘されたことがある。前者のケースは多様なアジア系人種の国籍を混同してひとくくりにするゼノフォビア的な行為であり、後者は「見かけがアジア系なのだから英語が上手くないはず」というアジア系に対する偏見に基づく行為と言えるだろう。

 欧米圏、特にアメリカでのアジア系の存在感はマイノリティの中でも独特な部分もある。20世紀以降には移民2世・3世の中から経済的な成功により階層の移動に成功するケースが珍しくなくなったが、このような社会的地位の獲得によってアジア系が社会的主流になることはなかった。問題が起こってもコミュニティ内で解決しようとする傾向が強く、むしろ他の有色人種に比べて体制に順応的な場合も多く見られたことで「見えないマイノリティ(Invisible minority)」と呼ばれる存在になった。 例えば、140万人のアジア系が居住しているニューヨーク市ではマイノリティの1/4をアジア系が占めているが、ビル・デブラシオ市長が示す「マイノリティ」は主に「Blacks and Browns」で、アジア系はマイノリティ支援からは「見えない」ゆえに外されることが多いという指摘もあった(※1)。アジア人に対する偏見は存在するが、人種問題を論じる時にも十分に取り上げられないことが多いという典型例である。しかし特に2020年のCOVID-19(新型コロナウイルス)の流行以降、アメリカ・ヨーロッパでのアジア系に対するヘイトクライムは目に見えて増加しているという(※2)。

 ニューヨーク市警の報告によれば、アジア系へのヘイトクライムの増加率は9倍以上。ロンドンやパリといったヨーロッパ大都市でも同様の現象がニュースになっている(※3)。3月16日にはジョージア州アトランタで白人男性がアジア系のマッサージパーラーを相次いで銃撃し計8人が亡くなる事件が起こり、韓国系カナダ人であるEPIK HIGHのTabloや元2NE1のCLがSNSで「#stopasianhate」を呼びかけた。

 昨年からのCOVID-19の世界的な流行により、不確定で先の見えにくい不安をぶつけるためのスケープゴートとしてアジア系全般が直接的な標的にされており、映画『クレイジー・リッチ!』で主演をつとめたヘンリー・ゴールディングやデザイナーのフィリップ・リムなどアジア系セレブ達も「#stopasianhate」のハッシュタグと共に行動を起こし始めているが、BLM(Black Lives Matter)運動と比較すれば現状ではその注目度が大きいとは言えないだろう。BTSを含むK-POPアーティストのほとんどはアメリカやヨーロッパの「社会の一員」ではなく、あくまで「外タレ」ではありながらその壁をインターネットの力で壊した存在とみなされているはずだが、BTSの件においてもダイレクトなリアクションを起こしたセレブリティ達はスティーブ・アオキやMAX、ホールジーやザラ・ラーソンなど、過去にBTSと一緒に仕事をした経験のあるアーティストに現状では留まっている。

 また、欧米圏でのアジア系に対する人種的な偏見以上に「K-POP」というカルチャー自体に対しては、「アイドル」という存在に対する偏見と「オンナコドモの文化」に対する無意識下の偏見という幾重にも重なった差別的な視線が存在する。これは欧米圏に限った話ではなく韓国内ですら存在するものではあるが、K-POPが市場で存在感を表すようになるまでの過去20年近く「アイドル」「アイドルファンダム」をメジャーなカルチャーとして育ててくることが出来なかった欧米圏では特に顕著と言えるだろう。

 例えば、『Teen Vogue』は以前からBTSに対する欧米圏でのレイシズム的トピックには活発に反応してきたメディアであるが、「BTSがプレティーンの少女達やマイノリティだけの間で人気という見方は偏見であり、実際は様々な人種や年代のファンがいる」「彼らの評価が『人気』に終始しがちで音楽的な評価がされないのはゼノフォビア的」という視点は、正しい部分もあるがやはり「アイドル」や「オンナコドモ文化」に対する偏見も含んだ目線も感じざるを得ない(※4)。

 BTSの場合、アメリカの韓国人及びアジアコミュニティに所属していないままファンになった人々がSNSを媒介に多様な人種と民族、都市にまで拡張し結合したことは、韓国の大衆音楽の限界とされてきた言語的・地域的な壁を崩す大きな要因となった。SNSを通じて自発的にBTSを広報して熱狂するファンダムの形はアメリカの既存の音楽市場では新しいタイプのものであり、既存メディアが知らなかった魅力的な市場でもあった。しかしこの過程において、実際に2016年ごろまでのK-POPやBTSのファンダムは「アジア系・有色人種の若年層」が多く、それがその後時間をかけてより広い層まで拡大していったものでその時点でもすでにビルボード200にはチャートインしており、アメリカ国内ではアリーナツアーを行う規模の人気はあった。そして、BTS自身のパフォーマンスやファンに対するアティテュードそのものに当時と大きく変わったことはない。大きく変わったのはファンダムの規模や多様性であって、そのような外部的な要因により注目を受けたことを「評価」されるべきであるとすること、そのような「プレティーンやマイノリティに人気」という事実や言い回しをネガティブに捉えることそのものが、欧米圏の「アイドル」という存在に対する偏見と言える。ファンダム側からもよく語られる「アイドルの枠を越えている」「そういうファン層だけではない」という擁護も、彼ら自身のアイデンティティである「アイドル」やアイドル文化そのものに対する偏見からは逃れられていない。

 「アイドル」は音楽・ダンス・ビジュアル・メンバーのキャラクターや関係性など様々な構成要素が含まれる多様な側面を持つ総合型エンターテインメントであり、それぞれのみを切り離してそれぞれを技能的面や「アート」として単独で「評価」することは不可能ではないが、そこだけではむしろ本質には迫れないというのは「アイドル文化先進国」である日本や韓国ではすでにある程度のコンセンサスがあると思われる。これらはファンダムの感情面では「メンバーへの好感」に集約され、それ故に「この人がパフォーマンスするからより感情にダイレクトに作用する(価値がある)」という強力なフィルターが存在することこそが「アイドル」の特徴でありアイデンティティのひとつでもあると言える。それを最大限に増幅させるための楽曲やパフォーマンスのクオリティであり、クオリティゆえに人気が出るわけではないが、クオリティと人気の間に因果関係がないわけがない。そのような「アイドルならでは」の特殊な捉え方やフィルターを単にネガティブなものとして捉えたり、あたかも存在しないように振る舞うこと自体がK-POPやそのグループに対する偏見と言ってもいいだろう。「K-POP」は音楽のジャンルではなく「アイドル」という大きなパフォーマンス様式と文化の中の一部であり、まずその「アイドル」という存在はどういうものなのか、そしてその中でK-POPがやってきたことや独自性はどのようなものなのかということ自体への理解がない段階では、「K-POP」をどのような面からであれ「評価」できるような立場にあるとは言えないのではないだろうか。

 3月15日に発表されたグラミー賞でBTSは最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス部門の受賞を逃したが、過去のグラミー賞でも数多くの「ボーイバンド」がノミネートされてはきたものの、受賞は逃している。Jonas Brothersは2回ノミネートされたが受賞なし、One Directionはノミネート自体されたことがない。Backstreet Boysに至ってはBIG4と呼ばれる最優秀アルバム賞(アルバムオブザイヤー)や最優秀レコード賞(レコードオブザイヤー)、最優秀新人賞(ベストニューアーティスト)を含む9回ノミネートされているが、一度も受賞していない。「ボーイバンド」のアーティストが「評価」されるには、最優秀ポップソロパフォーマンス賞を受賞したハリー・スタイルズや過去10冠を獲得しているジャスティン・ティンバーレイクのように、ソロパフォーマーとしての存在感を示す必要があるようだ。ポップデュオ/グループパフォーマンス部門自体が2012年から始まった歴史の浅い部門だが、過去の受賞者の半分以上がソロアクト同士のコラボで元々のデュオやグループが単独受賞したのは2組しかおらず、ソロアーティストと比較した時、グループで活動するアーティストに対する評価自体が高いとは言えないようだ。

 「アジア系の男性はセクシーな存在ではないという偏見を変えつつある」というのも欧米圏での「K-POP擁護」に出てきがちな言い回しであるが、これもまた「アイドル」のファンは対象をセクシーに見ているという偏見に基づくものと言える。日本や韓国でも誤解の多い部分だが、確かにアイドルに対してそのような目線で好感を持つファンは少なくないにしても、特にK-POPでは一般的な「グループアイドル」に関してはその限りではないだろう。

 また、インターネットやSNSと結びついてファンと密なコミュニケーション(と感じさせるよう広報)を長年行ってきたK-POPは、現代におけるYouTuberやTikTokerのようなパラソーシャル関係=「メディアに登場する人物との間に相互関係があるという聴衆側の錯覚」という擬似的な社会関係にあるファンダムを築きやすい。パラソーシャル関係においては、実際には相手のことをよく知らないにも関わらずその関係性が親密であると思い込んでしまう場合もあり、これは特別に親密な気持ちを特にファンの側に抱かせやすいが、実際に見えているのは相手が見せようと思った面だけであり、この関係性はリアルの人間関係のような相互的なのものではない。ゆえに強い親近感と同時に強い排除感も与えやすく、結果的にアンチ的な感情をも生みやすいと言える。早期にネットが発達した韓国のアイドル文化においては「アンチ」の存在が大きく、2013年には「ファンダムは、自分の歌手を愛し他人の歌手を嫌う経験があることによって政治を知っている。 世論をどうやって説得しなければならないか、また、何をどのように排斥しなければならないのかを知っている。 混乱を予測して作る方法を知っている。 それゆえに『ファン活動は即ち政治活動』だという批判もある」(※5)という分析があった。実際、K-POPが海外で広がっていった背景には先述の「SNSを通じて自発的に広報して熱狂するファンダムの形」という韓国のアイドルファンダムのやり方を欧米圏に持ち込んだK-POP特有の「ファン活」スタイルと、パラソーシャル関係が重視されがちなユースカルチャー内での世界的な雰囲気も絡まり合い、数ある「ファンダム」の中でも特に国を問わず「アンチ」が発生しやすい状況でもあると言える。

 このように、欧米圏でのBTSを含む「K-POPアイドル」の受け入れられ方には、幾重にも重なった偏見がついてきている。かつて日本のアニメやゲームなどの「オタク」が「weaboo」という名前で呼ばれたように、主にK-POPのファンに対する「koreaboo」という呼称も生まれた(この言葉に含まれる蔑称のニュアンスを逆手に取り、あえて名乗っている「Koreaboo」というメディアも存在する)。

 しかし、これらはK-POPが注目を集めたことで今まで目に見えづらかった部分が様々な「偏見」として現れてきたとも言えるだろう。「存在しない」とされている段階ではそれを排除することはできないため、可視化されるようになったことは変化への第一歩かもしれない。日本ではある程度ジャンルとして定着はしているが、やはり人気や注目度と比例して人種差別的な言説や偏見助長のための材料とされることも増えてきている。これらの「表層化」をきっかけに、ポジティブな変化を促すアクションが増えていくことを期待したい。

※1:https://www.fox5ny.com/news/the-invisible-minority-asians-in-new-york-city
※2:https://www.afpbb.com/articles/-/3266066
※3:https://edition.cnn.com/2021/02/27/us/new-york-initiative-anti-asian-attacks/index.html
※4:https://www.teenvogue.com/story/bts-criticism-xenophobia-in-disguise
※5:イ・ミンヒ『팬덤이거나 빠순이거나』

■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
ブログ「サンダーエイジ」https://nenuphar.hatenablog.com/
Twitter(@djutakata)

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